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私の好きな匂い

私は、匂いが好きだ。
幸せになれる匂い、懐かしい気持ちになる匂い、そして、少し切なくなる匂い。匂いにもたくさんある。

春の朝の匂い。
お天気が良くて、お日様があったかい。空気も澄んでいるんだけど、その澄み方もふんわりあったかくて優しい感じ。お昼になると、その優しさは大きくなるような気がする。
この匂いを感じると、午前授業で小学校から早く帰って来られたあったかいあの日を思い出す。

夏の夜の匂い。
空気がすーっと、澄んでいる。凜としていて爽やかな感じ。葉っぱの青い匂いも感じる。
小学生の頃は蛍を袋に捕まえて、いったん家に持ち帰って、家の電気を消して楽しんだ。その後は逃がしにまた同じ場所へ戻る。
窓を少しだけ開けて寝る夜、窓の開いたところに顔を近づけてその匂いを感じると、父と夜に散歩したあの時を思い出す。今は蛍を見かけない。いつかまた見れたらいいな。

秋冬、特に冬の朝の匂い。
空気がピリッと、澄んでいる。凜としているんだけど、夏とは何か違う。雪が降るからかな。
冬は楽しいことがいっぱい。クリスマス、お正月、私の誕生日。楽しい行事がいっぱいで、しかも冬休みもある。家でのんびり楽しく過ごせるあの非日常的な日々が好きだ。
毎年雪が降って、外に出ると、「また冬が来たなぁ」と思う。サンタさんからプレゼントをもらった日のこと、お正月で近くの祖父母の家へ遊びに歩いて行く時のこと、色々思い出して、でも少し切なくなる。私にはサンタはもう来ない。あの頃に帰りたくなる匂いでもある。

雨の匂い。
しめじめしている、コンクリートの匂い。学校の日はちょっと切なくなる匂いだった。でも、休みの日だったら、何となく好きな匂いになる。
傘を差してなんとか歩いた、小学生の頃の通学路を思い出す日も時々ある。道路のあの穴に傘が時々刺さってびっくりしたことも。

学校帰りの、どこかの家の夕飯の匂い。
中学校からの帰り、いつもいい匂いだった。「今日はカレーかな」、「焼き魚かな!」。人の家の夕飯を勝手に予想して帰っていた。うちに帰ってからのご飯も楽しみだった。

久しぶりに家に帰った日の、家の匂い。
まだ我が家が平屋だった頃だ。入院することが多かった私は、家に帰るたびにあの匂いを感じて、「帰ってきたんだな」と思っていた。家にしばらく帰らないと、家の匂いを強く感じるのって不思議。
注射やら点滴やらは嫌だったはずなのに、帰れるのは楽しくて嬉しいはずなのに、家に帰って来ると、なんだか寂しくて泣きたくなったのはなぜだろう。入院期間が長ければ長いほど、そして年が大きくなればなるほど、その寂しさは大きくなっていた気がする。
ちなみに病院の匂いも、実は好きだったりする。

恋人の匂い。
近くにいると感じた、あの匂い。柔軟剤の匂いとあの人自身の匂いだと思う。ときめきとあったかい気持ちを感じさせてくれる匂いだ。今は遠距離でしばらくは会えない。また会えた時にあの匂い、感じたいな。
ちなみにこの恋人は、私の言う「夏の夜の匂い」を分かってくれた、数少ない人である。嬉しかったよ、ありがとう。


匂いは記憶に残りやすいらしい、たしか。匂いは思い出への扉だなんて、ちょっとかっこつけて言ってみる。とにかく、忘れっぽい私にとって、匂いはとても大事なものだ。

私の好きな匂い。
もう感じられないものも、またいつか感じられるものも、どっちもある。
どっちも大切なものだから、これからもずっと大事にしていきたいと思う。

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