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デザインのひきだしNo.46表紙 箔押し加工について ②彫刻版(肉付箔押し版)作成

前回はデザインのひきだしNo.46 の打ち合わせからデザイン決定までを追いました。

さて、デザインも決定したのでいよいよ箔押し版作成にとりかかります。
今回表紙で使用された版は

  1. 彫刻版

  2. 腐食版

の2種類です。
そもそもなぜ「デザインのひきだし」は2種類の版で押されたのでしょうか?
それはこの2種類の版の得意な箔押し表現がそれぞれ違うからです。
特徴をざっくりまとめると下記の通りです。
彫刻版(肉付版)
深さの違う有機的な立体感のあるエンボスを伴った箔押し表現が得意。
また、質感を表現するような微細な加工も得意とする。
機械彫刻のため納期がかかる&高価

※ちなみにエンボスと箔押しを同時にできる版を弊社では肉付箔押版(にくづけはくおしはん)と呼んでいます。箔同時エンボス版なんて言ったりもします。
今回表紙に使用されたのはこの肉付版箔押版です。
エンボスのみの場合エンボス彫刻版と呼んでいます。

腐食版
チェンジングや彩光腐食など微細な箔押し表現が得意。
最大で2段階の深さを出すことができる。丸みを帯びたエンボスなど有機的な表現は不可。
金属を腐食して作成するためデータ作成期間を除けば1~2日で作成可能&安価。


詳細についてはデザインのひきだし46にそれはもう分かりやすくまとめてありますので是非ともご覧いただきたいです(丸投げ)。

また、こちらコスモテックさんの圧巻のnoteは箔押し工程のみならず版についても非常に詳細に書いておられるので是非ご覧いただきたいです!!


今回は表紙に使用された彫刻版が作成された経過を制作者へのインタビュー形式で追っていきます。

肉付版セット(左が樹脂製凸版 右が真ちゅう製凹版)


今回彫刻版のデータ作成・切削を務めたのは機械部NC課です。
NC課は今回の彫刻版のように、意匠性の高い加飾物のデータ作成からマシニングセンタによる切削までを請け負っている課です。
これまでに数々の彫刻版を手掛けてきた実績があります。
今回の版作成を担当したOさんに作成の経緯をお伺いしました

ーデザインのひきだし完成品見ましたか!?どう思いました

見ました。いや、単純にすごいな、と思いました。
こんなに大きな版で深さも・柄の複雑さも違うモチーフをきれいに箔押しされているのはさすが(コスモテックさん)だと思いました。

ー禿同です。では、最初に彫刻版のデータを見た時はどう思いましたか?

いや、無理やろ、と思いました笑
あんなに近い距離にサイズや複雑さが全然違う柄が並んでいるのはやったことがなかったから。きれいに箔押できる版を作成するためには、単にデータを作成するだけでなく、版の深さや角度にかなり調整が必要だと思いました。

彫刻版のみのデータ

ー先方のデータから、3Dデータを作成するまでの手順を教えて下さい

元々のデータに画像データが多かったので(コイン、レンチ、イカ、バスケットゴールなど)まずはそれをトレースする作業をしました。
これは上司のY部長が一人でやってくれましたね。

―トレースとはどんな作業ですか?

写真を鉛筆でなぞるように、画像をデータ上で線にしていくかなり大変な作業です。これの出来が後々の工程にもかかわってきます。

―(地味大変そう・・・)そのあとは?

今回はモチーフが多かったので6人ぐらいで手分けしてレリーフ(3Dデータ)をつくっていきました。それぞれが作成したデータを統合して、柄の密集度などを考慮しながら微調整を繰り返しました。

ーデータを作成するうえで特に難しいモチーフとかありましたか?

うーん、どれも難しかったけど笑
実在しないモチーフとかは、先方からの指示があるものの、データを作る人のイメージに委ねられるところもあるからどんな表現にするか悩みました。

抽象的なモチーフ

あとは、イカ!これ一つのモチーフだったらもっと盛り上げることができるけど、近くに細い柄もあるし、そっちが上手く押せなかったら困るので、他の柄との兼ね合いを見ながらここが一番浮き出るように設定しました。
そもそもどのモチーフをとっても単体で難しいやつばっかりなんで、それが密集してるっていうのはかなり難易度が高かったです。

特に頭を悩ませたイカのモチーフ

ーその高さの設定や調整は経験によるものですか?

経験ですね。今まで色々やってきた中でこれぐらい浮きあげると箔が付かない、とかこれまでの実績で。
柄によって細くしたり太くしたり・・・ただ機械的に凹凸を作ったわけではないです。
最終の3Dデータをクライアントに提出して、OKが出たので切削に取り掛かりました。

できあがった3Dデータ
先方からは完成が楽しみ!!と太鼓判を押されました!

切削工程で大変だったことは何ですか?

切削工具が通常よりもめちゃくちゃ多かった!!!
今回細かい柄が多かったので細いカッターを多用したのですが、
細いカッターで全部削ると当然進捗が遅くなるから太いカッターも必要。
何度もカッターを付け替えなければいけないので、それもあって加工時間が長かったです。

マシニングで切削しているところ

―凸版作成用元型(もとがた)に関してはどうでしたか?

元型(もとがた)について
浮き出し加工は凹版と凸版で紙を挟んで浮き上げます。
今回の凸版は樹脂でできている凸版です。
この凸版は金属製の元型を作成し、そこに樹脂を流し込んで作成します。

クリアランス(凹版と凸版の間の隙間)に気を付けたかな。
紙の厚みはもちろん考慮するけど、紙の厚み=クリアランスというわけじゃなくって、柄の大きさ、細かさ、密集度に合わせて適切に浮き上げ・箔押しできるように深さ・角度を調整しました。一概にオフセットして柄を小さくするわけではないです

―エンボスだけの版よりも箔同時エンボスである肉付箔押版のほうが気を使いますか?

エンボスのみの版作成の場合とはデータ作成段階から作り方が変わってきます。
エンボスだけだったらもっと迫力が出るように版の深度をいれたり角度を立てたりするけど、肉付箔押版は箔が付かないと意味がないので、あくまでそれを考慮しながらのデータ作り、版づくりとなります。

以上、Oさんへのインタビューでした。
なんかちゃんと聞いたことなかったけどめっちゃ色々大変じゃん。
と小学生並みな感想を抱くワタクシ。

NC加工機での切削が終わると今度は仕上課へとバトンタッチされます。

Photo by MixJam Design

仕上げ課は出来上がった制作物をサンドペーパーなどで磨いたり、タガネ(ちっちゃいノミみたいな工具)で不要部を削ったり、これまた地味ながら非常に繊細かつ集中力を要する作業をするところです。
また、文字通り「仕上げ」という最終工程なのでここでミスると全ての工程が台無しになってしまう、という恐ろしい作業をしているところでもあります。

今回の版を仕上げたAさんに話を聞きました。

―今回の版の仕上げで苦労したことは何ですか?

やっぱり細い柄や細かいテクスチャーが多いから、不要な機械目(きかいめ:カッターなどで切削した跡)を消しつつ細かい柄を残すってゆう磨き加減には気を使ったね。
細かい柄は、磨き(削り)過ぎると柄が無くなり印刷した時に思い通りの表現が出来ないし、かといって箔押しするから不要な目が残っていると印刷物に反映してしまうから。

よく見るとこんなところにこんなに細かい柄が・・・!

あと細かい柄を磨いてエッジがダレちゃう(角がとれる)とこれまた箔押し印刷時に箔がつかなくなる。磨くところと磨かないところは見極める必要があるね。

―素人目だとどれが不要な機械目でどれがテクスチャーかってわかんないんですけど・・・

だからそれが見極めよ笑 
ずっとこの仕事してるから。見極めは慣れ(経験)やろなぁ。

―今回は色んなモチーフがありましたが、そこらへんの苦労はどうでしたか?

そうね、ひとつのモチーフだったら同じテンションで磨いていけるけど今回はモチーフによって再現したいテクスチャーや形状をイメージしながら仕上げていったよ。繊細なものは絵柄を殺さないように慎重に仕上げたからやっぱり通常よりは時間がかかったね。

―仕上げもやっぱりエンボスのみの版の場合と肉付箔押版とでは仕上げ方ちがいますか?

やっぱり肉付箔押版だと印刷面に磨きスジが残らない様に磨く必要があるから時間がかかる。
エンボスでも切削目や磨きスジが印刷に反映されやすい紙を使う場合気を使うよ。それでもエンボスのみの版だったら肉付箔押版の3分の1ぐらいの時間で仕上がるかなぁ。

―ほかに苦労したことはありますか?

どんな仕事でもそうだけど最終工程だからミスれないってゆうプレッシャーはあったよ。今回は特に版の加工にも時間がかかってるし、「デザインのひきだし」ていうことに対する営業の気合(てゆうか圧)もすごかったし笑 
みんなの思いが重くのしかかったよ。


以上今回の彫刻版作成に関わったお二方へのインタビューでした。
改めて話を聞くと、核となる作業の判断材料として「経験」という言葉がどちらからも出てきたのが印象的でした。

データを作成するのも機械、切削するのも機械ですが、そこには必ず知識と経験を持った人間の手が介在しています。
2次元データを3次元に起こすには、2次元のデータからデザイナーさんやクライアントの意図を正確に読み取り、イメージする力が必要です
機械で彫刻された版をそのまま出すのではなく、版を使用する方々がツジカワの版を使って最高品質の制作物を生み出せるように必ず人の目と手で確認して仕上げる必要があります。

今回弊社の版をご使用いただいたコスモテックさんからは
「極上の版」という最上級の誉め言葉をいただきました。
あ、そうだ、極上の版って言ってもらいましたよー!機械部の皆様!腐食版を作成した製版部の皆様!

慢心せずもっといいものを作り出せるように営業・現場ともに力をつけていきたいと思います。

思いっきり〆る雰囲気を出しましたが第三弾「腐食版編」に続きます。

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