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物語の欠片-韓紅の夕暮れ篇-

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カリンとレンの十四篇目の物語。太陽光発電の仕組みが実用化の一歩手前となり、フエゴで検証が始まったが…… 技術と人の心というお話。
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2023年10月の記事一覧

物語の欠片 韓紅の夕暮れ篇 10

-レン-  カリンがマカニを発って三日後、族長はホオズキをアヒへ遣わした。表向きはアキレアに書簡を届けるためであり、主な目的はカリンから様子を聞くことである。  同じ日の夕方、レンはシヴァと一緒に族長の部屋で、戻ってきたホオズキの報告を聞いた。  とはいえ、カリンは族長宛に前もって書簡をしたためてあったようで、詳しい話はそこに書かれてあったという。 「とりあえず元気そうだったよ。話に大きな進展はないみたいだが……。アヒの戦士が協力してくれているようで、危険も無さそうだった」

物語の欠片 韓紅の夕暮れ篇 9

-カリン- 「ああ、これは酷い。変換器はそっくり交換だな。これは、調査のためにこのまま持ち帰ろう」  クコは故障箇所を確かめると顔を顰めてそう言い、カリンの方を振り返った。 「こいつの詳しい調査はアグィーラに戻ってからだ。今日は交換作業だけになりそうだから、お前はここに居ても面白くないかもしれない」 「面白いかどうかという問題だけでもないのですけれど、お役には立てそうにありませんから、わたくしは玻璃師の所へ伺ってみようかと思います」  本当は建築局の官吏たちに紛れて来ている

物語の欠片 韓紅の夕暮れ篇 8

-レン-  結局夕方付近まで族長の家で過ごし、シヴァと二人で族長の家を出た時には雪は止んでいた。  シヴァの家と族長の家は直接歩いた方が早い距離に在る。家を出たところで別れ、レンはひとりで第五飛行台へ向かった。  ほとんど一日、シヴァの訓練を見て過ごした。それはそれで面白かったのだが、何となく物足りないものを感じて、訓練場へ寄って行こうと思いついた。もちろん、訓練場には誰も居ない。  族長の家で暖まっていた身体は、訓練場まで飛ぶ間にすっかり冷えてしまった。手が完全に悴んでし

物語の欠片 韓紅の夕暮れ篇 7

-カリン-  今回の使節団の長はクコだ。カリンは目立たぬよう中央辺りに陣取り、アヒの町に足を踏み入れた。十五名の隊で、半分ほどが紫の衣装の中級官吏なので、特に目立つようには思わなかったが、残念なことに女はカリンひとりだった。  無駄な抵抗と思いながらも、いつもは長く下ろしたままの髪を後ろでひとつに纏めてきた。アヒの村の入口まで迎えに来てくれていたネリネとも、なるべく親しげに言葉を交わさないようにして歩く。  途中で妨害に遭うとまでは考えていなかったが、何事もなくアキレアの館

物語の欠片 韓紅の夕暮れ篇 6

‐レン-  カリンが建築局のフエゴ行きに同行するためにアグィーラへ発った翌日、マカニでは大雪になった。  前日でなくて良かったと思ったものの、訓練も、集会所での朝礼も中止になるほどの大雪に、レンはひとりで時間を持て余していた。ちょうど族長に借りていた本も読み終えてしまったところで、新しい本でも借りに行こうかと考えていると、扉が叩かれた。  自分が族長の家へ出かけようと思っていたことを棚に上げて、こんな日に誰だろうと思いながら扉を開けると、そこにはシヴァが立っていた。雪除けの

物語の欠片 韓紅の夕暮れ篇 5

-カリン-  晩餐会を終えた後、いつものように化身たちはレフアとローゼルの部屋に集った。そしてカリンはいつものように七人分のお茶を淹れた。  今ではこうして全員が集うのは、レフアの生誕祭と新年式の年二回だけであるし、その間にそれぞれ色々とあるとは思うのだが、集まればいつもの雰囲気なのが嬉しかった。  今回、最初の話題の中心はレンの遭遇した事故だった。イベリスが芝居がかった様子で聞いた話を大きく膨らませて話すので、皆、口を挟む間も無い。レンは最初のうちこそ抵抗したが、すぐに諦

物語の欠片 韓紅の夕暮れ篇 4

-レン- 「ノギクさん?」  カリンが、中庭でクコの隣に立つ女に向かって驚きの声を上げた。緑色の官吏服を着ているので、カリンより位は低いことが分かる。  ノギクと呼ばれた女とクコは連れ立って近づいて来た。  新年式の式典が終わり、夜の晩餐会までは特に予定が無いので、レンとカリンはいったん他の化身たちと別れ、クコに挨拶に行こうと思っていたところだった。 「クコがカリンと会う予定だって聞いて、待っていたのよ」  カリンが、クコの妻のノギクだと紹介してくれる。ノギクはレンのことを

物語の欠片 韓紅の夕暮れ篇 3

-カリン-  カリンは午後からの村の配線工事を見学させてもらう予定だった。  レンは昨日同様、朝からクコたちと行動を共にしていて、山頂付近に設置した発電板から村までの配線工事を手伝っている。  心配された雪は夜のうちに止んでいた。  マカニが太陽光発電の実証実験に協力的なのにはマカニ側の都合もあった。  現在発電に使用している二基の水車は老朽化しており、次の春までに更新が予定されていた。太陽光発電の電力が期待できれば、一基ずつ止めて作業をしても現在の村の生活にはさほど影響が