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「天才とホームレス」 第15話 『ロケットえんぴつと教会』

僕を除く4人は、水を得た魚のように、売り場を獲得していった。

てっぺいは、あのタバコ屋や、文房具屋にも置いてもらっていた。
スーパーやコンビニなどの、いわゆる「ちゃんとしたところ」には断られたらしい。
挑んだことがすごいと思うけど。

テツ、シュン、ダイチの活躍も凄まじかった。
元々、行動範囲が広く、知っている駄菓子屋も多い。
またポケモンカードネットワークというものが存在し、その範囲は隣町のまた隣町にまで及んだ。

僕らの会社名は『ロケットえんぴつ』になった。

てっぺいがこれでいこうと言って、誰も反対しなかったからだ。
僕もなんかしっくりきたのだ。理由はわからない。
でもてっぺいの閃きは好きだし、信頼できる。

とりあえずの連絡先は牧場にしてもらった。

「お困りごとはありますか?」
というメッセージを牧場名と会社名と共に載せておいたため、
何件か連絡が来たらしい。
だいたいは僕らや牧場のことを聞きたい人だったけど、
農業のことや、牧畜のことを聞きたい人もいた。

最高の滑り出しだった。


てっぺいが急に、
「教会にも置いてもらおう」
と、言い出した。
「え? 教会? なんの?」
相変わらず突拍子もない、、、。

「まあ、いっしょに行こうや!」
と言っていつもの河川敷から上流に向かって歩き出した。

まだ残っている春の陽気が気持ちよかった。
そうだ、このゆったりとした時間の流れが好きだったんだ。
ここ最近の展開の速さに忘れていた。

一時間ぐらい歩いた頃、大きな教会の建物が現れた。
スタスタと中に入っていくてっぺい。相変わらずだ。

中に入ると、礼拝堂の扉が開いていて、荘厳なステンドグラスを通った光が、部屋全体をカラフルにしていた。

「これや、、、」
と、右からてっぺいの声がして横を向くと、
静かな迫力のキリストの絵があった。

「おっちゃんがな、
 ここにも時々来てるねん。神父さんと仲良いらしい。
 前におれも着いてきたときにな、この絵を見たんや」
ふぅっと、てっぺいが息を漏らす。
「そんときなんか、
 おれって、なんか、泣きたかったんかなぁって、思ってんよなぁ」
てっぺいは大人びた顔をしている。

反対側を見ると、そのキリストの絵とは正反対の、激しい迫力の絵があった。
筆の動きがわかるような、ダイナミックな絵だ。
僕はこの絵の方に見とれてしまった。

「こんにちわ〜!」
そこに黒人の神父が立っていた。なんだか驚いてしまった。
なんというか、エネルギーが漲っている。しかもファンキーな笑い方をする。
「よ〜! おっちゃん!
 やっぱこれいい絵やな〜」
こいつ、この人にもおっちゃんなのか。
「お〜! てっぺい! そうでしょう、いいでしょう!」
「ほんまなぁ。
 あ、こいつはゆきや。
 そんで、このジャーキー置いてほしいねん〜」
「あ、いいですよ〜! おおー! これはてっぺいの会社ですか?」
「そうやで〜。こいつといっしょにやってんねん〜」
「いいですね〜。がんばってね!」
ノリがいい。

「ゆきやもよろしくね! またおいでね〜」
「あ、はい。よろしくお願いします」
「おお、まじめね。礼儀正しい!」
ハハハと笑う神父とてっぺい。
「さっき、君が見ていた絵ねぇ。
 ある女の子が10代の時に描いた絵だよ。
 今はずぅっと立派になって、画家になってるけどね」
「え! そうなんですか! すごい、、、」
「ハハハ、いいね。そうだよ。
 10代って言っても18歳とかだけどね。
 君たちも頑張ってね〜」

僕らの3倍もあるような大きな手で、がっちりと握手をして、
その黒人神父は大きな声で僕らを送り出したくれた。
ジャーキーは入り口の台のところに置いてくれた。

「てっぺいはあそこ、よく行くのか?」
帰り道、聞いてみる。
「いや、3回目ぐらいやなぁ。
 おっちゃんと行ったのもそんなに前じゃないし」
さっき拾ったテントウ虫と遊びながら答える。
「そうか〜。神父さん、なんかすごいな」
「ハハハ、ほんまやなぁ。
 かっこええよなぁ」
「あー、かっこいい、、、
 いや、たしかにかっこいいな!」
なんか言いたかったことにぴったりハマった気がした。

「おれなぁ、いつかアートも巻き込みたいねん。
 おれらのビジネスに」
「ほう! そうなのか!」
初耳だ。
「あの絵、みたいな絵を、みんなで見たいなぁって。
 そんでみんなの感想聞きたいなって。
 そんでいろんな絵を描く人が、いろんな絵を描いて、
 それをみんなで見れたらなって、なぁ」
なるほど、、、

「いいじゃん、それ」
と、僕がいうと、てっぺいは恥ずかしそうで嬉しそうだった。

並んで歩く二人の前に、大きな青空が広がっていた。



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