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『蝶々と灰色のやらかい悪魔』

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デリヘルで働きながら、自分の夢を叶えようと奮闘しながら、恋愛を交えた一人の少女の日常を描いた作品です。この作品はぼくにとって、初の長編小説で、デリヘルで働くとある女性に実際に取材…
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2021年4月の記事一覧

『蝶々と灰色のやらかい悪魔』 21

 夕方、お店に出勤すると、店長が電話応対に追われていた。なんでもわたしが休んでるあいだに、体調を壊している女の子が多数出たらしく、その予約のキャンセルの連絡や、代わりの女の子の手配に七転八倒していた。 「あ〜! ななこちゃ〜ん! よかった〜来てくれて! あら、やだ。なんか、ななこちゃんが女神に見えてきたわぁ〜……」  出勤早々、店長に泣きつかれ、どさくさに紛れて、抱きつこうとまでしてくるので、「ちょ、ちょっと、それはさすがに……」と、迫ってくるオカマを制した。 「なによ

『蝶々と灰色のやらかい悪魔』 20

 店長の無理なお願いを聞いたせいで、急遽、夕方からお店へ出勤しなければならなくなり、ちょうど家を出るタイミングが同じだったこともあって、昼から出社するという父と一緒に家を出ることにした。  昨日の暴飲暴食のせいで、体調を崩していた父はというと、さっき起きてきたばかりらしく、その首にはまだネクタイすら巻かれておらず、「おーい! 母さ〜ん……。お弁当は、もう出来とぉーと?」と、今にも倒れそうな声を出しながら、寝室のある二階から下りてくる。  ちょうどお弁当は出来上がったところ

『蝶々と灰色のやらかい悪魔』 19

 生理休暇の最終日、店長からのモーニングコールで叩き起こされた。  なんでも、出勤予定だった女の子が、とつぜん体調を崩したとかで、「ななこちゃん、ごめ〜ん! 今日、夕方からでいいから出勤してくんない? 一生のお願い!」と出勤依頼の電話だったのだが、電話口でも相変わらずのオネエ口調で、目覚まし代わりに聴くには、あまり目覚めの良いモノではなかった。  ただ、店長の〝一生のお願い〟というやつを、今年に入って、すでに五、六回は聞いている気がするが、あまりに店長が多用するものだから

『蝶々と灰色のやらかい悪魔』 18

 夕食時、食卓に顔を出すと、すでに私以外の家族は揃っており、焼き肉の準備にとりかかっていた。お肉はいつもより奮発したらしく、霜降りのイイやつだ。何の肉かは知らないが、遠目からでもそれが判るほど、赤みの肉のあいだに、細かい網目状の白い筋がたくさん入っており、見るからに高そうなお肉だった。 「芳枝。なんあんた、そんなところで、ボーッと突っ立っとーとね! ほら、あんたもこれ運ばんね!」  そう言って、母がここ数日の冷戦などなかったかのように、焼き肉用のトングを突き出してくる。い

『蝶々と灰色のやらかい悪魔』 17

 生理休暇(生休)に入り、唐人町にある実家に帰省した。帰省したといっても、地下鉄空港線一本で、一人暮らしをしている祇園のマンションから二〇分足らずの場所にあり、駅からも徒歩五分圏内にあるため、正味、三〇分もかからずに実家まで辿りつく。  唐人町商店街を抜けた先にある住宅地の一角にあるわたしの実家は、狭いながらも庭付き一戸建ての二階建て日本家屋で、わたしと妹の部屋はその二階にある。妹と部屋は一緒で、わたしが実家を出るまでは一緒に使っていたが、今は妹の一人部屋になっているため、