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坂元裕二『初恋と不倫』|初恋って覚えてる?


初恋って覚えてる?

僕は小3のとき。
確か、男女4〜5人くらいで皆んなで勉強しよ〜みたいなことになって、学校が休みの日に女の子の家へ皆んなで行った。

一通りガチで勉強して、でもやっぱり小学生だから、暫くしてもう遊ぼう〜ってなって遊び部屋に移動することになった。

小学生の時からデリカシーのない僕は、初めてお邪魔した家にも関わらず、真っ先にその部屋へ移動した。次に入ってきたのは、その家主の女の子。他の皆んなは、まだ向こうの部屋にいるみたいだった。

「あいつらまだ?」と言って振り返ると、その子が急に近づいてきて、もうゼロ距離くらい近づいてきて「好きです」って言ってきた。

その頃の僕は「人類みな兄弟」みたいな人間だったから、男も女も意識したことがなくって、恋愛感情なんて尚更持ったことはなかった。

その子には悪いんだけど、最初に生じた感情は「こわい」だった。自分だけに向けられる好意がこわかった。割と平均的に「みんな好き」だった僕は、標準偏差から外れた、自分を対象とした「好き」に戸惑った。

次に戸惑ったのは、それこそ「好き」という感情だった。あの日から、その女の子のことが気になりはじめた。たぶん好きになっていた。

「人類みな兄弟」だったはずの全人類から、その子だけがぴょこっと飛び出てきたのだ。いままで、“私”と“みんな”だった世界が、“私”と“あなた”になった瞬間だった。

初恋とは、私の中に“あなた”の存在を初めて許すことに近いのかな〜、と思う。親ではない第三者が、自分の中で初めて立ち上る瞬間。自分しかいなかった心の中に、勝手に居座ってくるような、ちょっと居心地の悪い感覚。

そんなようなものが往復書簡を通して描かれていたのが、とても良かった。商業出版なので、もちろんドラマのようなスリリングな展開もあるのだけれど、それ以上に往復する文章を介して、2人の関係が変わっていくのがよかった。

初恋って生涯で一回きりしかなくて、こうやって思い返せば初めての恋が芽生える瞬間ってのは、宇宙でいうところのビッグバン並の変化点なのではないかという気がする。知らんけど。

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