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『公園物語』 その12

骨組みだけで屋根のない、赤レンガのスペースにあるベンチに、
少女が僕から1.5メートルあけて座る。

いつもは何人かと共に行動をする彼女だが、
皆が早めに帰ったために、夕暮れ時に一人だった。

僕は画材を片付けつつ、彼女に話しかけた。

「よう、一人やん」
「はぁ? うるさいわ!」
そんなふうにツンツンしている彼女である。
僕に対しては、触れるものみな傷つける、といった感じなのだ。

カチャカチャと絵の具をしまう音だけがある。
赤く染まっていく空の前で、ゆっくりと時間が流れていた。

しばらくして彼女が、ゆっくりと話し始めた。

それは家で言われた、嫌な言葉。
寂しかったこと、我慢したこと。
苦しかったこと、痛かったこと。

泣きたくなるぐらいに胸が痛くなった。

「え!そんなん嫌やん!」とか僕が言うと、
「アハハ! 別に慣れてるし!」と笑う。
「慣れてるとかちゃうやろ!」
「アハハ、、、」

結局、僕は「そうか、、、。」しか言えなかった。
何もできない、してあげられないことが突きつけられた。

帰っていく背中を見ながら、心の中で祈るしかなかった。


『世界の果てまでイッテQ』というテレビ番組がある。
大好きなバラエティだ。

「僕も世界の果ての人に会いに行きたい!」と思っていた。

南アフリカに行ったことがある。
タイの田舎に行ったことがある。
ラオスの山奥の家に泊まったことがある。

それは日本から見たら地の果てだった。
しかし、そこから見たら、日本が地の果てだと思った。

そして今日、僕は思った。
あの子の家が地の果てなんじゃないか。
今日、ここが、地の果てなんじゃないか。

僕が行かなきゃいけないところは、ここだったんだ。


夜、窓から見える星が綺麗だった。
子どもたちが寝静まった後に、街全体が見える丘の上に歩いて行った。

街は、静かだった。


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