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『蝶々と灰色のやらかい悪魔』

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デリヘルで働きながら、自分の夢を叶えようと奮闘しながら、恋愛を交えた一人の少女の日常を描いた作品です。この作品はぼくにとって、初の長編小説で、デリヘルで働くとある女性に実際に取材…
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2021年2月の記事一覧

『蝶々と灰色のやらかい悪魔』 12

 わたしとサワコが出逢ったのは、休日に出かけたJR博多シティで、待ち合わせをしていた妹がなかなか現れず、暇つぶしのつもりで立ち寄った『P2』で時間を潰しているときに、おもむろに猫コーナーのケージのなかを覗き込んでいると、とつぜん背後から現れた女性店員に、「ちょっと、すみませ〜ん……」と声をかけられ、慌てて振り返った瞬間だった。  大事そうに女性店員に抱えられた白い子猫に、思わず胸を撃たれ、わたしは気がつくと、「そ、その子ください!」と、値段も訊かずに叫び出していた。  そ

『蝶々と灰色のやらかい悪魔』 11

 仕事柄、日に何度もシャワーを浴びているせいで、放っておくと、すぐに肌は荒れ、カサカサ、ガサガサの乾燥肌になる。夏場ならまだいい。真冬ともなれば、この年齢で、肌が粉を吹き始めることもあるのだから、デリヘル嬢もその華やかな外向きとは違い、案外からだを張っている職業である。肉体労働であり、人気商売でもあるだけに、日々のスキンケアを怠ると、すぐにその怠慢は結果に現れ、指名がとれなくなる。デリヘル嬢と失業者は紙一重なのだ。  いくら一現場あたりの単価が高くても、その仕事すら入らなけ

『蝶々と灰色のやらかい悪魔』 10

 某ラブホテルにお呼ばれした帰り、その日の最後の客を終え、意気揚々とホテルのロビーをスキップしながら、送迎車の待つ駐車場に向かっていると、とつぜん、見知らぬ中年カップルに、「あ! 空いた?」と、話しかけられた。  まさか自分が話しかけられているとは思わず、その中年カップルの前を素通りして、出口に向かおうとしていると、今度は、「ねぇ! お姉さ〜ん!」と、ハッキリと呼び止められた。  軽快なスキップの歩調が乱れ、危うく大理石の床にヘッドスライディングしそうになる。  体勢を

『蝶々と灰色のやらかい悪魔』 9

 その夜、待機所の大型テレビで情報番組を見ていると、例の事件が報道されていた。  大河内さんの自宅は、天神からほど近い場所にある高級住宅街のタワーマンションで、事務所のある中州川端からも、車で一五分もかからないような場所にある。テレビの画面に映し出された映像には、リアルにわたしの知る大河内さんの顔写真が公開されており、紛れもなく何度も通った大河内さんの自宅マンションが、報道ヘリからの空撮映像で映し出されていた。  通り沿いにあるマンションは、地元でも一目置かれた存在で、福