政治講座v1742「イランがイスラエルを攻撃した国際政治の舞台裏を垣間見る」
実に、興味深い事件である。これがイランがイスラエル攻撃をした国際政治の舞台裏である。網の目のように絡み合った関係は一筋縄では解れないのである。
第一次世界大戦の引き金となった事件を俯瞰してみよう。
それは、1914年6月28日、ユーゴスラヴィア民族主義者(英語版)の青年ガヴリロ・プリンツィプが、サラエヴォへの視察に訪れていたオーストリア=ハンガリー帝国の帝位継承者フランツ・フェルディナント大公を暗殺した事件(サラエボ事件)だった。
これにより、オーストリア=ハンガリーはセルビア王国に最後通牒を発するという七月危機が起こった。各国政府および君主は開戦を避けるため力を尽くしたが、戦争計画の連鎖的発動を止めることができず、瞬く間に世界大戦へと発展したとされる。そして、それまでの数十年間に構築されていた欧州各国間の同盟網が一気に発動された結果、数週間で主要な欧州列強が全て参戦することとなった。
今回のイランの攻撃はイスラエルがイラン大使館を爆撃したことの報復であるが、報復をしないと国内政権が瓦解・混乱を防止するために米国などの各国に事前通告の上のデモ攻撃と捉えることができる。第三次世界大戦への拡大を懸念した理性的に抑制した対応であることが想像できるのである。今回はそのほんの一例の報道記事を紹介する。
皇紀2684年4月19日
さいたま市桜区
政治研究者 田村 司
イランはなぜイスラエルを攻撃したか 衝突避けたい本音と今後の焦点
聞き手・真野啓太2024年4月14日 19時12分
イランは14日、イスラエルに対し、数百機のドローン(無人機)やミサイルを使った攻撃を仕掛けました。かねてイランはイスラエルとの直接衝突には慎重だと言われてきましたが、なぜ今回、攻撃に踏み切ったのか。イラン政治が専門の松永泰行・東京外国語大学教授に聞きました。
――今回の攻撃をどう受け止めましたか。
私の知る限り、イランからイスラエルへ直接攻撃するのは今回が初めてです。そもそもイランがイスラエルまで届くミサイルを持ったのは、この10年ほどとみられます。
――なぜイランは今回、攻撃に踏み切ったのでしょうか。
4月1日にシリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館がイスラエル軍によって空爆されました。この攻撃に対する報復だとしています。最高指導者のハメネイ師以下、イランの高官らは報復を宣言していました。問題は攻撃のタイミングやその形態でした。
結果として、攻撃は非常に抑制的だったと思います。大使館への空爆で、イラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」の司令官ら7人が殺害されました。革命防衛隊の中でも上位15人に入るような高官も含まれていましたが、今回の攻撃は人的・物的な被害を狙ったようなものではありませんでした。
戦争になれば「現体制の存亡に関わる」
――イスラエル軍によると、イランは約170機のドローンと、約120発の弾道ミサイルを発射しました。これは被害を狙っていないのでしょうか。
G7外相会合、イランへの制裁を議論 イスラエルに自制求める動きも
イタリア南部カプリ島=宋光祐2024年4月18日 19時35分
イタリア南部カプリ島で開幕した主要7カ国(G7)の外相会合は18日午前、参加国の外相らによる本格的な議論に入った。イスラエルへの報復攻撃に踏み切ったイランへの制裁が最大の焦点になる。ウクライナ情勢では、G7としてあらためてウクライナへの全面支援を打ち出す。
会合は19日まで予定されており、最終日には共同声明の採択を目指す。議長国イタリアのタヤーニ外相は18日の会議の冒頭、「我々はイスラエルの友人であり、中東地域の緊張緩和を望んでいる」と表明。シリアにある自国の大使館への攻撃をめぐって、イスラエルにドローン(無人機)などで報復を行ったイランに「何らかの制裁を科す必要がある」と述べた。
一方で、G7の外相はイスラエルに対する自制の要求を模索している。会合に先立って、ベアボック独外相とキャメロン英外相が相次いでイスラエルを訪問。イランへの報復を検討するイスラエルに対して、紛争の拡大につながる行動を控えるように求めたとみられる。
ロシアによるウクライナ侵攻では、G7各国が凍結した約3千億ドル(約46兆円)に上るとされるロシアの資産をウクライナ支援に活用する方法を話し合う。しかし、資産の没収を主張する米英に対し、フランスやドイツは慎重な立場で、G7の中での意見は割れている。
日本からは上川陽子外相が出席しており、17日夜の夕食会では、アジア唯一のG7メンバーとして、インド太平洋地域の国々との連携強化に向けた日本の取り組みを説明した。(イタリア南部カプリ島=宋光祐)
イランの攻撃を「99%」迎撃 米高官が明かした防衛の内幕
毎日新聞 によるストーリー
「10日ほど前から準備し、イランの攻撃を打ち負かすことができた」。イランによるイスラエルへの攻撃では、計300発以上の無人航空機(ドローン)やミサイルが撃ち込まれたが、イスラエルは米軍などの支援を受けて「99%」を迎撃した。防衛に成功した背景には何があったのか。米政府高官が14日、報道陣に内幕を明かした。
米国は「イランが大規模な攻撃を準備している」との情報を把握して間もなく対応に着手した。バイデン大統領の指示のもと、イスラエルのほか、パートナー国と連絡を取り合いながら想定される攻撃に備えた。高官は「もしこの攻撃が成功すれば、紛争が制御不能なほどに拡大しかねないと肝に銘じてきた」と振り返る。
バイデン氏は一日に何度も最新状況の報告を受けた。8~14日の岸田文雄首相の訪米中も、行事の途中でオースティン国防長官がバイデン氏に駆逐艦などの追加配備について説明し、バイデン氏がその場で承認することもあった。
またバイデン氏がイスラエルのネタニヤフ首相にパレスチナ自治区ガザ地区での人道状況の改善を強く迫った4日の電話協議でも、最初の議題は「イランによる攻撃」だった。米国はこの頃には、事前情報を持っていたとみられる。
攻撃が始まったのは米東部時間13日午後。イランだけでなく、イランの代理勢力が拠点とするシリア、イラク、イエメンからもドローンなどが発射された。
高官は攻撃について「中距離弾道ミサイル100発以上、巡航ミサイル30発以上、ドローン150機以上だった」と説明。イスラエルと米国のほか、英国やフランスなども防衛に加わった。迎撃はイスラエル領空だけでなく、周辺国の上空でも行われ、「交戦範囲はかなり広かった」という。
地中海東部に展開する米軍の駆逐艦2隻が弾道ミサイル4~6発を破壊し、米軍機が70機以上のドローンを撃墜した。イラク北部でも米軍の地対空ミサイルが弾道ミサイル1発を迎撃したが、大半の弾道ミサイルはイスラエルの防衛システムが撃ち落とした。
バイデン氏は滞在していた東部デラウェア州の別荘から急きょホワイトハウスに戻り、地下にあるシチュエーションルーム(作戦司令室)から情勢を見守った。「100発以上の弾道ミサイルがあと数分でイスラエルに着弾するという差し迫った場面」もあり、高官は「防衛が成功したと分かった時は安堵(あんど)した」と話した。
米国は国交がないイランとも、米国の利益代表となっているスイスを通じて意思疎通していたという。高官は、イランから攻撃の事前通告は「なかった」と明言する一方、イランから攻撃中に「これ以上の攻撃はない」と示唆するメッセージを受け取っていたことも明かした。【ワシントン松井聡】
イスラエル「戦時内閣」、深まる相互不信 イランへの反撃にも影響か
1 時間 • 読み終わるまで 1 分
【カイロ=佐藤貴生】イランの攻撃を受けたイスラエルで、「戦時内閣」のメンバー間の関係が冷え込み対立が深まっているもようだ。ネタニヤフ首相の独断的な姿勢がその背景として指摘されている。イランへの反撃を巡る協議が熱を帯びる中、メンバーの相互不信が方針決定に影響しかねないとの見方もある。
戦時内閣の主要メンバーは与党リクードの党首ネタニヤフ氏と野党・国家団結党を率いるガンツ前国防相、リクード所属のガラント現国防相の3人。通常の政権と違い戦闘を巡る重要事項だけを扱う。昨年10月、イスラム原理主義組織ハマスの奇襲を受けた直後に発足した。
米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版)は16日、戦時内閣は「決断すべき多くの重要課題で争っている」とし、イランへの反撃やハマスとの戦闘に「影響が及びかねない」と報じた。
同紙は政府当局者らの話として、ネタニヤフ氏がハマスとの戦闘方針を単独で決める傾向が強まり、ガンツ、ガラント両氏が反感を強めていたと伝えた。それが鮮明に示された局面があった。
ネタニヤフ氏がパレスチナ自治区ガザの最南端ラファへの本格攻撃に意欲を示し、バイデン米政権との溝が深まっていた3月、ガンツ、ガラント両氏が個別に米国を訪問し、高官らと会談したのだ。
長い軍務経験がある2人が、最大の武器支援国である米国との関係を重視していることが明らかになり、ネタニヤフ氏との隔たりが際立った。
米国の意向を考慮する戦時内閣のメンバーに対し、ネタニヤフ連立政権に参加する極右政党は、イランに対し「粉砕するような反撃を行うべきだ」(ベングビール国家治安相)などと強硬論を訴えている。
ハマスの奇襲を許し、ガザに連行された人質も救出できないネタニヤフ氏は各種世論調査で支持率が低下しており、次の国会選では退陣を迫られる可能性が高い。選挙を回避して政権を維持するには極右政党の支持が不可欠だ。
自らの政治生命か、あるいは対米関係か。イランへの反撃を巡るネタニヤフ氏の選択は、国の行く末をも大きく左右する。
“報復の連鎖”懸念高まる イランがイスラエルを初めて直接攻撃
4/14(日) 18:50
イランは13日夜、イスラエルに向けてドローンや弾道ミサイルを発射しました。直接の攻撃は初めてで、「報復の連鎖」につながる懸念が高まっています。
■イランがイスラエルを初めて直接攻撃
赤い光は次々と建物を直撃。夜空で爆発も起こります。
午後11時すぎ、イスラエルの各地にドローンやミサイルによる大規模な攻撃がありました。
「平和の街」を意味するエルサレム上空にも…。 イスラエル軍 報道官 「イランはイラン本土からイスラエルに向け直接攻撃を開始した。自爆ドローン、弾道ミサイル、巡航ミサイルがイスラエルに発射されている」
史上初めて行われたイランによるイスラエルへの直接攻撃。
背景にあるのは「報復」です。
イラン最高指導者 ハメネイ師 「悪意のあるイスラエルの体制はさらに過ちを犯した。それは在シリアイラン大使館への攻撃だ。大使館が攻撃されるということは我々の国が攻撃されたことになる」
1日の大使館への攻撃によってイランの革命防衛隊の司令官らの死亡が確認されていました。
キャスター 「イスラム革命防衛隊による占領地の目標に対する大規模なドローン作戦が数分前に始まりました」
国民はお祭り騒ぎ。
イラン側は「この問題は完了した」と、大使館攻撃に対する報復は果たしたという考えを示しました。
数十キロの爆薬を積んだ「自爆型のドローン」。
こうしたドローンやミサイルは合わせて300以上が発射されたといいます。
イスラエル側は…。 イスラエル軍 報道官 「イスラエルをイランの攻撃から守るために我々の防衛システムで飛来ミサイルの大部分を迎撃しており、巡航ミサイルや弾道ミサイルも同時に迎撃し続けている」
その瞬間もカメラに捉えられていました。
イスラエル軍は防衛システムにより、イランから発射されたミサイルやドローンの大部分を迎撃したと発表しました。 軍の施設やインフラへの被害も軽く、負傷者は数名だったといいますが、南部では7歳の少女が重傷を負ったそうです。 イスラエル ガラント国防相 「イスラエル軍は我々のパートナーであるアメリカ軍とともに迎撃した」
バイデン大統領は週末の予定を切り上げ、ネタニヤフ首相と電話会談を行いました。 アメリカ バイデン大統領 「アメリカはイランに対するいかなる攻撃にも参加せず、そのような作戦を支援する考えはない」 イスラエル ネタニヤフ首相 「分かった」
バイデン大統領は地域紛争に発展することを強く懸念し、イランへの反撃に反対する意志を示したといいます。
ただ、ネタニヤフ首相はイランへの報復を明言。現地メディアによりますと、「前例のない対応計画」を取る方針だといいます。
今後、中東情勢はどうなっていくのでしょうか。専門家は…。
慶応大学 錦田愛子教授 「鍵となるのはイスラエルがどの程度、報復をするか。ただイスラエルはガザでの戦闘を抱えているので、(ハマスとイラン)二正面作戦は避けたいというところはある。(イランとの)全面的な戦闘がすぐに始まることはないと思う」
国連の安全保障理事会はイランによるイスラエルへの攻撃の対応を協議するため、日本時間の15日に緊急会合を開く予定です。
イランがイスラエルへ報復攻撃 次の焦点はイスラエルの対応
4/18(木) 10:26配信
4月1日にシリア・ダマスカスのイラン大使館領事部が軍事攻撃を受け、イランのイスラム革命防衛隊(IRGC)の重要人物が殺害された。攻撃対象や目的、手段、そして過去の事例などに照らし合わせて、この重大な国際法の侵害は、イスラエルによる犯行以外には考えられないことは明白であった。 特に、標的となったIRGCのザへディ准将は、イスラエルが対応に手を焼いてきたレバノンの武装勢力ヒズボラとIRGCをつなぐ要の人物として知られていた。イスラエル北部国境の脅威であるヒズボラの能力を低減させることは、ガザ侵攻作戦を展開するイスラエルにとっては、計り知れない戦略的重要性を持っていた。
外交施設への攻撃は、イランが示唆したレッドラインとしての「本土」を侵したことになる。今年1月下旬に、ヨルダンの米軍前線基地で米兵3人がUAV(無人機)攻撃によって殺害された際、バイデン大統領は攻撃主体であったイラクの民兵組織を支援するイランの連座責任を問うと公言。これに対しイランのハメネイ最高指導者は、米国の攻撃が「イラン本土」に及べば、イランは徹底した反撃と報復を行うと警告している。
これは暗に、他国にあるイランの関連軍事施設への攻撃に関しては、黙認するかのような意味合いと捉えられ、事実、この時の米国の攻撃はイラン本土に及ばず、イランは他国にある自国関連施設が攻撃を受けたことについては口をつぐんだため、当時、イランと米国の間に高まった緊張や一連の相互攻撃はそこで終息した。その点では、イラン本土の「飛び地」に相当する外交施設の破壊は、イランが米国に発したメッセージを逆手に取る、イスラエルによる危険な挑発行為であった。
■「徹底抗戦」の手前 イランは、昨年10月7日に起きたパレスチナ武装組織ハマスによるイスラエル領内への越境テロ攻撃以降も、イスラエルとの直接的な交戦と米国などによる軍事介入を回避することを目指してきたが、今回は「本土」の一部が攻撃を受け、さらには米国やイスラエルの“帝国主義的支配”に対抗する「抵抗戦線」を主導してきた手前もあり、この挑発に応じざるを得ない状況に追い込まれた。それゆえに報復攻撃の実施は必須となり、加えてイランの代理勢力ではなく、イランが直接手を下すことが避けられなくなった。
イランは、自国の安全保障すら危うくしかねない地域紛争化を回避するべく、パレスチナ・ガザ地区に対するイスラエル軍の過剰な自衛権行使を非難する一方で、孤軍奮闘するハマスを突き放し、イラクの親イラン民兵組織を含めた代理勢力(非国家主体)による米軍などへの攻撃を抑制するように努めてきた経緯がある。それが一転してこれらの代理勢力に対して、国連憲章第51条(国連加盟国の個別的または集団的自衛権の保障)に基づく、イスラエルへの報復および自衛権行使を代替させることができなくなったのである。 イランは、4月14日にイスラエルに対して、UAVなどによる攻撃を行った際、紛争をエスカレートさせる意図がないことを明白にしている。イスラエルに軽微な被害が生じたが、迎撃が比較的容易な低速のUAVや巡航ミサイルを多用したことは、そのメッセージの表れだ。だが、イスラエルが今回の攻撃をどう受け止めるかが、今後の動向を決めることとなろう。より広範、かつ烈度の高い紛争への発展を、現段階で完全に否定することはできない。(4月14日時点) (田中浩一郎・慶応義塾大学教授)
イランのイスラエル攻撃、約5時間続き収まる 米分析
2024.04.14 Sun posted at 14:58 JST
(CNN) イランが13日夜に踏み切ったイスラエルへのドローン(無人機)やミサイルの大規模攻撃で、米政府当局者は約5時間続いた攻撃は14日未明には収まったようにみられるとの情勢分析を示した。
イスラエル軍の民間防衛司令部は14日未明、市民に対し避難場所近くでの待機要請を解除した。攻撃が起きるとの差し迫った脅威が低減したとの判断を示すものとみられる。
米政府当局者は、発射されたドローンやミサイルの数は14日未明になって減った兆候があるとした。その上で、さらなる攻撃につながり得る動きへの監視は続けている。
ただ、対レバノン国境付近では同国の親イラン組織「ヒズボラ」が14日未明、多数のロケット弾をイスラエル北部へ浴びせる攻撃を仕掛けた。
イスラエル軍のハガリ報道官は14日未明、イランは自国内から多数の地対地ミサイルをイスラエルへ向けて発射したと説明。大半をイスラエル国外で撃墜したと述べた。
幾つかがイスラエル領内に落下し、同国南部の軍基地への着弾もあったと明かした。施設への被害は軽微とした。イスラエル空軍機が国外で10発以上の巡航ミサイルを、多数のドローンも国外で迎撃したとも続けた。
一方、イスラエルの救急医療組織(MDA)は、イランの攻撃が直接の原因となった負傷者が発生したとの情報はないと述べた。
攻撃が起きてMDAが手当てを施した住民らは計31人としたが、避難場所へ向かう際やパニック状態に陥った際に負ったものとし、いずれも軽傷だったとした。
MDAはこれより前に、イランの飛行体を迎撃するミサイルの破片が当たった7歳の少女が頭部に重傷を負い、病院へ搬送されたとも伝えていた。
“イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ”をイランは想定していたか――大空爆の3つの理由
六辻彰二 国際政治学者 4/15(月) 17:14
イランがイスラエルに300発以上のドローンやミサイルを打ち込んだが、そのほとんどは迎撃された。
イスラエルの安全保障専門家は「空爆でイスラエルに実害を与えることが困難」とイランがわかっていた公算が高いと指摘する。だとすると、いわばショーのような大空爆は、軍事的な効果より政治的な意味合いの方が大きかったといえる。
イランがイスラエルにこれまでにない規模の空爆を行ったが、ドローンやミサイルのほとんどは迎撃された。
しかし “空爆の効果は低い”とイランが想定していた可能性も指摘されている。だとすれば、なぜ今イランは大空爆に踏み切ったのか。
300発以上の前例のない空爆
イランは4月13日夜から14日未明にかけてイスラエルを空爆した。
約170機のドローンと120発余りの弾道ミサイルを用いたこの空爆は、これまでイランが行ったことがないほど大規模なものだった。イランとイスラエル、そしてアメリカとの対立は根深い。イランは1979年のイスラーム革命以来アメリカと対立し、その支援を受けるイスラエルとも敵対してきた。1980年代以来、レバノン南部を拠点とするイスラーム組織ヒズボラはイスラエルと衝突を繰り返してきたが、このヒズボラを支援してきたのがイランだ。さらに昨年からのイスラエル・ハマス戦争では、ヒズボラだけでなくイエメンのフーシ、そしてガザを拠点とするハマスなど、イスラエルと敵対する各地の勢力(いわゆる「抵抗の枢軸」)が、イランの支援を受けていると言われる。イラン政府は公式にはこれを否定している。
また、イラン隣国のイラクやシリアでは昨年以来、駐留米軍に対するイランのドローン攻撃が相次いでいた。
“成果は乏しい”と想定していたか
とはいえ、イランがイスラエルを直接、しかもこれほど大規模に攻撃したことはかつてない。
そればかりか、イランの攻撃は軍事的な効果はかなり限定的だった。ドローンやミサイルのほとんどは、イスラエル、アメリカ、ヨルダンなどの防空システムによって迎撃されていたからだ。
イスラエル国防省によれば“99%”撃墜されたという。独立以来、周辺国との間で戦火の絶えなかったイスラエルの防空システムは世界屈指のレベルにあり、あながち誇張でもないだろう。
しかし、ここでの問題は「損害をほとんど与えられない」とイランが予測していた可能性だ。
イスラエルの諜報機関モサド出身で、現在はイスラエル国立安全保障研究所に務めるシーマ・シャイン研究員は英ロイターの取材に「イスラエルの防空システムが非常に強固であることも、ほとんど損害を与えられないことも、イランは考慮していたと思う」と述べている。
さらに、イランが大きな軍事的アクションを起こすことは、事前に広く察知されていた。
実際、各国政府は事前に現地在住の自国民や観光客に警戒を促し(理由は後述)、多くの航空会社がイスラエル便をキャンセルするなどの対応をとっていた。
こうしたなか、なぜイランは“成果が乏しい”と見込まれる攻撃にあえて踏み切ったのだろうか。
そこには主に3つの理由があげられる。
①「報復と懲罰」というメンツ
今回の空爆の直接的な理由は「報復と懲罰」だった。
シリアの首都ダマスカスにあるイランの施設が4月1日、イスラエルにより空爆されて7人の死者を出したが、このなかにはイラン革命防衛隊の高官2人も含まれていた。
その一人ザヘディ将軍は昨年10月7日のハマスによる大規模な攻撃にも関与していたとイスラエル当局はみている。
革命防衛隊はイランの正規軍ではなく政府直属の武装組織で、レバノンのヒズボラをはじめ各地の反イスラエル勢力に対する支援の中核にあるとみられている。
革命防衛隊の高官が死亡したことを受けてイラン世論は激昂したが、これまで反米、反イスラエルを叫んできた手前、イラン政府もこうした世論を無視できず、「懲罰」を宣言していた。
こうした文脈で読み取れば、前例のない規模の空爆の一因には、イラン政府の国内向け「メンツ」があげられる。
ほとんどのドローンやミサイルが撃墜されながら、イラン政府は攻撃を「成功」と宣伝している。
もっとも、これを真に受ける市民ばかりではなく、イラン政府はあくまで政権支持者に向けてアピールしているとみた方がいいだろう。
②イスラーム世界での存在感
第二に、イスラーム各国をイスラエル封じ込めに巻き込むことだ。
ほとんどのイスラーム各国はガザ侵攻をめぐってイスラエルを批判しているが、実際には経済取引の制限すらほとんどしていない。サウジアラビアはイスラエルとの国交正常化交渉の最中で、ガザ侵攻があっても基本的にその方針は維持されている。
「パレスチナ支持」の大合唱とは裏腹に、ほとんどの国はイスラエルとまともにやり合うリスクを避けているのだ。
こうしたなか、イランの最高指導者ハメネイ師は4月11日、イスラーム各国政府に向かって「イスラエルへの対抗」を呼びかけた。
つまり、前例のない規模の空爆で緊張を高めることにより、イランはイスラーム各国に協力せざるを得なくさせようとしているとみられる。
昨年10月7日、ハマスは大規模なイスラエル攻撃を行ったが、それまでにないインパクトによってイスラーム各国を引き込もうとした点では基本的に同じといえる。
イランによる空爆は、少なくともイスラエル軍の猛攻にさらされるガザでは、英ロイターによると、イランによるイスラエル空爆が概ね歓迎されている。
イスラーム世界でも、イランによるイスラエル空爆を政府レベルで歓迎する国は、ほとんどない。実際、サウジアラビアやエジプト、トルコなども「緊張のエスカレートへの懸念」を表明している。
それでも、どの国もイランの動向を無視できなくなったという意味で、前例のない規模の空爆による政治的インパクトを見出すことができるだろう。
③ロシアへの“脅迫”
最後に、ロシアへの突き上げだ。
ロシアはイランと軍事協力協定を結んでおり、4月1日にイラン高官が死亡した事件では「政治的殺害」とイスラエルを批判した。
ただし、ロシアとイスラエルの関係は決定的に悪化しているわけでもない。
冷戦終結後、旧ソ連から多くのユダヤ人がイスラエルに移住したこともあり、ロシアとイスラエルは比較的良好な関係を保ってきた。
ガザ侵攻後、プーチン政権はイスラエルをしばしば批判するようになり、関係は冷却化したが、それでも経済取引や人的交流は続いている。
ウクライナで忙殺されるロシアは中東への関与を控えているとも指摘される。
この微妙な関係を反映して、イスラエルもウクライナ向け軍事援助をしていない。
このロシアの態度が、イスラエル攻撃の先頭に立つイランを苛立たせたとしても不思議ではない。とすると、イランはロシアを逃れられなくする必要がある。
こうしてみれば、空爆でイスラエルを挑発することは、どちらにつくかの踏み絵をロシアに踏ませるだけでなく、プーチン政権にもっと強いコミットメントを求める効果があるといえる。
イスラエルはどう動くか
空爆を受けてイスラエル政府では「断固たる対応」が検討されているが、その内容は今のところ不明だ。
一方、米バイデン政権はイランを非難し、イスラエル支援を増やす意向だが、その一方でイスラエル政府に「イランへの報復攻撃には参加しない」と言明し、自重を促した。
エスカレーションを恐れるアメリカが限定付きの協力しかしないなら、イスラエルにとってこれまで以上に戦線を拡大させるリスクは大きい。
かといって、保守強硬派に支えられるネタニヤフ政権にとっては無反応で済ますこともできないが、仮にイランへ大攻勢をかければ、それこそイスラーム各国やロシアがイランに傾く転機にさえなりかねない。
とすると、イランが行った300発以上の空爆はその直接的な損害こそ大きくなくても、イスラエルにとって悩ましい選択を迫るものであることは間違いない。それがイランの狙いだったかどうかは不明だが。
六辻彰二 国際政治学者
博士(国際関係)。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。アフリカをメインフィールドに、国際情勢を幅広く調査・研究中。最新刊に『終わりなき戦争紛争の100年史』(さくら舎)。その他、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『世界の独裁者』(幻冬社)、『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『日本の「水」が危ない』(ベストセラーズ)など。
参考文献・参考資料
イランはなぜイスラエルを攻撃したか 衝突避けたい本音と今後の焦点 [イスラエル・パレスチナ問題]:朝日新聞デジタル (asahi.com)
G7外相会合、イランへの制裁を議論 イスラエルに自制求める動きも [イスラエル・パレスチナ問題]:朝日新聞デジタル (asahi.com)
イスラエル直接攻撃「最高指導者に強硬派の圧力」 識者 スティムソン・センターのスラビン氏 - 日本経済新聞 (nikkei.com)
イランの攻撃を「99%」迎撃 米高官が明かした防衛の内幕 (msn.com)
イスラエル「戦時内閣」、深まる相互不信 イランへの反撃にも影響か (msn.com)
“報復の連鎖”懸念高まる イランがイスラエルを初めて直接攻撃(テレビ朝日系(ANN)) - Yahoo!ニュース
イランがイスラエルへ報復攻撃 次の焦点はイスラエルの対応(サンデー毎日×週刊エコノミストOnline) - Yahoo!ニュース
イランのイスラエル攻撃、約5時間続き収まる 米分析 - CNN.co.jp
“イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ”をイランは想定していたか――大空爆の3つの理由(六辻彰二) - エキスパート - Yahoo!ニュース
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