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タイムマシンとプラシーボ

食文化が進み"肥満"という概念が生まれ、1863年ついに世界初のダイエット本が発売された。

太っている事は富の象徴から、不健康へとベクトルが変わった瞬間でもあった。しかし不健康と言っても、体が痛くなるわけではないので、浸透するまでには至らなかった。

時は2040年
ダイエットの研究に熱が入る男がいた。

青年はダイエット研究を始めて20年、どうしても仕上げたい論文があった。

それには、
過去に行く必要があった。

それまで青年は歴史をさかのぼり、流行ったダイエット50種類以上、自分で実証実験を行った。

もちろん、青年が試したダイエット法50種類は、全て成功した。

「現在の肥満率を下げるには過去に答えがあります。私に行かせて下さい」

テクノロジーの発展で、時代を行き来できるタイムマシーン1号が国政策として完成された。

最初の乗車人は一般応募とした。

それを聞いた青年はつかさず応援した。

そして、100万人以上の中から、青年が選ばられた。

「過去に行き肥満の元が解消できれば、現在の医療費を削減する事ができます」
青年の主張は、少子化で財源の困った国には、救世主に映った。

「よしゃー、、、」
青年は念願の、過去へのタイムトラベルの夢が叶った。

衝動が抑えられない男は、今すぐ行かせて下さいと直訴した。

「さすがに、すぐには、、、」
「お願いします」
「分かりました、明日出発できるように準備致します」

1・9・6・4
タイムマシンに乗り年代をセットした。

「では楽しんで、ポンッ」
研究員がタイムマシンを軽く叩くと、青年が乗った小さな球体は少し宙に浮き、一瞬にしにして消えた。

1964年、街はオリンピックで賑わっていた。それと同時期に食の欧米化が進んだ。

青年は、この食欧米化時代から見直せば、肥満人を減らせるんじゃないかと考えていた。そして、まずターゲットにしたのは、ファストフード店。一等地に出店した欧米ハンバーガチェーンの隣りに、太らないハンバーガー屋「カロリー0」をだした。

豆腐で作ったハンバーガー、揚げないポテトフライ、糖質0コーラ

結論を言うと、売れなかった。時代がまだまだ追いつてなかった。欧米ハンバーガーは一口目からDNAが喜ぶ味になっている。それに比べ青年のハンバーガーは、脂がないためすぐに美味しいとは感じない。体に良いと分かっていても脳がついていかないのだ。

ちなみに青年の作るレシピは、大行列ができる有名なヘルシーバーグ屋さんのレシピそのままだ。

「2040年のレシピは通じないかぁ」

世はこれからハンバーガーだけでなく、ドーナツ、ケーキなど欧米食がさらに進んでいき手がつけられなくなる。

青年は悩んだ。

「そうか、その手があったか」
青年は秘策を思いついた。

月5,000円で毎日ヘルシーバーグが食べれるようにした。2040年では当たり前のサブスクリプション、通称サブスクだ。これならお得感もあり、絶対ウケる。

"毎日?そんなに食べないよ"
"5,000円?高い"

これも失敗に終わった。

「食べても運動したらいいわ」
「食べ過ぎなきゃ太らないよ」
「トンカツよりはヘルシー」

青年は、欧米バーガー屋さんから出てきた人にインタビューした。食べたら太るという認識はあったものの大半が他人事だった。実はその頃、フィットネスブームでもあり、ぶら下がり棒などの健康器具がヒットを飛ばしていた。

青年は気づいた。
「なるほど、この年代の人は、食べた分運動すれば痩せる(健康)という認識なんだな」

青年は顎を指でつまみながら考えた。
"でも運動で痩せるって、かなり非効率だ。ハンバーガーセットを消費する為の運動は800kcal。軽く2時間は走らなければいけない。よりは、食べない選択をするのが効率的だ"

青年の研究から分かったことは、ダイエットに失敗する人は運動嫌いが多い。だから、食を見直すだけで簡単に成功する。というものだった。だから、"欧米食は太る"と早い内に植え付けたかった。

ヘルシーハンバーガーが流行る→メディアの取り上げられる→お客さん殺到→フランチャイズ化→全国展開→肥満率低下→健康寿命爆伸び

に、なるはずだった。

時代がまだ追いつかない事に苛立ちはあったが、切り替えてタイムマシンに乗った。

1・9・8・0

青年はもう少し先の年代に行く事にした。

りんごダイエット
こんにゃくダイエット
ゆでたまごダイエット

メディアでは、〇〇ダイエットが視聴率を競い合う時代だった。

「よし、これならいける」
青年は確信した。

青年はすぐに、こんにゃくラーメン屋を出店した。ラーメンはすでに流行っていたので、ヘルシーなこんにゃく麺にみんな飛びつくに違いない、と鼻息荒くしながら準備に取り掛かった。

お店はもちろん一等地。
コマーシャル、チラシ、看板、出来るだけの宣伝はした。

オープン初日。
長蛇の列が閉店まで続いた。

青年は安堵した。
「ふー、3ヶ月続けば、こんにゃくゼリー、こんにゃくステーキなどバリエーションを増やしていける」
青年の目的は儲けではなく、食文化を変え肥満率を下げる事。お金に興味がない青年は、売り上げ全部を商品開発費にあてた。

1980年代は、エアロビクスブームも到来していた。

"ダイエット"という言葉は全国的に浸透し、痩せて綺麗に、を元旦の書初めに書く事人が増えていた。

しかし、

なぜか、ダイエットする人は増え続けていた。

ラーメン屋をオープンして3ヶ月経った頃、周辺には欧米食だけでなく、中華、エスニック、地中海料理屋さんが次々とオープンしていった。提供されている料理はどれも一口目から、「うめーー」とDNAが喜ぶものばかり。

健康に悪いと分かりながらも、
「エアロビ、青汁があるさ」
と、いつでも切り札を出せば痩せれると開き直っていた。

そして、
青年のラーメン屋は閑古鳥が鳴いていた。

「美味しいものを食べたい、きつい運動はやりたくない、いざとなればダイエットすればいい。なるほど、時代は変わっても、、、」

ここで青年は、禁じ手を出す事にした。

「いや、痩せたいけどそれは飲めない」
「怪しすぎる」

青年がダイエッターに勧めたのは、"痩せるサプリ"だった。ビタミン剤の認知は高かったが、この時代にはサプリメントは早すぎた。

「楽して痩せるは、いつの時代も飛びついてくると思ったのに、、、」

青年は諦めなかった。有名人を起用した通販番組で売り出す事にした。

すると、予感的中。
「あの人が紹介するなら怪しい物ではない」痩せるサプリメントの注文が殺到した。さらに、口コミで大ヒットした。

そして
青年の手元には大金が舞い込んだ。

しかし残念な事に、痩せるどころか太る人が増えた。

サプリを手に入れた人は、暴飲暴食してもいつでも痩せれる、というマインドになり、好きな食べ物への制限がなくなっていった。

2・0・4・0
青年はダイヤルを合わせ、タイムマシンに乗り、元の時代へ帰った。

着くや否や政府官邸に行き、儲けた大金全額を渡した。
「医療費の財源にしてください」
青年は呼び止められたが、逃げるように研究室へ向かった。

実は、青年はダイエット産業が未来永劫なくならない事を知っていた。

本当の研究は、肥満の方へ、
「今の生活習慣を続けると、命に関わります」
と、医者がプラシーボ効果で伝えた後のデータが取りたかった。情報社会の現在では「暴飲暴食で命に関わる」と言われても効果がない。なのでインターネットが普及する前の時代に行く必要があった。

「ダイエットは、痩せるサプリより余命宣告(時代を越えて)」

青年は論文を書き上げた。

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