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海沿いに住む、1人の男性のお話。


一般家庭の一人っ子。家は2階建ての一軒家だった。

近くに海があり、2階のベランダから眺めると道路を挟んだ向こうが海で、それを眺めるのが日課だった。


なんとなくで通っている高校。
勉強が好きなわけでもなく、頭がいいわけでもない、平均ぐらいの学力だった。

好きなスポーツがあるわけでもなく、ただぼーっと海を眺めてるのが好きだった。

16歳、学校を終えてまっすぐ帰りいつものようにベランダに行く。


夕焼けがやたらと綺麗だったのと、道路に親子二人で歩いているのを見ていた。

子供は女の子、おそらく同じ年ぐらいだと思う。


理由はわからないが、ただただ見とれていた。

過ぎ去っていく二人の親子、なんとも思わずまた海を眺めていた。





三日後、また同じように学校から帰ってきて海を眺めに2階に上がる。

夕焼けが綺麗でまた親子が通る。

「この時間によく通るんだなぁ」と思った。

次の日いつものように学校が終わり、帰り道になぜかわからないが「また通るのかなあの親子」と少し気になりながら帰りすぐベランダに行く。


同じような時間滞だから少し来るのを期待していた。

やっぱり来た。いつものように見とれていたら、同じ年ぐらいの女の子がこっちを向いた。

ニコっと微笑んだ。

気持ち悪がって微笑んだのか、そうじゃないのかわからないが少し嬉しかった。



これが始まりだった。


特に好きなもの、好きなスポーツ、好きな趣味がない。

唯一の楽しみは、夕焼けの時間帯にベランダから海を眺めるのが趣味になっていた。

おそらく、女の子に会えるから。それが理由だとは認めたくないがそうじゃないといったら嘘になるような気がして。


毎日のようにベランダに行き、気になる子と少し話すようになった。

たまたま同じ年でお互いの名前や、どこの学校なのかとか、何気ない会話だがすごい楽しかった。



いつだか、海を眺めるのじゃなく、一緒に散歩するようになっていた。


あの時の微笑みが、一目惚れだったんだと確信した日だった。

二人は付き合うようになり気が付けば18歳になっていた。

あーでもないこーでもないと親に言われながら通い続けた学校を卒業し、就職することになった。

都心で働くのではなく、地元で働くことに決めていた。

やっぱり海が好きなのと、彼女がいたからである。


決して裕福ではないから、デートはよく海沿いを散歩。

たまに映画館に行くぐらいだったが、彼女はよく笑っていた。


よく笑い、よく泣き、よく怒る感情が豊な人だった。



無限にはない有限の時間があっとゆうまに流れ気が付けば24歳。

彼女と海沿いに散歩しているときだった。


最高に綺麗な夕焼けと、ほどよく聞こえる波の音。耳をかきわけ海を眺めてる彼女を横から見て、くわえていたタバコをポロっと落とした。

夕焼けと、さざ波。それを見ている彼女が、1枚の写真見たいで。

ふと「なんて綺麗な人なんだろう」と何故か知らないが少し驚いた。

一言「どうして俺なんかと付き合っているの?」と聞いた。

彼女がこっちを向いてあの時のようにニコッと微笑み、「だめ?」と言い返した。

それが決め手なのか、理屈がどーとかじゃなくもう勢いで言ってしまった。

結婚してくれと。

やがて一緒に暮らすようになり

その一年後、子供を授かった。

男の子が産まれた。


全くをもって裕福ではない暮らしに、掃除洗濯育児と、苦労をしていたが楽しそうにしていた。


自分ではなく他人のために生きる人生に幸せだと笑っていた。

笑っている嫁を見て、最高の嫁を持ったなと改めて実感していた。






月日はだいぶ流れ子供が18歳になった。
あーでもないこーでもないと言いながら高校を卒業させた。

都心のほうに働きに行くと言うので、子供は家を出た。


また嫁と二人暮らしが始まった。

些細な喧嘩や、わだかまりもあったがそれなりに楽しく生活していた。

65になり、会社を定年退職。年金暮らしになった。

暇でしょうがないからと、二人でペットショップに行きでっかい犬を飼った。

「一人息子だったから、メスにしようと」決めたでかい犬はまだ若かった。

それから海沿いに散歩をするのが日課になっていった。

嫁と犬、毎日のように散歩に連れていった。


70になる頃、散歩しながら嫁が言った。

「どっちが先に死ねるか賭けをしよう」と、冗談を言いながら笑っていた。


残念ながら、その賭けに負けた。


残されたのは老いぼれになった自分と、同じ年ぐらいになってしまった犬だった。


歩く気力がだんだん薄れていき、毎日のように続けていた散歩もたまにしか行かなくなった。


1日の楽しみは、紅茶を飲みながらベランダから海を眺める事だった。


いつものようにベランダに出た。

やたら夕焼けが綺麗だった。

出会った頃を思い出した。


胸に込み上げる思いと、嫁に会いたくなるこの無性な寂しさが、老いぼれになった今でも、涙が
流れた。


なぜか知らないがふと、紙とペンを取り出し、やたらと長文の手紙を書いていた。

「初めて会った日を覚えていますか?」
「よく笑いよく泣く貴方は」
「僕の大好きな海のような人でした」と長々と書いていた。

書き終えてはそれを紙ヒコーキにして、2階から飛ばした。


はるかかなた遠くに飛んでいたのを見て、すこやかに笑っていた。







数年後、ある少年が海沿いで石を蹴っ飛ばしながら歩いている。

すると砂浜に紙ヒコーキのようなものが刺さっていた。


開いてみると、「海のような貴方に」と書かれていた。


長々と書かれていた最後の文には「もう少しで会いに行けそうです」と、温かい字で書いてあるのだった。





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