見出し画像

2023/03/22 嬉しいから泣いてしまう

参加した広告会社の企業説明会で、作品事例としてこの映像が流れた。

佐賀県の広報映像だった。佐賀県は結婚した後も手厚くサポートし、若者にとって住みやすい街ですよというのをPRする映像。
結婚式、参列者からの「ゴールインおめでとう!」という言葉に疑問を持つ新婦。その姿をクローズアップして、結婚から先の「幸せ」への道を佐賀県がサポートしていくというストーリー。「Goal in Saga」ではなく「Start in Saga」に転換し、佐賀県での暮らしの未来をPRしている。

とりあえず、本当に素敵な映像なので見てほしい。


私はこの映像を見て涙が止まらなくなった。
一番最初に花嫁が「ゴール? 私たちの幸せって、ここで、終わり?」と疑問を持ち、途切れたレッドカーペットに憂いた表情を浮かべるシーン。もうこの時点で泣きそうだった。

結婚=幸せではない時代。それでも結婚と幸せは広くイコールで結ばれることが多く、私はずっとそれに疑問を持ち続けてきた。結婚したからって幸せになるとは限らないのに、結婚は幸せの象徴として表されることが多い。
そんなわけないじゃん、と思うのだ。結婚がゴールな人生なんてつまらない。それなのに世間は結婚をゴールイン! と言う。それからの人生の方が圧倒的に長いのに、勝手にゴールさせられるのだ。じゃあそれからの幸せは、一体誰が保証してくれると言うのだろう。

「結婚」をメインテーマとした作品で、この前提に疑問を抱いたものを私はあまり見たことが無かった。話題を呼んだゼクシィのテレビCMに使われたコピー「結婚しなくても幸せになれるこの時代に、私は、あなたと結婚したいのです」も衝撃だったが、「これからの幸せ」にストレートに向き合ったこの佐賀県広報の角度は更に衝撃だった。

もうこの時点で涙が潤んでいた。ずっとモヤモヤと抱えていたことをPR、「多くの不特定多数に知られること」を前提とした作品において問題提起されたのだから感動もひとしおである。

それから映像は、さまざまな形の「幸せ」を描く。新しく家族が増えるひとたち、たくさんの家族と一緒に生きるひとたち、もう数えきれない時間を共にしてきたひとたち。その全ての幸せをサポートするために、佐賀県はそれぞれのレッドカーペットを作ってゆく。

その中で、決して若くはない男性二人が手を繋ぎ共に歩んでいくシーンがあるのだ。

そのカットを見た瞬間、もうありえないくらいドバドバ涙が出てきてしまった。

佐賀県は「パートナーシップ宣誓制度」を採用している。同性婚が認められていないこの国で、同性婚をはじめとしたマイノリティな関係性を県が証明する制度だ。現在、この制度は全国267の自治体で導入されている。(参考:みんなのパートナーシップ制度 https://minnano-partnership.com/)

もっともっと、全国に広まってほしい取り組みだと思っている。幸せになるために手を取り合いたいのに、それを許そうとしない社会に悲しむ人々もいるのだ。たくさん。
その二人の関係性を認め、自治体が受け入れることで得られる幸せがどれだけ得難いものか。
そこから得られる幸せは、間違いなく佐賀県のアピールポイントである。

これは映像広告ではないのだが、コンテンツとしてのBLや GLにバイアスをかけて愛する無自覚的なLGBT差別についてわかりやすく教えてくれる映像だ。この映像を見ると、私たちがいかに普段「BL」をファンタジックな目線で見ているのかが分かる。ファンタジック、つまり「現実とは一線を画して」見る視線を、この映像は批判している。

「おっさんずラブ」「チェリまほ」など、BLコンテンツの人気は凄まじいものがある。
しかし私たちが画面や漫画を通して「キュン」を享受するものはBL【コンテンツ】であり、それはLGBTのリアルではない。

以前、女性同士がキスをしている動画がTwitter上で広く拡散されたことがあった。その動画や関連ツイートに寄せられたコメントが私は強く印象に残っている。

「百合は好きだけどリアルは無理だわ」
「三次元になるとなんかグロい」
「こういうのって二次元だからいいんだよな」

めちゃくちゃショックを受けた。そんなことを言う人が、やっぱりいるんだ。……いるよな、そうだよな。やっぱりいるよな。だって「百合」はファンタジーなコンテンツだから……。

以前この記事でも書いたが、GL、百合、BL、薔薇、ホモなどという言葉で表されるコンテンツとは違う「リアル」の世界でLGBTの人間は生きている。

彼らは田中圭と林遣都や町田啓太と赤楚衛二ではなく、私たちのすぐそば、すぐ隣で生きている人間だ。それは「BL」なんていう言葉でコンテンツのひとくくりにしていいものではない。皆に、それぞれの人生があり苦悩があり幸せがある。

決して若くなく、私たちのすぐそばにいそうなひとたちを「彼ら」として描くこと。決して美化せず、日常の中の1カットとして描くこと。当たり前のようにそこにあること。男女の結婚と同じように、祝福されていること。
この映像広告の一瞬一瞬表す全てが、「彼ら」をすぐそばに認め、決してコンテンツとして処理しないという佐賀県のスタンスを表している。

そう思うと本当に涙が止まらなくなってしまった。
このPVは大っぴらに言えば「佐賀県は結婚後のサポートも手厚いので佐賀県で結婚してください!」というPRである。その中で現在法律で婚姻関係が認められていない関係性を描くことはもしかしたら蛇足と捉えられかねないかもしれない。しかしその人々を取りこぼさず、きちんと描写した。その事実が嬉しくて仕方なかった。

ティッシュで拭かないと間に合わないくらいに泣いた。周りの参加者を見渡しても、泣いてるのは私だけだった。

その後の質疑応答の時間で、あのPV製作に携わった方のお話を聞くことができた。女性の社員だった。作品を作る上で心がけていることの一つは「誰も傷つけない作品を作る」ことらしい。

また泣いた。
頼むからここで働かせてくれ……!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?