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小説「洋介」 8話

 石を浮かせられるようになったと、僕は確信した。
その方法を掴んだ、と。
あれから何度も、石を浮かせることに成功した。
特に意識していないが、いつも浮いてくる石は同じな気がする。

しかも、どんどん早くなっている。
浮かせるまでの一つ一つのポイントも言葉にして理解できている。
うれしい。
特に何がしたいとかじゃないけど、うれしい。

さらに熱心に、毎日夢中になって練習した。
練習は河原でのみ、ほかの場所では特にやろうとは思わなかった。
できる気もしなかった。

 僕はこの力を「夕日の力」と呼ぶことにした。

クラスのあの子は、毎日は来ない。でも週に2回か3回はきた。
僕らは同じ時間に学校が終わってる、はず。
なのに河原につくのは僕より彼女の方がずっと遅かった。
彼女は人気者なんだ。

いつも、石が浮いて、力の流れの循環が始まってきたころに声をかけられるので、「今かよ…」と思いつつも、にやけている自分がいた。

彼女が来たら練習は終わり。
座ってゆっくり話しているだけだ。

 二人でいるときは、いつも彼女がよくしゃべる。
特に重要な話はない。
ときどき、「この人はなんのためにここにきているのだろう」と思ったけど、言って嫌われたくないし、一緒にいることのは僕も居心地がよかった。
特に夕日の当たって光ってる彼女は綺麗で、
彼女にも夕日の力があるんじゃないかと思った。あればいいなと思った。
でも特に夕日の力について話すことはなかった。
ただ夕日に包まれているこの世界を、二人で楽しんでいた。

季節はもう12月。
クリスマスが近いのに、二人でいるときはポカポカと暖かかった。
夕日の力に愛されている二人だ、と思った。

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