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物語の欠片-韓紅の夕暮れ篇-

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カリンとレンの十四篇目の物語。太陽光発電の仕組みが実用化の一歩手前となり、フエゴで検証が始まったが…… 技術と人の心というお話。
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2023年12月の記事一覧

物語の欠片 韓紅の夕暮れ篇 23 最終話

-カリン- 「闇とは何か、か……」  暖炉の火を見つめながら、族長が呟く。  カリンの問いに対しての言葉だ。その日カリンは、診療所を少しだけ早く閉めて、レンとシヴァが訓練場から降りてくる前に族長の家を訪ねたのだった。 「答えはお持ちでなくとも構いません。考えてみたことはありますか?」 「あると言えばある。しかし私の場合、魔物とは何かが先だった」 「魔物……」 「戦士の一番の仕事は魔物を討つことだ。しかし、それは何故なのか」 「魔物を討つ意味、ですか?」 「マカニの戦士になっ

物語の欠片 韓紅の夕暮れ篇 22

-レン-  フエゴでの仕事を終え、無事にアグィーラから戻って来たカリンの報告を、族長とシヴァと三人で聞いた。  アグィーラからガイアを駆って戻って来たばかりのカリンは、暖かい部屋の中で頬を上気させている。暖炉の火が話の途中で時折ぱちぱちと小さく爆ぜた。  カリンの話してくれたアキレアと子供たちのやり取りを聞いてレンは驚き、族長は目を細めた。 「アキレア殿らしい」  というのが族長の感想だ。確かにアキレアらしいとレンも思う。これまではそのアキレアらしさが裏目に出てしまうことの

物語の欠片 韓紅の夕暮れ篇 21

-カリン-  アキレアの館の応接室で、アキレアとツバキの向かい側にカリンとクコ、ネリネは側面の席に座っていた。使用人がお茶とお茶菓子を置いて去った後、クコは神妙な面持ちで口を開いた。  事前の打ち合わせの際、カリンはアキレアへの説明を買って出ようとしたのだが、クコは頑なに自分がこの件の責任者だといって譲らなかったので、結局クコに任せることにしたのだった。 「……というわけで、この度の騒動は、アグィーラの、しかも建築局内の不始末が原因でした。ご迷惑やご心配をおかけして誠に申し

物語の欠片 韓紅の夕暮れ篇 20

-レン-  谷川の水の流れは豊かで、厳寒のエルビエントといえども完全に凍りついたりはしない。川の両端に、やや張り出すように氷が張り、溶けたり再び凍りついたりを繰り返しながら、不思議な造形を生み出していた。  日中帯の今、光を受けて輝く冬の川は、普段から近くに住んでいても見飽きない美しさがあった。  大吊り橋の再建に比べると、水車の交換は大掛かりな作業ではなかったが、緻密な連携を必要とする作業であり、体制や作業の順序などは綿密に打ち合わせがなされた。 「よし、それじゃあ、第一

物語の欠片 韓紅の夕暮れ篇 19

-カリン-  フエゴへ向かうクコは、一見もう先日のことを引きずっていないように見えた。  カリンが敢えて尋ねたこともあり、道中の話題はプリムラのことに終始した。プリムラとの議論について話すクコは楽しそうですらあった。  しかし、いつもならば常に現在の研究の先を考えているクコが、太陽光発電の今後について、あるいは、この研究が実用部隊に渡された後の自身の研究についてまったく触れないこと自体、クコがまだ先日のことを気にしていることを示しているようにも感じられた。  フエゴは火山に

物語の欠片 韓紅の夕暮れ篇 18

-レン-  クコ殿も気の毒に、というのが、事の顛末を聞いた族長が最初に発した言葉だった。シヴァも頷き、レンも返事をする声に思わず力が入る。 「はい。僕はずっとクコ殿の仕事に対する姿勢を尊敬していました。それなのに、それが今回は裏目に出てしまって……というか、あんな風に言う人が居るなんて……」 「妬みは、多かれ少なかれ誰の中にもある感情だ」 「それは……」  レンはふと思い当たる。  自分は昔、ローゼルに嫉妬していた。  カリンの幼馴染で、若くしてアグィーラの戦士として認めら

物語の欠片 韓紅の夕暮れ篇 17

-カリン-  翌朝カリンは、レンと共に少し早めに家を出て、城へ行く前にトレニアの姉の工房付近の様子を見に行った。  工房地区の朝は早い。ここへ向かって来る途中、すでに工房を開けて作業をしている人々の姿も見えたが、トレニアの姉の工房は閉じられ、人の気配が感じられない。それが、これから何かを起こそうとしているがための静寂なのか、それとも失意によるものなのか、この工房はいつもこうなのか、それすらも分からなかった。  カリンは軽く溜息を吐き、城へと向かった。  途中、小さな集団を見