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テレワークの生産性は84%、残り16%は企業側の課題かも

コロナ禍でテレワークになる人が否応なしに増えているはずだ。私自身、昨年6月に現職に戻って以降、出社日数は20日に満たないと思う。もちろん週5日勤務している。ほとんどテレワークだ。パーソル総合研究所が1月10日に発表した調査結果によると、テレワークになった人の2/3弱が生産性が下がったと考えており、その平均値は84.1%だったという。

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この数字を聞いて、個々人のテレワーク慣れ、テレワーク最適化でこの辺で頭打ちかも知れないな、と思った。残り16%は「仕事のさせ方」「仕事のしくみ」が変わらないと埋まらないかも、と。調べてみると、それも現実的な額のテレワーク手当導入と、小さな仕事の仕組みの見直しから埋めていけることに思えた。

課題は「機器・通信環境」と「自宅でできない仕事」

テレワークでは生産性が下がっている、という認識は、従業員と企業に共通しているらしい。内閣官房の成長戦略会議 第7回配布資料コロナ禍の経済への影響に関する基礎データ」に、既存調査をまとめた1枚のスライドがあった。労働者の82.0%、企業の92.3%がテレワークでの生産性は低いと評価しており、パーソル総合研究所の調査より残念な数字になっている。

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この数字の出典は独立行政法人経済産業研究所の「コロナ危機下の在宅勤務の生産性:就労者へのサーベイによる分析」「新型コロナと在宅勤務の生産性:企業サーベイに基づく概観」だ。就労者に対する調査は2020年6月下旬に実施され回答数は5,105件、企業に対する調査は2020年8~9月に実施され回答数は1,579件。この中に「在宅勤務の障害・制約」という調査項目もあったので、就労者回答と企業回答を合わせてグラフにしてみた。

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テレワークでの生産性について、よく家庭内に落ち着ける仕事場所がないとか、対面でないとコミュニケーションの質・量がと言われるが、実際に障害と考えられているのはそこが第一ではないことがわかる。特に企業の課題認識のトップ3は(1)自宅のパソコンや通信環境などの設備が勤務先よりも劣る、(2)法令や社内ルールによって、自宅ではできない仕事がある、(3)法令や社内ルールによるものではないが、自宅からでは現実にできない仕事がある、となっていて、いずれも半数以上の企業が挙げている。

企業がお金で生産性を上げられること

まず気になるのが「(1)自宅のパソコンや通信環境の設備が勤務先より劣る」点で、その課題認識があるなら整備すればいいことじゃないかな、と思う。

自宅のパソコンなど買い切りの機器については、リモートワークへの移行のための一時金を支給している企業もある。例えばカルビーは「モバイルワーク手当」(一時金)を新設したと発表した。Yahoo!はこの4月に電子マネーで支給予定(電子マネー給与の実験的性格が強いけど)。mixiは「環境構築支援施策」、SmartHRは「リモートワーク環境を整える手当」を導入したが、この両社は何を買いたいか/買ったかのアンケートを公開していて、やっぱりまずは勤務先相当の環境を整えてるなと思わされる。

電気・光熱・通信費等については、月次の手当として支給される例が多い。おおむね、財源には通勤定期支給を取りやめた分を充てているようだ。

ホンダは10月から、通勤手当の固定支給を廃止し、実費精算に切り替える方針だ。会社の拠点に出勤せず、自宅などで働くテレワークの増加に対応したもので、1日あたり250円の在宅勤務手当も新たに設ける。(略)携帯電話のソフトバンクは9月から交通費を実費とし、月4,000円の在宅勤務手当を支給する。NTTグループも10月から、1日あたり200円のリモートワーク手当を新設する。富士通は、製造拠点を除いてテレワークを基本とし、月5,000円の手当を支払う。

他には、マツダは1日200円の手当を支給、Yahoo!は7,000円を支給している。ホンダ、マツダ、NTTグループの1日200円とか250円という手当は、月間稼働日数を20日とすれば4~5千円に相当する。エンワールド・ジャパンの調査によれば、グローバル企業での支給額はおおよそ5,000円が50%ラインという感じのようだ。調査規模が違うが、カジナビのアンケート調査では平均3,683円で「中でも『2,000円』『3,000円』という回答が多い印象」となっている。例えばパナソニックキリンホールディングスが3,000円だ。

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月次手当については金額を細かく追ってきたけど、これは通信環境を整える時の費用と比較したいためだ。個人宅のインターネット事情はまちまちで、スマートフォンの回線しかない人もいるし、マンションなど隣人の利用状況に応じて不安定になる回線の人もいる。リモート会議では1Mbps程度の帯域を安定して使えることが必要と言われる。これに満たない人に仕事用に追加の回線を用意させるなら、モバイルWiFiの月間データ容量に不安のないプラン光回線などの月額費用は4,000~5,000円くらいにはなるだろう。

SmartHRやミクシィの例を見れば、初期の支度金3万円以内でエンジニアやデザイナーといった職種でも十分に環境を整えている。モバイルWiFiや光回線の費用を調べると、毎月5千円前後の手当てで仕事のための通信回線が整う。はたらく未来研究所の調査によると、通勤定期代の平均は15,170円だったという。それを原資とする手当であれば、3万円以内の支度金と5千円前後の月次手当を導入して「自宅のパソコンや通信機器などの設備」の問題を解消することは十分に可能でリーズナブルなのではという気がする。

企業がしくみで生産性を上げられること

もう一つ、「法令や社内ルールによって、自宅ではできない仕事がある」も気になる。「リモートワーク環境を整える手当」を支給したSmartHRは、昨年4月に「ハンコを押すために出社した」という広告で一躍話題になった。最近他社の人たちとリモート雑談をしていたら「ハンコは急速に不要になったよね、経費精算とか」という話に「でも経費精算のときは領収書持参、出勤なんだよ」「あー、うちもだな」「うちも」という声が続いた。

もう一つよく聞くのは、Windows Updateのために出勤するという話だ。これはVPNを前提としたリモートワーク施策を選んだ企業では、避けては通れぬ悩みらしい。VPN回線がWindows Updateのために圧迫されれば従業員が仕事にならないし、従業員みんなが一斉にWindows Updateをする際の月に一度のピークのために太いネットワーク帯域を確保し続ければ高くつく。

テレワーク中にWindows Updateを実施する場合、限られたVPN帯域がさらに圧迫されることで、利用者の使い勝手が著しく損なわれるだけでなく、業務生産性まで低下してしまっているのだ。

ただ、こうした目的での出勤は、けっこう高くつく。先ほどのはたらく未来研究所の調査によれば通勤時間は平均58.8分、往復で約2時間だ。リモートワーク推奨の喫緊の目的は社内や通勤中の三密回避、出勤率70%削減だから、出勤時も社内でしかできない作業だけを済ませ、できるだけ速やかにラッシュアワーを避けてリモートワークに戻るように指示しているだろう。結果、勤務時間内の移動が推奨されることになる(それはいいことだと思う)。結果、領収書提出するために10分+移動2時間、Windows Updateのために1時間+移動2時間となる(ずいぶん贅沢な従業員の使い方だ)。

「法令によって」とか「法令や社内ルールによるものではない」ものは企業が独自に変えることが難しいけれど、「社内ルールによって」自宅ではできない仕事があるなら、そこはパフォーマンスの稼ぎどころじゃないだろうか。

なんで領収書は手渡しなんだろう。提出に来る通勤費の実費支給だけを考えても、経理部門宛ての宛名印字済み・切手貼付済みの封筒を従業員に配っておいて、郵送させた方が安くないだろうか?なんでWindows UpdateはVPN経由なんだろう。インターネットから直接じゃいけないだろうか?例えば社内検証していないパッチを適用されると困るから、社内WSUS経由でのみ更新させたいんだろうか。もしそうだとしたらWSUSをクラウド上においてインターネット経由で直接接続させるとかできないんだろうか?

「社内のルールによって、自宅ではできない仕事」は、一律とか一括で解決する方法がなくて、一つ一つ検討になっちゃうとは思う。それなりに厄介だ。でも「自宅でできる仕事」と「できない仕事」を持っている人がリモートワークを推奨されると、本当にもったいない移動時間が発生する。小さな仕事であるほど、もったいない。言い換えれば、小さな変えやすい仕事こそ、自宅でできる仕事に変えられないか、検討する価値がありそうに思う。

1%の生産性とは1日5分の短縮である

「1日のタスクが1時間で片づく アマゾンのスピード仕事術」という本に、次のような一節があった。

本書の締めくくりとして、読者の皆さんにお伝えしたいことがあります。それは、「たった5分短縮するだけで良い」ということです。なぜなら、1日たった5分のムダを省くだけで、仕事の効率が1%向上したことになるからです。(略)1日の平均就業時間が8時間=480分だとすると、5分は1%強に相当するのです。

5分に比べたら、2時間の移動時間ってなんて取組みがいのある課題なんだろう。いま手元にないのだけど、たしか「経営者なら2%とか3%の改善が売り上げや利益に直すとどれだけの金額になるか熟知されているだろう」といった旨の話に続いたと思う。5分が1%なら、2時間は24%だ。でも月間に直したら?それでも、月間160時間稼働だとして、そのうちの2時間は1.25%。従業員の出勤理由を一つ減らすたびに、1.25%だ。これ、すごくないかな?

そしてパーソル総合研究所の調査によれば、リモートワークの生産性は該当者実感ベースで平均84.1%だった。100%に満たない分は「出勤理由を一つ減らすたびに1.25%」みたいな数字を積み上げられる伸びしろだ。回答者の1/3以上は生産性が変わらないとか上がったとか答えてるし、「コロナ禍の経済への影響に関する基礎データ」でまとめられている米国での調査では43.5%が生産性は変わらない、41.2%が在宅勤務の方が効率的と答えている。84.1%で頭打ちだとは、ちょっと考えにくい。

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テレワークの生産性は84.1%で頭打ちなんかじゃない。それも「自宅のパソコンや通信環境」や「社内ルールによって自宅ではできない仕事」みたいに即物的に解決できる課題が大きい。これ、朗報じゃないかな?

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