「デザイン思考は終わった」のか? IDEOの縮小から見るデザインコンサル業界のあれこれ
Hello, 辻原です。
春が来たと思った瞬間に夏になりましたね。辻原は普段全身ユニクロで、せめてものおしゃれ要素としてスプリングコートをたくさん所持しているのですが、年々着用できるタイミングや時期が短くなってきているように感じています。地球におしゃれを妨害されているかもしれません。
このテーマでnoteを書くのは少々今更感がありますが、先日のBIOTOPEさんの記事を拝読しすこしモヤついたので、弱小ながらもデザインコンサル業を営む者として私から見える風景を整理しておきたいと思っています。このネタに関しては地味に熱い想いがあるので長いnoteになる可能性があります。
お暇な方のみどうぞ!
はじめに・私はIDEOを作りたかった
実は…な告白から入りますが、私はIDEOを作りたかったんです。弊社はILY,という社名ですが、この名称には理由があって「IDEOが概念なら、こちらは愛じゃい!」という対抗心と(もちろん、デザインは他者への愛の眼差しによるものだよね!という想いもあり)、あいうえお順でもアルファベット順でもIDEOの後ろにマークできるようにしていたんです。
会社の方向性を作った直接のきっかけは、ハーバードビジネスレビューの2016年4月号「デザイン思考の進化」を読んだことです。掲載されていた濱口秀司さんの論文で目が覚めたというか、これまで自分が携わってきたデザイン業界の課題と「デザインコンサルティング」という新しい価値提供が合致して興奮したことを覚えています。(IDEO自体は2013年頃から知っていたけどイマイチどういう業態・価値提供する会社なのかわかっていなかった)
そんな感じで会社を作ったのが8年前です。5年目くらいから「あれ、目指してるものちょっと違うかも」と思い始めてからはあまり追っかけてはいませんでしたが、IDEOという会社がデザイン業界の変革者であったことは疑いようもありません。
このnoteでは、私がIDEOと同時代にデザインコンサルティング事業を@東京で推進しながら、近場から見えていたものを整理しつつ、これからのデザインコンサルティング業界についてつらつらと書いてみたいと思います。
そもそも「デザインコンサルティング業界」って?
前提として、デザインコンサルティング業界について理解を深めていきましょう。前述した濱口さんの論文に掲載されていた図を引用しつつご紹介します。
デザイン業界をざっくり4分割すると下記のようになります。大文字Dは広義の設計・小文字dは意匠を表しており、左下の「d boutuques -デザインブティック」は代表アートディレクターやクリエイターを中心とした事務所を指しています。日本だと佐藤可士和さんや水野学さん、森本千恵さんなどが代表格としてあげられると思います。(※彼らがDをやっていないというわけじゃない)
左上の「da Vincisは考える天才たち」を意味していて、濱口秀司さんや森岡毅さん、デザインコンサルタントとして活動している・名前が上がる人物はここにあたるでしょう。(強そうなタイトルのビジネス本個人著者は大体ここだと考えて差し支えない)
右下の「d-firmは〇〇制作会社」と名前が上がる会社が該当します。国内ではPARTYとかSHIFTBRAINとかガーデンエイト(順不同・敬称略)とかが該当します。下記のようなランキングに出ててくる会社さんですね。(※同じく彼らがDをやっていないというわけじゃないので誤解なきよう!おそらくやっています!)
そして「デザインコンサル業界」が当たるのは、この右上の「D-firms」です。グローバルではIDEO、Frog Design、Ziba、R/GA(順不同・敬称略)などが該当します。
国内でデザインコンサルティングを行っている会社として名前が上がるのはgoodpatch、MIMIGURI(旧DONGURI)、Loftwork、CONCENT、mct(順不同・敬称略)などが有名どころですが、もともと「d-firms」だったところから「D-firms」に領域を拡張or専業化してきた会社が多いのではないでしょうか。弊社もそのタイプで、完全に同業と言えるのはこうした会社さんたちです。ここでは仮にこのような会社さんを「D/d-firms」と呼びたいと思います。戦略・設計・制作・実行までを一貫して行える・マネジメントできることが彼らの強みです。
という感じで、日本国内では「デザインコンサルティング業」を行っているのは「D-firms」と「D/d-firms」の2種類の会社さんがいるということを理解していただけると良いかと思います。
では、この中で「デザイン思考」を使っていたのはどういう人たちなのでしょうか。考えてみましょう。
そもそもデザイン思考とは何か?
ではここからは肝心なデザイン思考の話をしていきましょう。いろんなところで「デザイン思考は終わった」なんて言われるたびに「素人は黙っとれ」という気持ちになる辻原ですが、辻原が知りうる限り、デザイン思考の目的・手法・対象・効用について日本語で書かれた本のうち最も適切なのは下記の書籍です。デザイン思考終焉論者はまずはこちらをご一読ください。
この書籍の中に「オーウェンのデザイン行動モデル」がというのが出てきます。この行動モデルは1997年に提唱されたもので、デザイン行動を「問題発見行動」「問題解決行動」の2つから成り立つものとする理論です。
この「問題発見」と「問題解決」の考え方がダブルダイヤモンドに繋がっていく形で発展的理解が可能だと思います。
つまりここまで言われていることは「抽象と具体を行き来しながら問題を発見し解決しなさいよ、プロトタイプを使って検証しながら解決しなさいよ」ということです。これがデザイン思考の根本の理論です。こんなの常識なので終わりようがないんです。
ただ、今後AIによってフェーズが短縮されると個人的には考えています。がこれはまた別の機会に…
デザイン思考の3要素と「人間中心」の制約
デザイン思考に取り組む際には、有用性・実現性・事業性の3つの制約を考慮する必要があります。これらは基本的には収束のタイミングで用いられる制約で、アイデアを評価する際に持ち出されることが多いものです。最上位に「人にとっての有用性」が重視され、それを支えるテクノロジーとビジネスがあるという構造です。
デザイン思考は人間中心設計と語られることが多いのはこの最上位の制約のためです。近年ここは人間中心から生命中心になったり地球全体の環境やエコシステムが中心になったり変化してきており、その意味では「人中心のデザイン思考は次のフェーズに進んでいる」と言えるのかもしれませんし「人を対象としたプロトタイプを用いた検証」は無くなってきていると言えるのかもしれません。
こういう意味で「デザイン思考は終わったよね」という話なら「わかっとるじゃん!飲もう!」という気分になりますね、辻原は。
辻原の主張の証左的には、Tim Brownは人間中心から環境中心へシフトしているんですね。ただずーーーーーっと指摘され続けていますが、Timはビジネスとか経営のセンスがそんなによくない。Allbirdsの上場取り下げ問題もありますし….
デザイン思考はどこで使われているのか?誰がどう使っているのか?
前述した通り、デザイン思考自体は「抽象と具体を行き来しながら問題を発見し解決しなさいよ、プロトタイプを使って検証しながら解決しなさいよ」というものに過ぎません。広義的にはアプリケーションのUIに対するモックアップやWebサイトのwireなどを作って検証する働きかけもデザイン思考的活動である(デザイン行動に準じている)と言えます。
しかしながら、日本では多く新規事業の<アイデア>創出に向けた銀の弾丸のように使われていることがほとんどです(いまだにそう)。しかしながら事業創出では「デザイン思考が向いている領域」をきちんと理解しないとうまくハマらないので、多くの企業が「やってみたけど、う〜ん…」みたいになってしまい「デザイン思考使えない」みたいになっちゃっているケースはわりかし多く、そこからアンチデザイン思考の人が生まれてる感じもあります。
これの理由は結構明確で、「事業創出のパターンを理解しないまま、とりあえずデザイン思考を使ってスタートする」からです。
新規事業創出に向けたアイデアの出し方は、ざっくり下図のように4方向に分類が可能です。ここでそれぞれの詳しくは述べませんが、興味のある方は弊社の記事にまとめましたのでそちらをご覧ください。
このうち、「共感モードからスタートするデザイン思考によるアイデア創出」が有効なのは①のマーケットドリブンです。しかしながらこの領域で創出された事業アイデアは「確かに顧客課題はあるだろうが、それはウチの会社がやるべきなのか?」という点で事業化に至らないことが多い。なぜかというと②と④の視点を含まないから。
デザイン思考が有効なのは、実は全く自社アセットを持っていないとか、今から本当の意味で0→1をするベンチャーなのです。なので基本デザイン思考を新規事業アイデアの創出で使おうと思ったらハマらないことの方が多いと理解していただいた方がいいと思います。ちなみにアート思考やSF思考は基本③を範囲としており、デザイン思考が有効というわけではないのですがちょい類似領域だと理解してもらってOKです。
重ねて注意していただきたいのは、ここでは「共感モードからスタートするデザイン思考によるアイデア創出」の話をしています。よく見るこれです。
先ほどから話している「抽象と具体を行き来しながら問題を発見し解決しなさいよ、プロトタイプを使って検証しながら解決しなさいよ」については、①〜④どの方向性でも必要なので注意してください。
で、結局「デザイン思考ってどこで使われていたの?誰が使っていたの?」という問いに対する私個人の理解による答えとしては3つあります。IDEOはデザイン思考の宣教師として、より1に力を入れていたと思います。
というところまで整理できたので、ここからようやくIDEOの縮小について考えてみたいと思います。
IDEOの縮小について
私がIDEOの縮小を一言で言い表すなら「経営の失敗」です。ざっくりと下記のような要因が挙げられると思います。
①商品の問題
・マーケットドリブンイノベーション(デザイン思考)の本質的問題
・日本企業の事業投資姿勢とのアンマッチ
②営業の問題
・サービスとして売りづらい(高い、リピートしづらい、承認しづらい)
・営業人材の専門性が低くなりがち問題
③組織の問題
・組織体制(営業と専門人材のバランス)
・専門人材の採用、配置
・専門人材のパフォーマンスマネジメント
④お金の問題
・固定費増やしすぎ
⑤タイミングの問題
・コロナきつかった
ここだけで1万文字書けちゃうのでいくつか重そうなものだけに触れていきたいと思います。
「サービスとして売りづらい」のに「営業人材の専門性が低い」
これはプロフェッショナルサービスを販売する会社にあるあるですが、商品の専門性が高く顧客を納得させるのが難しいのに、営業人材の専門性が低く成約率・顧客獲得率が下がるというやつです。会社の規模に応じて「現場と営業機能の分離」は起こるのですが、現場:営業が5:5を超えると遅かれ早かれ会社が死ぬと思うんです。7:3までが限界じゃないでしょうか。しかし売れないと人を増やさざるを得ないとかになってくるんで、このあたりのバランス感てめちゃ重要だと思うんですよね。
固定費増やしすぎ問題にコロナ直撃
私が一番アチャーと思っているのは、IDEOのオフィスが表参道の骨董通りのビルからヒルズ通りのOne表参道に移転したことです。コロナ前だったと記憶していますが、ロエベが入ってたビルの最上階に移転し固定費が爆増したタイミングがあったと思います。金額の詳細までは分かりませんが、多分骨董通りのオフィス固定費は月100万前後だったと思うんですよね。しかしOne表参道は月600〜1000万くらいだったんじゃないでしょうか。表参道は駅徒歩5〜10分で1㎡=1万円くらいなので、徒歩1分350㎡(くらいあったと思うけど)で500万以上(年6000万以上)はするんじゃないでしょうかね、知らんけど。これだけは完全に妄想です。
ワークショップや勉強会、共創を前提としたオフィス作りでしたがそこにコロナが直撃してしまい、うまく営業活動との連携が取れない+顧客への価値提案ができないというのも苦しい材料だったのでは、と勝手に思っています。教訓としては固定費増やしすぎ怖い!ということです。
先にTimのビジネスセンスがないとか大変失礼なことを書きましたが、IDEO tokyoの経営を誰がやっていたかは正直知りません。しかしながら上に挙げたような失敗はプロフェッショナルサービスの会社として珍しくありません。
もっと細かく書きたいことはあるのですが、そろそろ仕事に戻らないと怒られそうなのでこの辺で。プロフェッショナルサービスの経営について話したいよ!という人はぜひ一緒に飲みにいきましょう。
さいごに・デザインコンサル業界のこれから
最後に、デザインコンサル業界のこれからについてざっくり整理して終わろうと思います。IDEOのおかげで業界の単価が上がったことは間違いないので、弊社も業界に恥じぬよう邁進していく所存です。
おそらく今後の主戦場は下記の2、3になると思います。
特に国内だと需要が高いのは3で、戦略・設計・制作・実行までを一貫して行える・マネジメントできること、PgMOとしてのデザインコンサルチームが求められるはずです。それに対してはD/d-firmsの強みが活かせますし、PgMOとしては高次の戦略へのサポート+広域のプロジェクトマネジメントが不可欠になります。「デザイン経営に向けたマネジメントオフィス」になるイメージです。(デザイン経営って言葉はあまり好きじゃないけど)
2においては会社より個人が強いと思います。再現性を持って人材を育成することがほぼ不可能なため、ここはあまり会社としては突っ込まない方が良いと個人的には考えています。デザインコンサルファーム単体ではなく、戦コンと協力するとかだと良さそう。
ここも説明しだすと単体で1万字くらい必要なので、詳しくはまた別のnoteにまとめようと思います。(別のnoteにっていう言い訳多い)
私のIDEOへの愛と、デザイン思考、デザインコンサル業界への愛が伝われば満足です。こんな感じで、私は「IDEOとともにデザイン思考は終わった」なんて軽々しく言われるとすぐムキになってオタク特有の早口で反論すると思います。
ありがとうIDEO tokyo!
IDEOは私にとって大きな希望であり、憧れであり、伝説であり!
私はデザインをもっと世界にとって価値のあるものにしていきたいと思っています。これらかもがんばるぞ!
Thank you! I love you.
Thank you! IDEO tokyo!
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