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政治講座ⅴ1785「ゼレンスキー氏の窮地と民主主義の危機」

 ロシアの独裁政権のプーチン氏さえ、対抗馬を暗殺し不正選挙で当選したと言われている疑義のある選挙せ、民主主義の根幹の「選挙」で正統性が担保されている。しかし、方やウクライナのゼレンスキー氏は大統領の任期が過ぎたので「選挙」を経ないで政権の正統性を維持できるのであろうか。ロシアのプロパガンダに利用されることは間違いなし。
ウクライナ政府は、また「ネオナチが正規軍に組み込まれている世界で唯一の国」としてNATOやEU加盟国より批判されていたが、2022年ロシアのウクライナ侵攻後、「ネオナチ」の問題をロシア連邦政府による侵攻プロパガンダとされ、日本などではウクライナ政府とネオナチ組織の関係性は陰謀論であると報道されたが、ロシアの主張する「ネオナチ」に根拠を与えることを危惧する。
今回はそのような報道記事を紹介する。

     皇紀2684年5月21日
     さいたま市桜区
     政治研究者 田村 司

ゼレンスキー氏、大統領任期が満了 選挙先送りで「正統性」論争も

毎日新聞 によるストーリー

ウクライナのゼレンスキー大統領=キーウで5月10日、ロイター
© 毎日新聞 提供

 ウクライナのゼレンスキー大統領は20日、2019年から5年間の任期の満了日を迎える。ロシアの侵攻が続く中で、今年3月に実施予定だった大統領選は先送りされ、実施のめどは立っていない。ゼレンスキー氏は暫定大統領として職務を続ける見通しだが、その「正統性」が論争となっている。

 議論の背景にあるのは大統領選を巡る規定のあいまいさだ。ウクライナでは22年2月のロシアの侵攻開始以降、戒厳令が出されているが、この戒厳令下での選挙は法律で禁じられている。一方、憲法では、大統領選は「任期5年目の3月の最終日曜日に実施する」と定められ、戒厳令下での対応については記されていない。

 憲法は、戒厳令下で最高会議(議会)議員の任期が満了した場合は戒厳令解除まで職務を続けると規定するが、大統領に関してはそのような記載がない。

 こうしたあいまいさから、ゼレンスキー氏に批判的な勢力は、大統領選を実施しないのは憲法違反だと主張する。地元メディア「キーウ・インディペンデント」によると、ゼレンスキー氏の元盟友で数年前にたもとを分かったラズムコフ元最高会議議長は今年2月、ゼレンスキー氏は最高会議議長に職務権限を譲るべきだと主張した。

 先手を打つ形で、ゼレンスキー氏は昨年11月に「今は選挙の時ではない」と先送りの意向を表明している。ロシアは現在、ウクライナ国土の約2割を占領し、東部ハリコフ州などで攻勢を強める。戦禍を逃れて国内外の各地へ避難している市民は多数に上る。こうした状況下での国政選挙の実施は、投票機会の平等、公正性や安全確保の面で課題が多く、実現のハードルが極めて高いのは確かだ。

 世論の後押しもある。キーウ国際社会学研究所の2月の世論調査では、回答者の69%が「ゼレンスキー氏は戒厳令が終わるまで大統領職にとどまるべきだ」と答えた。「選挙をした方がよい」と答えた人は15%と少数派だ。

 ただ、ゼレンスキー氏については、国民からの評価が高かった軍総司令官のザルジニー氏を2月に解任したことなどから、権力の集中を図っているとの批判も出ている。支持率は昨年12月の77%から今年2月には64%に下がった

 ゼレンスキー氏が暫定大統領となるのを見越して、ロシアはその正統性や合法性に疑問を投げかけるプロパガンダを始めているプーチン露大統領は今月17日、ウクライナ側と何らかの合意に至ることがあっても「我々は合法な政権との間で文書に署名しなければならない」と記者会見で主張した。

 対するウクライナ側は、ロシアが3月にウクライナ東・南部4州やクリミア半島などの占領地域でも露大統領選を強行したことについて「非合法」と批判している。【ベルリン五十嵐朋子】

あれっ、ゼレンスキー大統領の任期が5月20日に切れていた!

塩原 俊彦(元高知大学大学院准教授・元新聞記者) によるストーリー

2019年5月20日、コメディアンだったウォロディミル・ゼレンスキーは大統領に就任した(下の写真)。あれから5年。2024年5月20日、ゼレンスキー大統領の任期が切れた。しかし戒厳令の施行を理由に、彼は大統領選を回避し、大統領の座に居座ろうとしている。そんな彼に大統領としての正統性はあるのだろうか。

2019年5月20日、大統領就任式に臨むゼレンスキー© 現代ビジネス

(出所)https://www.president.gov.ua/news/inavguracijna-promova-prezidenta-ukrayini-volodimira-zelensk-55489

ウクライナ法はどう規定しているのか

現行ウクライナ憲法の第83条では、「戒厳令または非常事態が発令されている間にウクライナ議会の権限が失効した場合、その権限は、戒厳令または非常事態の解除後に選出された議会が第1会期の初会合を招集する日まで延長される」と規定されている。だが、大統領の権限については、同種の規定が憲法には存在しない。

憲法第103条では、大統領の任期は5年とされているが、第108条では、「ウクライナ大統領は、新たに選出されたウクライナ大統領が就任するまでその権限を行使する」と書かれているだけだ。ただ、2015年制定の法律「戒厳令の法体系について」の「第19条 戒厳令下における合法性の保証」において、 「戒厳令下では、以下のことは禁止されている」として、
(1)ウクライナ憲法の改正、
(2)クリミア自治共和国憲法の改正、
(3)ウクライナ大統領選挙
ウクライナ国民議会選挙、
クリミア自治共和国国民議会選挙、地方自治選挙を実施すること、
(4)ウクライナ全土および地方の住民投票を実施すること、
(5)ストライキ、大集会、行動を行うこと――という項目が列挙されている。

戒厳令がつづけば大統領に居座れる

この法律を改正すれば、戒厳令下でも大統領選を実施することは可能ということになる。しかし、現実に戦争が継続している以上、国民の安全を確保しながら、大統領選に臨むことは不可能に近い。

そうなると、戒厳令がつづくかぎり、すなわち戦争を継続するかぎり、いまのゼレンスキー大統領がその地位に居座ることができることになる。これが意味するのは、戦争継続による権力保持へのインセンティブであり、大統領の権限に固執するゼレンスキーが、いつまでも戦争を継続しようとするのではないかという懸念を招きかねない。

photo by gettyimages© 現代ビジネス

何度も延長されてきた戒厳令

2022年2月24日からはじまった、ロシアによるウクライナへの全面侵攻後、ウクライナは同日付で戒厳令を開始した。その後、戒厳令は何度も延長され、2024年5月6日に公布された大統領令により、ウクライナの戒厳令は5月14日午前5時30分から90日間延長された。この延長により、またしばらくの間、ゼレンスキーは大統領の座に居座ることが可能となる。大統領選をしなくて済むからだ。

先に紹介した法律「戒厳令の法体系について」では、その第1条において、「戒厳令とは、ウクライナまたはウクライナの特定の地域において、武力侵略または攻撃の脅威、ウクライナの国家の独立、領土保全に対する脅威が発生した場合に導入される特別な法体系であり、脅威を回避し、武力侵略を撃退し、国家の安全を確保し、ウクライナの国家の独立、領土保全に対する脅威を除去し、ウクライナの国家に対する脅威を除去するために必要な権限を、関連する国家当局、軍司令部、軍行政機関、地方自治機関に提供することを規定する」と定めている。

戒厳令の導入手続きは、同法第5条に規定されている。まず、ウクライナ国家安全保障・防衛評議会により戒厳令導入提案がウクライナ大統領に提出され、導入が必要と判断した場合、大統領は政令を発布し、直ちに議会にその承認を求めると同時に、対応する法律案を提出することになっている。このため、戒厳令は大統領の独断専行で導入されたり、延長されたりしているわけではない。ただ、このままでは、戒厳令を理由に、いつまでも民主的な選挙が回避されたままになりかねない。

プーチンの発言

一方、プーチン大統領は、5月16~17日の中国訪問後、ロシアメディアの代表からの質問、すなわち、「任期切れとなったゼレンスキーを正当な大統領とはみなさないのか?」という疑問に対して、つぎのように答えている。

「この質問には、まずウクライナの政治・法制度そのものが答えなければならない。憲法にはあらゆる選択肢がある。これは評価の問題だ。この評価は、もちろん、まず第一に、憲法裁判所によってなされるべきであり一般的には、ウクライナの政治システム自体によってなされるとさえいえる。」

photo by gettyimages© 現代ビジネス

これは、至極穏当な答えかもしれない。民主主義を標榜するのであれば、いつまでもゼレンスキーが大統領のままであっていいはずがない。将来に向けた何らかの政治的ないし法的な措置が必要だろう。そうしなければ、和平協議や停戦よりも戦争継続へのインセンティブが働き、いつまでも戒厳令を継続することで、ゼレンスキーが大統領に居座ろうとする可能性を排除できない。

大統領選を待つ複数の候補者

実は、早期の大統領選を待つ複数の候補者がすでに存在する。2023年1月まで大統領府上級顧問だったアレクセイ・アレストヴィッチは同年11月、大統領選に出馬すると表明した。しかも、その時点で、「大統領選挙の延期は、ウクライナ社会では権力の簒奪(さんだつ)とみなされる」と明言していた。

彼の主張は、ロシアの政権交代までの間、クリミアやドンバスといったロシアによる占領地をロシアに明け渡す一方、北大西洋条約機構(NATO)に加盟し、NATOから政治的・軍事的保証を受け、平和的発展、経済・文化の成長の機会を得ることを提案するというものだ。「ロシアの政権交代を静かに待つ」とか、「ロシア語に対する迫害を止める」といった彼の主張は、ともすれば、「クレムリンのエージェント」と呼ばれる原因となっている。だが、1991年時点の全領土を奪還するまで戦うというゼレンスキーよりもずっと現実的な主張が特徴だ。

もう一人、前大統領で、ゼレンスキーとの決選投票で敗れたペトロ・ポロシェンコも、大統領選への出馬を明言している。ほかにも、2024年2月に軍総司令官を解任され、3月に駐英ウクライナ大使に任命されたヴァレリー・ザルジニーが候補者になる可能性も取り沙汰されている。

アレクセイ・アレストヴィッチ Апостроф© 現代ビジネス

(出所)https://meduza.io/feature/2023/11/02/ya-ne-hochu-chtoby-iz-ukrainy-delali-putinskuyu-rossiyu


ペトロ・ポロシェンコ Фото: Kyodo/picture alliance© 現代ビジネス

(出所)https://www.dw.com/uk/porosenko-planue-brati-ucast-u-viborah-prezidenta-pisla-zaversenna-vijni/a-68732117


ヴァレリー・ザルジニー Oksana Parafeniuk / The Washington Post / Getty Images© 現代ビジネス

(出所)https://meduza.io/feature/2023/11/02/glubokogo-i-krasivogo-proryva-ne-budet-voyna-zashla-v-tupik-ona-mozhet-zatyanutsya-na-gody-i-izmotat-ukrainskoe-gosudarstvo

後ろ向きのゼレンスキー

こうした状況にあるにもかかわらず、ゼレンスキーは選挙に後ろ向きの姿勢を示している。実は、2023年の段階で、ゼレンスキーの率いる与党「人民の下僕」の一部は、憲法裁判所に大統領権限の延長について判断を仰ぐよう大統領府に迫ったが、拒否された。その結果、2024年5月21日以降のゼレンスキーの大統領としての権限行使に大きな疑問符がついたままの状況となっている。

1年前の情報をみると、2023年8月の段階で、米上院議員のリンジー・グラハム(共和党)は、ロシアによる侵攻の最中にあっても、選挙は実施されなければならないと主張していた。同じく、欧州評議会議会のタイニー・コックス議長も同年5月、戒厳令下でも大統領選挙を実施する必要性を主張していた。

photo by gettyimages© 現代ビジネス

しかし、2024年5月20日が近づいても、ゼレンスキー自身、この問題について語ろうとしなかった。驚くべきことに、民主主義国家であるはずの米国や欧州諸国からも、大統領選を実施すべきだとする声がほとんど聞かれなかった。

これがいまの民主主義国家の現状であることを忘れないでほしい。言っていることとやっていることがまったく違うのだ。
 こんな状況下で、どこに民主主義があるのだろうか。


参考文献・参考資料

ゼレンスキー氏、大統領任期が満了 選挙先送りで「正統性」論争も (msn.com)

あれっ、ゼレンスキー大統領の任期が5月20日に切れていた! (msn.com)

2022年ロシアのウクライナ侵攻 - Wikipedia

ネオナチ - Wikipedia

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