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その夏から秋に、 百戦錬磨と

その数年間は

東京の端っこ

多摩川の土手の近くで

百戦錬磨

 と暮らしていた

今思うと

何かをやり始めると

秘密の特訓も含めて

少しでも多くの経験を積んで

達人レベルまでいかないことには

気がすまない人だったので

その時はそんな風に

呼んだことはないけれど

今更ながら

百戦錬磨 

と呼んでみる。。。

その年の夏は

子供のように

虫たちとよく遊んだ

蝉が鳴けば

足元から樹を見上げ

木肌に溶け込む

君を探し

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捕まえては放し

捕まえては放し

両手いっぱい

捕まえては放し

。。。。

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百戦錬磨は

いつか

子供の頃から

虫だけが友達だった

と、言っていた

虫と遊ぶときは

自分も虫になって

虫と戯れる

私も

見よう見真似で

捕まえ方も

放し方も

随分上達した私は

いくつもの小さな驚きを見つけた

クルリと丸い目が

思っていたより

顔の両端にあって

随分と

離れて付いていることや

硬い身体の感触

真ん中から

きっちり対象に描かれている

迷彩模様のような美しいボディ

柔らかな羽根の

何色もある

まるで電光線のような

美しすぎる羽の筋

身体と釣り合わない

折れてしまいそうなくらい繊細な

針のような脚

思い出すたびに

胸が痛くなるほど

指に感触が残ってる

なんだか知っているようで

全然知らなかったんだなぁ。。。

百戦錬磨は

いつものグレーの

Tシャツの胸のあたりに

この世で一番い美しい

ブローチをつけるかのように

そっと置いて

胸を張って歩き出した

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どこまで歩いたら

飛んでゆくのだろう、、、

と、ドキドキしながら

一緒に歩いたけれど

百戦錬磨の心臓の音を聴きながら

眠っているかのように

悔しいほど

動かなかった

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何を話していたの。。。。君たち。。。


***

蝉たちの声が

遠くなる頃

葉っぱの影で

鳴き始める秋の友達

葉っぱの音を聞いて

彼等を探す

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葉っぱになりきって

私から身を守ろうと

長い髭だけを動かしている君と

一緒に遊びたくて

両手で

優しく捕まえる

その表情豊かな顔と

身振り手振りで

今日の出来事を話す君

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手の中に入れたところまでは

よかったけれど

笹の葉っぱのような

君の身体は

柔らかくて何処を持てば

君が苦しくないか

なかなか力加減が掴めない

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百戦錬磨

は君の気持ちの良い

お腹のあたりをふわりと

優しく掴み

私は君と対面した

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本当に

仮面ライダーだ!

きみの脚はつま先まで

芸術的だった

どうして逆さでも

歩けるのかわかったよ

これから夕食の時間なんだ

という

カマキリ君を

草むらに返した後

君は戦いに出かけた

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君が

夕食にありついた草むらを

振り帰りながら 部屋に帰ったこを

よく覚えている

***


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そうそう

夏が始まる少し前に 

紫陽花畑から

連れて帰った

二匹のカタツムリは   

金魚用の

まあるく大きな

ガラスの家の中に

その日もまだ元気にしていた

冬眠するまで

飼いたいと言ったのは私で 

可愛そうだ。。。

ストレスだ。。。

と言いながら

彼女達の家を見つけてきたり

葉っぱや枝を取ってきたり

人参の皮や

カルシウムも、、、と言って

たまごの殻を集めたりして

今日を昨日より

少しでも

居心地よくしようとしたのは 

百戦錬磨だった

私は

いつも仲良く

並んで休む姿が

双子の姉妹ようだったから

彼女たちに

ランジェ と デルフィーヌ

という名前をつけた

それは1967年のフランス映画

”ロシュフォールの恋人たち”

の双子の姉妹の名前からとった

映画の中の双子の姉妹は

カトリーヌドヌーブの実の姉妹で

撮影後 ソランジェは亡くなってしまう

そして冬眠前に紫陽花畑に返そうと

名残惜しい夜を過ごしたあと

うちのソランジェは

突然動かなくなった

冬眠したのかと思い

しばらくそのままにしていたが

紫陽花畑に放すまで

動かなかった

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それから

夏から秋にかけて

たくさんの虫と遊んだ

花に飛び込む

てんとう虫に笑い転げたり

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太陽に透かして毛虫の毛を観察したり

エレガントな蝶のドレスを

心ゆくまで観察したりした

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***



秋も真ん中になると

トンボとの遊び方を教わった

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透き通る羽根が

赤すぎる身体が

綺麗た綺麗だ

と騒ぐばかりで

力加減が

蝉よりコオロギより

ずっと難しくて

いつも見ているだけの私の 

特訓が始まった

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百戦錬磨の指使いは完璧で

トンボたちは

リラックスしているのがわかる

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逃したところで

逃げていかないし

逃したところで

また

遊ぼう。。と

戻ってくる

何故?


特訓の宿題が終わりかけた頃

私は仕事の帰りの

駅の階段の片隅に

横たわる瀕死の

ハグロトンボを見た

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初めて見る黒く光る羽根は

静かに閉じて

エメラルドのグラデーションに耀く

美しい身体は疲れていた

少し動いてはいるけれど

明らかに瀕死の状態だった

私は人々の雑踏を横切り

その場にしゃがみこみ

ポケットティッシュを一枚取り出し

勇気を出してその身体に触れ

そっと包んで部屋に連れて帰った

夕飯の支度もそこそこに

私達は手当にあたった

百戦錬磨は

案の定

水を口元に持って行きながら

背中で見守る私に

よく連れて帰れたじゃない

特訓のおかげだな

と呟いた

悔しいほど

的を得ていたので

返事はしなかった

その夜は

美しく並んだ

脚のヒゲの数を数えながら

水を含ませた

綿棒から

ひたすら水を吸う

君を眺めていた

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翌朝早く

羽根がが少し動くようになった

ハグロトンボを

公園の水際に放した

***

それから急に秋が深まり

葉の音が乾きはじめ

元気のなくなった入道雲が

滑らかなうろこ雲に変わった

風が冷たくなる頃

多摩川の土手で

冬の足音を聞いた

それより美しい秋の終わりを

これから先

見ることができるのか

今はまだわからない

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