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小説「洋介」 11話

 決意の翌日。

 学校であの子を見つけると、うれしくなって「おはよう!」と笑顔で話しかけた。
僕の前日からの変わりように彼女は驚いているようだった。
そうだった、昨日は気まずかったんだっけ。

彼女は少し照れくさそうに「おはよう」と言ってくれた。
その間に流れる空気に少し緊張した。
でも、自然な流れにゆだねようと決めたのだ。
リラックス、リラックス、感情が自然に出てくるままに。
緊張はあっても、その緊張を押しやるように、喜びが心から溢れ出てきて、表面まで到達する、みたいな感じだ。

 そういえば、話しかけるのはいつも彼女のほうで、僕から話しかけたことはなかったっけ。
そうか、嬉しいな。僕は、好きなんだな。

休み時間ごとに話しかけに行った。
初めは戸惑っていたけど、段々と笑顔で話をしてくれるようになった。
休み時間ごとに楽しくて仕方がなかった。言葉が自然と出てきた。
周りが不思議そうにしていたことに帰り際になって気付いたが、誰とでも仲良くできる彼女の性格はみんな知ってる。
すぐに慣れる。
その日は初めて、河原まで一緒に帰った。


 河原に着いた二人。
話をするでもなく、何かをするでもなく、
ただ土手の坂のところで二人で並んで座って川を眺めた。

 徐々に目の前が赤くなってきたとき、嬉しくて笑顔で、自然に口から言葉が出てきた。

「あの時はありがとう。慰めてくれて」
「うん! 元気になってくれてうれしい!」
「僕、君に感謝してるねん」
「え!」
彼女は笑顔になった。
「今回のことだけじゃなくて、いろいろ。
 一緒にいるのも楽しいし、落ち着くし。僕の中で大事な時間や」
彼女はもっと笑顔になった。まぶしい。
「え、めっちゃうれしい! 
 そんなん言ってもらえるなんて……。
 こちらこそありがとう……。君とおるとなんか落ち着くねんよなぁ」

 空は真っ赤に染まって、夕日がすべてを包んでいた。
世界が僕らを中心に回っているような気がした。
二人のいる場所だけが止まっていて、それ以外は周りで動いているみたい。
二人は今、あの大きな力には包まれているのだ。

自分の存在が大きい感じ、もするし、
なんだか世界の中の小さな二人、という感じもする。
そして大きな力の中で、彼女と僕は混ざり合っている気がした。
もしかすると、自分の頭の中身が彼女の中に全部流れていってしまっているんじゃないかと心配になった。
でも、僕の気持ちがそのまま、そのままで伝わるなら、それはそれでいいかとも思った。
いや、むしろ伝わってほしいと思った。

 好きだってことは、
わざわざ言葉にしなくても、やっぱり今はいいよね。
夕日の力に身をゆだねるように、時の流れにゆだねたい。
自然と出てくるのを待とう。きっと両想いだ。
それでいい。それでいい。

家に帰ってから気づいたが、この日はクリスマスイブだった。

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