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『Need For Speed Heat』レビュー。アメリカのファックな夜のデュオニュソス的狂騒と歓喜と亡きキャサリンの記憶

ゴースト・チームが去年『Need For Speed』の新作を発売するにあたり最大の売りとして提示したのがハイヒートレースだった。それは間違いない。それはあまりにも斬新過ぎるシステムだったのであり、そしてあまりにも俺を絶望の深淵に突き落とすに十分なシステムだった。

前作『Need For Speed Payback(ニード・フォー・スピード・ペイバック)』ではモーガンを主人公に据え、わき役に冷徹なジェス、お調子者のマイケルといったわかりやすいキャラを投入して、わかりやすいストーリーとわかりやすいチューニングシステムで誰でも簡単にギアボックス、ECU、トランスミッション、エキゾースト・パイプのカスタマイズ、改造、それからラッピングやハンドリング操作まで覚えられるような餓鬼向けだったが、今回はなにせヒートレベルが上がるにつれパーム・シティ・ポリスの熱量も変わってくる上、ブレイク、ジョーカー、クラーク、ネッサ、ヌードルというパーム・シティ選り抜きの走り屋を駆逐しながらゴールしなければならない。君にはいかにそれが不条理なことかわかるか?ようやくペイバックのすべての任務を完遂して浮かれていた俺がこのシステムを知った「ファックな絶望」を君は想像できるか?

「おまえのファッキンドリフトは」とこの街を牛耳る腕利きドライバーの一人、クラークが憎たらしく笑った。「所詮カーブのたびスピードが30マイルずつ落ちてんだ。所詮貴様は〝ファックなキーボーダー〟だってことよ。マツダのフロントガラス越しに俺のランボルギーニのケツをありがたく拝んでいるのがお似合いさ。」

が、クラークは俺がファックなガレージで奮発して1キロ大爆発ファッキン・ナイトロ・ブーストを投入していることをまだ知らなかった。アメリカの車狂に振り上げる、磨き上げた蟷螂の斧を。

ファック過ぎる一夜の俺の挑戦。

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ブラック・ウッドハイツで農家の牛がもおもお鳴いていた。メンドサキーズの陸橋の工事が今日も着々と進められていた。晩に伝説が生まれる日の昼とは、いつもこんな風にのどかなもんだ。

■ハイ・ヒート・レースはどういった点がファックか?

ゴースト・ゲームス・チームは最新テクノロジーと年収1000万超のエンジニア数十人を投入して開発した恐怖のシステムで俺の野望の阻止に挑んだ。実際「ファキナシット!」と俺はEIZO32型ゲーミング・モニターを眺めながら200万回もつぶやいたほどだった。シングル・プレイと言って、オンラインよりも難しいじゃねえか。人間業ではないファックAI脳をたっぷり盛り込んだファックレーサーを送り込んで、俺の左手中指薬指小指の奮闘を大いにあざ笑った。

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開催会場が毎夜変わるのもハイヒートレースがファックなところだ。峠、海、山を7分で駆け抜ける「マリオ・ベンジャー」、一気に大都会のビル群から牛の糞が臭う田舎へ疾走してゆく「新たなる地平」、あっという間に勝者と敗者を決するわずか3分弱のダンス「洗礼」、ヘアピンが大腸のように続き〝糞の気分を味わえる〟と評判の「クロス・オーバー」などなど毎夜毎夜ヒートレース会場はランダムに変わる。パームシティのルールは無常で、無情だった。変化に対応できず目を回せば即座に置いてけぼり。うっかりカーブで速度を落としそこなえばその瞬間、死。

速過ぎても遅過ぎても、死。

「貴様の最高の夜の過ごし方は、ハイヒートレースじゃない。」と、クラークが笑ったあとに鼻のニキビ跡をこするのはいつものクセだ。「夜泣きしてママのおっぱいにありつくことさ」

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それから相当ファックなのがパーム・シティ・ポリスの警官たちだ。

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ゴースト・チームはヒートレベル5になったパーム・シティ・ポリスの夜勤マザーファッカーらに強大な権力と向こう見ずな行動力を与え、レース中だろうが自分が死のうが関係なく盛大にカミカゼ・アタックしてくる勇気と、尋常ならざる正義への忠誠心を授けた。それらを躱しながらゴールすることはもはや達芸の域。

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「目立つことは標的にされることよ。」生まれた時の乳母車が、ウイリーしまくりのバリバリに改造したドラッグ・カーの助手席だったというパーム・シティ生え抜きのレーサー、リナが言った。「SNSで数百万のライクとクォートをもらっている時、同時に同じ数だけ敵を増やしていることを私たちは忘れてはいけない。」

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そして、恵まれたタレントがあれば簡単にフェイマスな存在になれると思うのはおめでたいオプティミストだけよ、とのこと。

■俺はセッティングをどうファックしたか?

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やはり〝ファックなキーボーダー〟な俺が定石通りにセッティングしたのでは強者達が運転するアメ車の不健康な排ガスをたっぷり吸い込んで小児喘息でも患うのが関の山だろう。

なにせWASD操作だとステアリングが常に全開になるのだからグリップ走行に勝機はない。フェラーリ、アストン・マーチン、ランボルギーニ、パガーニはもちろん速い。とはいえあくまでそれは絶妙なステアリング操作と繊細なアクセルワーク・ブレーキングワークがあってのことでありハッピー・ハッキング・キーボードの静電容量方式はタイピングには最高の打鍵感を提供してくれてもこれらのわがままな外国産の荒馬を馴らす手綱としては役不足だった。

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Mazda RX-7はその点、キーボードと相性が抜群によい。さすがメイド・イン・ジャパン。2020年現在、世界中で今なお根強いマニアがいるこの伝説のジャパン・カーはフロントとリアに理想的な1:1の重量配分が実現されており、それによってドリフトをかけても車体にかかるヨーを極限まで最小化しカウンターステアを無理にかけずともスムーズに曲がってくれるのが最大の特徴だ。

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俺はこの丸いボディーに敬意をこめてキャサリンと呼んだ(←15の夏、くだらないこの世を生きる「幸福」の意味を優しく俺に教えてくれた女だ(そして「絶望」も))。流石にコンパクトで軽量なロータリーエンジンでは、ホースパワーがファックだからコツコツハイエンド仕様に変えていった。

マシンをセット・アップしたらとりあえずハイヒートレースの候補となりうるそれぞれのコースを繰り返し繰り返し練習するしかない。とにかくコース選択がランダムで運なのが辛い。たった一瞬の勝利の美酒を味わうためと思うと、あまりに割に合わない辛過ぎる日々だった。

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——しかし、どうだろう?

時刻は午前3時38分。完璧なセッティングを終えスターティング・グリッドに並びながらハイヒートレース開始のカウントダウンを聞きつつ、俺は意識をキャサリンの984馬力3.8LのV6エンジン(←276馬力1.3Lのロータリーエンジンを積み替えた)に同化させていきつつ、こう自問していた。

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——一夜限りの運に自分の命を預けて走ることこそ、まさにおまえが子供の頃からひそかに憧れていた人生じゃなかったか?

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■レースで得られたファックとは何か

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そのレースはレースというよりもはやモッシュ・ピットだった。いやモッシュ・ピットでさえなかった。メタリカやドラゴンフォースでもライブ会場をこの晩の俺達ほど熱くはできまい。

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ブレイクは霧の濃い山道の急なヘアピンでクラッシュして首の骨を折り、ジョーカーはレース後半、対向車線を走っていたデリバリーサービスのトラックに真正面から突っ込んで焼け死んだ。

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パームシティポリスは、米空軍の兵隊たちが〝ビッグ・ノーズ〟という相性で親しむ軍用ヘリを出動させてまで俺達にレースをやめさせようとした。ネッサはフィニッシュまでの残り1000ヤードの直線で、2トンの装甲車両の時速150マイルの体当たりを、フェラーリ488 Pista の脇腹へもろに食らい、次の瞬間にはフロントガラスを突き破りながらそのまま天国まで滑空していた。

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しかし俺は絶え間なく浴びせかけられるこうした困難と試練と重たいGをすべて振り払ってパーム・シティのデュオニュソス的狂騒を、平均時速222マイルで駆け抜けたのだった。

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結果は3位。

まずまずだ。リナとヌードルには勝てなかったが、それでも十分ゴーストチームの課したファックすぎる条件をパンで挟んでたっぷり食したと言ってよいだろう。

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ゴール後も、後ろからはパーム・シティ・ポリスが俺を祝福するかのように、パトカーの赤色灯をRX-7の背後に浴びせかけていた。「Thrustmaster T300RS GT EDITION」や「Logicool G ステアリングコントローラー G29」に譲らず、あくまでファックなキーボーダーとしての生き方を貫いたそんなRX7をデコレートするかように。

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そう。これは〝祝福〟だ。

スピードだけがすべてではない。重要なのはマシンの性能がドライバーの環境とマッチしているかだという普遍の真理に到達した俺をたたえる赤ランプ。

俺は強烈な眠気と強烈な興奮を同時に感じながら、朝日が見え始めたパーム・シティの空の下、世界的狂乱を横目に吹く呑気な風とかけっこしながら100メートル超の大ジャンプをかます。

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そしてそのまま5000ヘクタールの広大なアメリカのトウモロコシ畑の草の中へ消えていった。

■まとめ

……と、私は『Need For Speed Heat』というゲームをやって、そのアメリカンな世界にどっぷりのめり込んで楽しみましたという感想文である。

車に関しては素人だからよくわからないまま単語を使っているし、もろもろの描写もほとんどがあくまで適当、現実とはまったく無関係であることはもちろん、ゲームとさえあまり関係ないのである。

とにかく私が言いたいのは、このゲームを80時間くらいプレイしたのにヒート5レベルのレースでどうしても勝てませんでした、ということ。むじい、という一語である。

そこで私は若手育成に回ることを決意し、この記事を通じて君にわが志を託す。暇なときがあったら、こんな風にアクセル踏みっぱなしで夜郎自大な妄想を爆走させながら、私の作れなかった伝説を君が作ってみてくれ。

👆ハンコン。これがあればいいけど、NFSの場合はキーボードでもドリフトさせまくりで闘えないこともない。

👆私の別の記事。ゲーミングPCでやるならこれを読みたい。

👆(2022年の追記)ファックなキーボーダーだった私も、この記事の一年後にハンコンでできる方法を見つけたのである。NFS heatはハンコンに対応しているが、この「劇テク」を使えばキーマップを変えられたり細かなハンドルの感度などを調整できるのでおすすめである。

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👆私はこの〝実体験〟を活かして早速プラモ制作に戻ってゆくのである。

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👆できたのである。

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