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【ほとばしる情熱が、あなたの背中も押してくれる】鈴木 智彦著『ヤクザときどきピアノ』【大人の読書感想文】

「『ダンシング・クイーン』を弾けますか?」
「練習すれば、弾けない曲などありません」

新年が始まって約2週間。

新年の抱負で賑わっていたSNSの投稿も徐々に日常のつぶやきで埋め尽くされるようになりました。その一方で、受験生たちは人生をかけた戦いに向けて毎日必死に過ごしているかと思います。

そんな受験生の皆さん、あるいは新しい挑戦に身を投じたいと思っている人にぴったりな本、見つけました。

あらすじ


ヤクザへの取材に基づくノンフィクションライターの筆者は、ピアノへの憧れを幼い頃より抱きつつも、実際に鍵盤に触れないまま仕事に勤しむ毎日を過ごしていた。

ある日、校了明けに飛び込んだ映画館で見た作中に流れたABBAの「ダンシング・クイーン」に感動し、大粒の涙を流す。

「ダンシング・クイーン」をピアノで弾きたい。

その情熱をもってピアノ教室を探し回った筆者に、運命の出会いが。ピアノ講師のレイコ先生は言う。

「練習すれば、弾けない曲などありません」「ピアノ講師に二言はないわ」

50歳を過ぎてからの、全身全霊をかけた挑戦が始まった。

物事を達成するための心意気


できないことを「できる」に変えるまで、自分が掲げた目標を達成するまでには、何が必要でしょうか。

まず私たちがぶつかるであろう壁。それは「本当にできるのか?」「そもそもこの行動に意味があるのだろうか?結果を出せないのでは?」という不安との戦いです。

52歳からピアノを始めるという選択をした筆者に対して、講師のレイコ先生が一番最初に断言したこのセリフが痛快です。

「練習すれば、弾けない曲などありません」

そう強く言い切ったレイコ先生のレッスンに通うことにした筆者は、ダンシング・クイーン1本に絞って練習を開始します。

これで駄目ならピアノとは縁がなかったとあきらめられる。俺はレイコ先生と心中する。

初めて鍵盤に触れ、ピアノという楽器がもつ音楽性の奥深さに感動しながらも、必死で練習を続ける筆者。その時折で出て来る、筆者の言葉の数々は正に名言です。

我々が世界に一つだけの花であるなら、才能も状況も全員が違う。その点を無視する自己啓発本は、本来、ただの気休めにすぎない。

練習をすれば上手くなる。練習をしなければ一切上達しない。やればできる。やらねばできない。そして、練習をしない言い訳にはなんの意味もない。

私は受験生の頃、不安で不安でしょうがなかったので、自分が勇気づけられる音楽を寝る前に聞いたり、心に残った言葉を綴ったノートを良く目にするようにしていました。

もし私が受験生だったら、この本を付箋と蛍光ペンの書き込みでいっぱいにして、何度も熟読すると思います。

できると信じて、情熱をもってそれに全力で取り組む。「己との戦い」に勝ち続けるために、自分自身を鼓舞し続ける大切さ。それを改めてこの本を通じて感じ取りました。

他人の技量に恐喝される必要はまったくない。他人がどれだけ上手に弾いても、引け目を感じる必要はない。

極々シンプルでありながら、やり遂げることは難しい。もしあなたが目標にめげそうになっている時、是非読んでみて欲しいです。きっと勇気づけられ、もう一度目の前の壁に必死に取り組もうという気持ちになれます。

そして、結果を出すためにはとにかくやり続けなければならないという事実に、背中を思い切り叩かれること請け合いです。


ガイド役に求められるもの―何を始めるにしても遅すぎることはない

筆者のピアノレッスンに欠かせない存在、レイコ先生。彼女の一言ひとこと、そしてレッスンの姿勢が筆者に多大な影響を及ぼしています。

レイコ先生は決して否定的なことを投げかけません。その代わり、筆者がこれからピアノを弾くうえで本当に大事なことは欠かさずに伝えます。

「これでわかるんですか?」
「なんとなく」
「俺は弾けそうですか?」
「それは保証する。YOU CAN DANCE」

目標に向かって邁進している人が苦しんでいるとき、どんな言葉を投げかけるのが正解なのか。私たちは時折悩むことがあると思います。

けれどまずは、「その人を可能性を信じる」。それが何よりの手助けになるのだと、レイコ先生の指導から伝わってきます。

結局、何かを成し遂げるには何が必要なんでしょう。

きっとそれはとてもシンプルなもの。

「とにかく己を信じて行動を続ける」。

そしてその目標達成のため、自分を信じてくれるガイド役がいれば尚、私たちは歩みを続けられる。

そんなメッセージ性が、筆者の熱量をもって、読者の心にダイレクトに響きます。

「何かを始めるのに遅すぎるということはない」

分かっていても躊躇してしまう、仕事で疲れた大人たちもこの本を読めば新たな一歩を踏み出せるはず。

心身が柔軟な子供たちのように、コンクールに出場する腕前にはなれないだろう。それでも大人の優位は必ずある。

ヤクザとピアノのマリアージュ

そして最後に。情熱がほとばしり、読者をも熱い気持ちにさせること間違いなしの本著ですが、私は時折声をあげて笑いながら読み進めました。

ヤクザを題材としたノンフィクションを何本も書き上げた鈴木さんにしか書けない表現が秀逸すぎるのです。

普段、暴力団というアクの強い題材を取材しているのだ。正常位ではイケない。

俺はお茶くみの組員(※新入りの役目)だ。駆け出しのボンクラ(※元はヤクザの符牒。盆=博奕場)だ。怪我をしないよう喧嘩相手の組事務所にバックで車両特攻(※器物損壊で刑が軽い)するだけの。

こういう表現がちりばめられているので、時に笑ったり、「へーそうなんだ!」という知らない世界の常識も覗き見できるのも、本書の魅力の一つだと思います。

背中を押してほしい、自分との戦いに負けそうになっている、一歩踏み出して新しいことを始めたい・・・!そんな人に是非読んで欲しい一冊です。

読み終わったあとは是非、こちらの動画を見てください!


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