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『蝶々と灰色のやらかい悪魔』

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デリヘルで働きながら、自分の夢を叶えようと奮闘しながら、恋愛を交えた一人の少女の日常を描いた作品です。この作品はぼくにとって、初の長編小説で、デリヘルで働くとある女性に実際に取材…
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2021年3月の記事一覧

『蝶々と灰色のやらかい悪魔』 16

 翌日、店長が言っていた新人の女の子と、たまたま送迎車で一緒になった。  ふだんなら、送迎車で一緒になったからといって、あまり他の娘と喋らないのだが、どういうわけか、年下から好かれる性分なのか、なるべく話しかけられないように、こちらがスマホの画面に視線を落とし、伝家の宝刀〝人見知り〟を決め込んでいると、新人の女の子が執拗に、こちらの顔を覗き込んでくる。  そのあまりに熱い視線に、思わずこちらから、 「え、えっと……。なんですか?」と、キョドり気味に話しかけると、 「あ

『蝶々と灰色のやらかい悪魔』 15

 休日、久々に実家の母から電話があった。といっても実家は地下鉄空港線で一本なのだから、会いに行こうと思えば、いつでも会いに行ける距離なのだが、なんと言えばいいのか、近ければ近いほど、「まあ、今度でいいか……」という気分になり、後回しにしてしまい、その結果、遠くにいる友人よりも、すぐそばにいるはずの家族のほうが、疎遠になってしまっている。  特別、仲が悪いというわけではない。ただ、口実がなければ、会いに行く機会がないというだけだ。 「芳枝ぇ〜! あんた全然連絡も寄こさんで!

『蝶々と灰色のやらかい悪魔』 14

 お堅い仕事の父には、やはりネクタイがいいだろうということで、買ったばかりの子猫を連れて、さっそく妹と五階の紳士服売り場に向かった。オープンして間もないこともあり、内装がキレイなのはもちろんのことなのだが、白を基調にした外観に、赤と青の配色で『KITTE』と書かれたロゴの感じが、どことなく『ハローキティ』に似ている気がした。  エスカレーターを上がり五階に着くと、全体的に店内のレイアウトが低く、フロア全体が見渡せるつくりをしていて、パッと見で、どこに何のお店があるのか見渡せ

『蝶々と灰色のやらかい悪魔』 13

 結局、一度も猫コーナーのケージに並ぶこともなく、わたしに衝動買された子猫を連れ、妹と待ち合わせしていた、FM福岡のJR博多シティスタジオ前の広場に行くと、先に着いていた妹が、「ちょっとぉ〜! お姉ちゃん、遅いよ! 何しよった、とっ……、て……、え、えぇ? なな、な、何それ?」と、わたしの手元を見るなり、ドン引きする。  さすが我が妹、幼少期から計画性のない姉と接しているだけあって、そのリアクションだけは、こちらの期待を裏切らない。まあ、無理もない。本来、わたしの手にあるは