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政治講座ⅴ1639「戦狼外交を挫く反論の裏舞台」

歴史を振り返ると現代の中国共産党の末路が見えるようである。
戦国の秦の商 鞅の比類なき功績で天下の統一礎を築いたが、そのような絶頂であった商鞅だが、強引に変法を断行した事により太子の傅を初めとして商鞅を恨む人間を大量に作っていた。彼らの多くは旧来の貴族であり、変法によって君主の独裁権が確立されると彼らの権限が削られていくので商鞅を恨んでいた。恵文王の厳命でその遺骸は黽池で見せしめとして車裂の刑に処せられ、身体は引き裂かれて曝しものとなった。腐敗・汚職の摘発で綱紀粛正を行っている習近平氏を商 鞅に準えると中国共産党の権力闘争の餌食になるように思える。商鞅の死後に法治体制と富国強兵が定着して、秦の始皇帝は天下統一するのであるが15年後に滅びるのである。
今回は「国内」だけでなく近隣諸国に覇権主義をまき散らしているならず者国家と言われる中国の「戦狼外交」についての外交官の解説の報道記事を紹介する。

     皇紀2684年2月18日
     さいたま市桜区
     政治研究者 田村 司

中国「戦狼」外交には公然と反論を 山上信吾前駐オーストラリア大使「主戦場は在外公館」

取材に応じる山上信吾前駐オーストラリア大使=東京都港区(原川貴郎撮影)© 産経新聞

昨年12月に外務省を退官した山上信吾前駐オーストラリア大使が産経新聞の取材に応じた。山上氏は豪州で高圧的な戦狼外交を展開する中国の外交官の「攻撃」に対処してきた経験や、公然と反論することに消極的な外務省の組織的な問題点などについて語り、それらを16日発売の『中国「戦狼外交」と闘う』(文春新書)にまとめた狙いを説明した。

外交官同士が密室でディール(交渉)する外交は過去のものであり、今や広報などを通じて相手国と自国の国民に直接働きかけるパブリック・ディプロマシー(広報文化外交)の時代だ。国民の広い理解と支持がなければ、強力な外交を展開できない。そのためにも「暗闘」とも呼ぶべき激しいやり取りが繰り広げられる、外交の舞台裏を知ってもらいたいと考えた。

そして「首脳外交」が重視される現在でも、外交官、特に大使はこれだけのことができるんだ、と伝えたかった。外務省へのエールでもあり、叱咤(しった)激励でもある。

中国の戦狼の攻撃を初めて受けたのは、2021年7月の全豪記者協会での講演の直後だった。講演自体は中国の「中」の字も出さず、日豪関係の現状と展望を概観した。だが、質疑応答で記者の関心は、豪州に激しい経済的威圧を加える中国への対応にあった。

そこで10年の尖閣諸島(沖縄県石垣市)沖の中国漁船衝突事件で中国人船長を拘束したことに反発した中国がレアアース(希土類)の対日輸出を制限したことに触れ日本が米国やEU(欧州連合)と協力し、WTO(世界貿易機関)の紛争解決手続きを通じて措置を撤回させたことが参考になると話した。これを豪メディアが報じると、中国大使館が報道官声明で私の発言を暴言となじり、激しく批判した。

また、23年1月、オーストラリアン紙が1面に掲載したインタビューでは、前年の豪州の政権交代後、中国が「微笑外交」に転じつつあったことを踏まえ、豪州向けに「お気をつけ遊ばせ」とのメッセージを込めた。中国の大使がこれに過剰反応し、年頭記者会見の場で「日本大使は自分の仕事を適切にしていない」と痛罵した。

北京の指導部の目を意識した自己アピールの側面が今の戦狼外交にはあるとみているが、一言で言うと、どちらも売られた喧嘩だった。私は日本のものの見方を説明したまでだ。日本大使は適切に仕事をしていない、とは余計なお説教だし、失礼だ。日本大使を下に見ている。

ここまで言われたら、こちらも言わなければならない。ただ、オーストラリア人に痴話げんかだと受け取られては意味がない。彼らが日本大使に軍配を上げるよう、中国大使と同じ土俵に立つのではなく、懐の深いところ、さらに言うと中国とは所属するリーグが違うのを見せつける。これを心掛け、豪メディアの取材を受けて反論した。

もともと取材の機会を利用し、日本の立場をわかりやすく発信することを信条としてきた。当時はかつて中国になびいていた豪州が中国の経済的威圧も経験し、日本との関係を再評価しつつあった時期でもあり今、打って出ないと、いつ打って出るのかという思いもあった

ただ、私のように積極的に任地のメディアで発信・反論する日本の大使は極めて少数派だ。理由は複合的で、自分で論理を構成し、人前で意見を発表する機会がほとんどないという日本の学校教育の問題も一つだろう。そして外務省の中に、インタビューに応じ、反論することを評価しようという空気がないことも大きい。だから誰もあえて火中の栗を拾おうとしない。

残念ながら豪州にも一部の反日勢力の言説に乗せられ、旭日旗は「軍国主義の象徴」と誤解する人々がいる。誤解を払拭しようと、大使館での自衛隊記念日レセプションの機会に陸海空の三自衛隊旗を掲揚することを発案したが、この企画を止めてきたのは、驚くなかれ、当時の森健良外務事務次官だった。

彼は中国に強く物申せないところがあり、22年8月、ペロシ米下院議長の訪台に反発した中国が行ったミサイル演習で、史上初めて中国のミサイルが日本の排他的経済水域に着弾した際に、駐日中国大使に電話するだけで済ませてしまった。こんなことでは中国の戦狼たちに足元を見られてしまう。

外交の主戦場は在外公館だ。だが、今の外務省は本省と在外公館が遊離してしまっている。日本外交を強くするために、問題提起をしていきたい。

山上信吾(やまがみ・しんご)

1961年生まれ。東大法学部卒。84年4月、外務省入省。国際法局条約課長などを経て、2007年8月から約2年間、茨城県警察本部警務部長。その後、外務省国際情報統括官や経済局長などを歴任し、20年11月から23年5月まで駐オーストラリア大使。同年12月、退官。現在、TMI総合法律事務所特別顧問や外交評論家として活動する。

垂前駐中国大使インタビュー① 日中関係、「戦略的互恵関係」と何千回唱えても解決しない

2024/2/15 08:00

原川 貴郎

昨年12月に退官した垂秀夫前駐中国大使が産経新聞のインタビューに応じ、日中両政府の「戦略的互恵関係」について「具体的な問題の解決につなげていかないと意味がない」と訴えた。垂氏は中国での幅広い人脈や情報収集能力に定評があり、インタビューでは、「国家の安全」を最優先する中国の内政や邦人拘束などに触れているほか、旧民主党政権時代の知られざるエピソードも語った。気骨あふれる外交官として知られた垂氏のインタビューを4回にわたって掲載する。

日本は脇に置いておけば

――昨年11月、米サンフランシスコで日中首脳会談が1年ぶりに開かれ、岸田文雄首相と習近平国家主席が「戦略的互恵関係」を再確認した

「私の個人的見解では、昨年後半、中国はもともと日中首脳会談を開くつもりはなかったと思う。米中首脳会談をやっておけば、日本は米国に追随してくるから、脇に置いておけばいい。これが彼らの見方。11月のバイデン米大統領と習氏の米中首脳会談の4、5カ月ほど前から、米中はものすごく接近していた印象がある」

「私の同僚であった(駐中国米大使の)バーンズさんも、一時期はほとんど中国の要人に会えなかったのに、昨秋は閣僚クラスにぼんぼん会えた。中国側がどんどん『OK』を出したからだ。米国側も閣僚を相次いで北京を訪問させた。北京にいて米中接近を強く感じた」

「米中関係は、ずっと闘争と安定を繰り返してきた。戦略的には互いを闘争相手として捉えているが、闘争ばかりやっていられないので、戦術的、短期的には、お互い常に踊り場を探そうとしている。米中が互いにサンフランシスコでの首脳会談を目指して接近するのを見て、日本が取り残されるのはまずいと思った。『戦略的互恵関係』を再確認するということで、日中首脳会談は何とか滑り込みで開くことができた」

戦略的互恵関係の経緯

――既存の日中の枠組みを再確認した

「別に『戦略的互恵関係』でなくてもよかったのかもしれない。ただ、日中の事務方で違う言葉を探す時間的な余裕はなかった。日本側にすれば安倍晋三元首相が使っていた言葉だし、中国側もこの言葉を再度使いたがっていた。昨年の春ごろから、王毅共産党政治局員兼外相からこの関係に戻ろうというメッセージが出ていたからね。これを受け、私は戦略的関係の再確認を提唱したわけだ」

「王氏は、日中首脳会談後、公明党の山口那津男代表と会見した際に、『垂大使はよくやった』と言ってくれましたよ。ただし、お題目のように『戦略的互恵関係』と何百回、何千回と唱えても何も解決しない。中国側のアプローチに乗っかったが、日本としては、具体的な問題の解決につなげていかないと意味がない。今がまさに一番大事なときだ」

――「戦略的互恵関係」は首相だった安倍氏が平成18年10月の訪中時に提起した。このコンセプトが生まれた経緯は

「その年の7月に当時の谷内正太郎外務事務次官から呼ばれて、日中関係についての構想を考えるようにと宿題がおりてきた。谷内さんは当時の安倍晋三官房長官と随分話をされていて、安倍さんが首相になってから中国を重視することをご存じだった。そこで『戦略的』という言葉を提案した。中国は2国間関係のフレームワーク(枠組み)を重視するからだ」

関係悪化の中国側の認識

――駐中国大使として北京に着任したのは令和2年秋。同年春まで習氏の国賓訪日計画が進むなど良好だった日中関係はその後、悪化した。この間の変化を最前線でどう見てきたか

「その年の夏に辞任された安倍さんの後を菅義偉前首相が継がれたが、それですぐに関係が悪くなったわけではない。中国は中国で関係を継続していきたいというメッセージは出していた。しかし、より大きな構図の中で、米中関係の対立が相当前面に出てきた。日本は米国との同盟関係があり、それは日中関係に影響してくる」

「また、昨年、日本はG7(先進7カ国)の議長国だったが、既存の国際秩序を変更するような中国の動きには、G7として意思表示をせざるを得ない。中国側からすれば、そうしたことも日中関係に影響してくるという部分がある」

「また、岸田政権が令和4年末に策定した国家安全保障戦略は、中国を『これまでにない最大の戦略的な挑戦』だと認定した。国際政治経済秩序に対する中国側のチャレンジだけでなく、尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺での動きや日本海での中露の軍事演習を見れば、われわれがそのように認識するのは当然だ」

「だが中国側からすれば、日中関係のフレームワーク、大きな土台を日本側が崩したという認識になる。米国が主導する動き、とりわけ日米関係やG7の動きの中で日本が米国に追随し、日中関係を変質させたという認識になる」

安倍元首相の手段

――岸田首相も習氏との会談に強い意欲を示していた

「やはり首脳会談は必要だ。習氏の一強体制の中国では、他の人間にいくら何を言っても、習氏に会わなければ意味がない。安倍さんもそれをよく理解していた。短期的な側面だけを見ると、安倍さんは相当中国寄りになっていた時期もあった。第三国で日中協力をやったり、中国の巨大経済圏構想『一帯一路』に関しても、中国側が喜ぶようなことを言ったりもしていた」

「でも、それだけで終わっていない。そうしたことも踏まえて習氏と親しくなることは安倍さんの目標ではなく、手段だったと思う。個人的関係を築くことで、日中関係のいろいろな問題を動かそうとした。例えば安倍さんが邦人拘束事案を会談で取り上げると、習氏はまず『自分たちは法治国家だから法律に基づいて処理する』と答える。おそらく応答要領に書かれていて、これは中国側は誰でも言うことだ。だが、習氏はその後に『しかし、中日関係の大局を考えて対応したい』とも言った」(聞き手 原川貴郎)

垂前駐中国大使インタビュー② 今の中国は経済発展以上に「国家の安全」を重視している

2024/2/16 08:00

原川 貴郎

垂秀夫前駐中国大使は産経新聞のインタビューで、日中関係が悪化した原因は日本にあるという中国側の思考方法を明かしていった。そして、中国側が「経済発展」よりも「国家の安全」を重視する内情にも切り込んだ。

「大きな環境」を重視

――中国は東京電力福島第1原発の処理水を「核汚染水」と呼称して日本産水産物の輸入を停止した。邦人拘束事案も相次いでいる

「日本にとって常に大事なのは、そうした個別具体的な問題の解決だが、一生懸命に取り組んでも、中国側が応じてこないという現実がある。中国は、その政治システム、国民性からして個別具体的な問題より、フレームワークを重視しているからだ」

「『大きな環境が整えば、具体的な問題についてはアドレス(取り組み)できていく』。中国人と付き合った人は皆、彼らから聞いたことがある言葉だ。大きな環境が悪かったら具体的な問題がたくさん出てきますよ、というのが彼らの思考方法だ。そしてフレームワークを壊したのは、彼らから見れば日本だということになった」

――中国側の対日認識は理解したが、中国もかなり変質している

「われわれの論理からすれば外交面で、中国はどんどん独善的に変わってきているということだろう。改革開放政策を進めた鄧小平時代の中国は経済発展が最優先で、比較的平和で安定した国際環境を必要としていた。ところが今の中国は経済発展以上に、国家の安全を重視している。あるいは習近平国家主席自身が中国共産党の正統性のために、中国を強くするとか、中華民族の偉大な復興だとか、人民を鼓舞するようなことばかり言っている。それが行き過ぎた結果が(高圧的な)『戦狼外交』だ」

アヘン戦争の被害者意識

――経済発展より国家の安全を重視しているのか

「例えば今、中国のビザを取得するために、申請書にたくさんのことを書き込まなければならない。上司の名前と電話番号、前の上司の名前と電話番号、その前の上司の名前と電話番号、義父の名前と電話番号‥。父親が亡くなっていても書かないといけない。なぜこんなことをしているかといえば、スパイに入ってほしくないからだ

「一方で中国の地方政府は、投資を呼び込もうと日本企業に盛んに働きかけている。でも、日本企業関係者が中国に行こうかと思っても、ビザ取得のためにそれだけ煩雑な手続きを強いられる。矛盾しているでしょう。なぜかというと中国にとって国家の安全が最重要とされるからだ。経済発展と国家の安全が衝突した場合は、後者が優先される」

――被害妄想では

「その通り。どれだけ豊かになっても、どれだけ強い国になったとしても、1840年のアヘン戦争以降の被害者意識の発想から抜け出すことができない。抜け出せないどころか、ますます強くなっている感がある」

科学技術・治安維持の力

――中国経済は失速している。不満は中国共産党に向かないか

「以前だと、経済不振はそのまま社会不安につながったが、今は2つの理由でそれが抑えられている。一つは、科学技術の発展が全体主義国家に対して親和的に機能していることだ。私は日本に帰ってきて何が一番楽かというと、外出先で携帯電話をテーブルの上にでもどこにでも気軽に置けることだ」

「中国にいたときは、遠くに置くとか、電波を発しないよう特別な布の袋に入れるなど、いろんな対策をしなければならなかった。位置情報が分かるし、時には携帯電話が盗聴器になる。それから至るところに監視カメラある。(全体主義国家の恐怖社会を描いた)ジョージ・オーウェルの『一九八四年』のような世界だと考えてもらえばいい」

「もう一つは公安の力と情報機関の力、つまり治安維持の力がものすごく強大になったことだ。以前は経済が悪いと社会不安という大きな爆弾の導火線にすぐに火が付いた。ところが今は湿っていて、いくら火を付けようとしても、なかなか付かない。それと中国共産党は大学にも行けず、就職もできないような、地方の若者らをすごく上手に、よく言えば『教育』している

「これは推測だが、もし世論調査をしたら、相当数は中国共産党を支持するだろう。都市部の富裕層や教育水準が高い人たちはあまり支持していないが、数的には、いわばこうした『負け組』の方が多い。そういう層に対して、強いリーダーだとか、強い中国だとかという教育が効いている

「だから習氏は国内の状況についてわれわれが考えるほど大変だとは思っていない可能性がある。科学技術や治安維持の力で、社会が安定していると思っているためだ。国家の安全が第一という観点からは、経済の状況がちょっと悪くても、国の運営はうまくやれていると認識しているのではないか」

処理水巡る中国の誤算

――日中間の個別の懸案を挙げると、福島第1原発処理水を巡る中国の「戦狼外交」は、ほとんど賛同を得られず中国にとってもマイナスだったと思うが

「処理水の件で中国は2つ見誤ったと思う。あれだけ海洋放出に反対したら多くの国がついてくると思ったところほとんどついてきていなかった。これが一つ目の誤算。もう一つはIAEA(国際原子力機関)にどこが資金拠出しているかというと一番は米国で、2番目が中国。にもかかわらず、彼らから見れば、IAEAの対応は〝日本寄り〟に見える。これがもう一つの誤算だ」

――中国は引っ込みがつかなくなっているのでは

「上げた拳を下すことができない。なぜかと言うと、彼らにとって、一番重要なのは今や経済建設ではなくて、国家の安全だ。国家の安全の中には習氏がとても大事にしている『生態環境』も含まれている。その観点からみたら、隣の国で『汚い水』を流しているのは許せないという発想になる」(聞き手 原川貴郎)

垂前中国大使インタビュー③ 邦人拘束「自分の両親、兄弟、子供と思って対応を」

2024/2/17 08:00

原川 貴郎

垂秀夫前駐中国大使は産経新聞のインタビューで、中国が圧力を強める台湾情勢にも言及した。垂氏は「将来的に懸念すべきは中国による本格的な海上封鎖、経済封鎖だ。軍事による統一は、最後の最後の最後の最後だろう」との見方を示した。

任期中に助けられず

--昨年3月、反スパイ法違反容疑でアステラス製薬社員の邦人男性が拘束されたのも「国家の安全」が関係しているのか

「一部の方は、邦人拘束事案が大騒ぎになったから、中国はこれから少し慎重になって、簡単には拘束しなくなるんじゃないかと言うが、それは甘い逆にますます厳しくなる。国家の安全の概念の中に『反スパイ』が重要な要件として入っているからだ」

--北京を離任する直前の昨年11月28日、拘束されている男性と初めて垂氏自身が領事面会した

「それまで大使館の同僚が7回面会していたが、男性は私もよく知っていて、中国日本商会の副会長も務めた人物だ。当初よりこの事案は日中関係に大きなインパクトを与えることになるのが予測された。毎回、領事面会に出向いた同僚に『気を落とすな』『政府としてもがんばるから』とメッセージを託していた」

「ところが、私が面会しないまま、後になって大使が交代したと知ったら、がっくりされるでしょう。『残念だけど帰国することになった』と自ら報告しないといけないし、自分の大使任期中に助けることができなかったことをおわびするのが人の道だと思ったわけです。こうした領事案件については大使館内で『自分の両親、兄弟、子供が巻き込まれたと思って対応しよう』と何度も指示していました。皆、相当ついてきてくれたと思います」

日本経済のプレゼンス

--邦人拘束など中国は日本の常識が通用しない。リスクがある、普通ではない国なのだから、経済界は自主的に中国から引いた方がいいのでは

「それは産業によるのではないか。企業アンケートでは、少なくとも投資を増やそうとしている企業は1割ぐらいで、すごく少ない。大体4割から5割ぐらいが投資を減らそうとしている」

--徐々にそうした流れが出ている

「少なくとも投資についてはそうだ。それでもやっぱり産業にもよる。産業によって対応が変わってくるであろう。売るだけなのか技術を中国に持っていって製造するのか狙われている技術なのか必ずしもハイテクでない技術なのか、というようにいろいろある」

「日本経済は中国に相当大きなプレゼンスがある。14億人のマーケットからすぐに全部撤退ということにはならないし、現実的でない。そうなったとしても、間違いなく欧州、米国がそこを埋めてくる。他の国だってしたたかですよ

--中国でのビジネスは予見しがたいことが多く、避けた方がよいのでは

「まあ、そうですね。国家の安全を重視しすぎると、今後はそういう考え方が強くなってくるとは思います」

偶発的な事故の可能性も

--中国の経済不況は「台湾統一」をめぐる中国の動きに影響するか

「あまり関係ないのではないか。われわれは中国が不況で大変だから、国民の不満を外交や台湾問題で解決するのでは、と安易に考えがちだが、そうした発想が出てくるのは国家運営で経済建設を優先させてきた鄧小平時代の中国を想定しているからだ

「今は国家の安全を最優先に掲げる習近平の中国だ。習氏が、自分は社会を安定させて国家運営をうまくやっていると思っていたら、台湾問題で人民の不満を解消しようとは考えない。将来的に台湾問題で懸念すべきは、中国による本格的な海上封鎖、経済封鎖だ。これの方があり得るであろう。軍事による統一は、最後の最後の最後の最後だろう」

「両岸関係に何にも起きていないときに、中国が急に台湾をたたいたり、海上封鎖も含めて何かやったりするかといえば、やらない。重要なのは、偶発的な事故が起きる可能性があるので、危機管理をしっかりすることだ

「それとともに、台湾自身が、中国に利用される口実を与えないようにしないといけない。台湾が何か口実を与えてしまえば、米国はじめ国際社会も台湾を支援しにくくなる。米国は、ブリンケン国務長官が訪中した際に当然中国に対してクギを刺すが、同時に台湾に対しても、中国に口実を与えるなよ、と相当クギを刺していると思う」(聞き手 原川貴郎)

 垂秀夫

たるみ・ひでお 昭和36年、大阪府生まれ。京大法学部卒。60年4月、外務省入省。国際情報統括官付国際情報官、南東アジア第1課長、中国・モンゴル課長、駐中国公使などを歴任。平成28年に交流協会台北事務所に出向した後、領事局長、官房長を経て令和2年9月から5年12月まで駐中国大使を務めた。


参考文献・参考資料

中国「戦狼」外交には公然と反論を 山上信吾前駐オーストラリア大使「主戦場は在外公館」 (msn.com)

垂前駐中国大使インタビュー① 日中関係、「戦略的互恵関係」と何千回唱えても解決しない - 産経ニュース (sankei.com)

鶴間和幸著 『秦の始皇帝』吉川弘文館 2001.12.1 第1刷発行

鶴間和幸著 「秦の始皇帝の地下帝国』講談社2001.5.15 第1刷発行

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