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義父の思い出

義父は
穏やかで優しいひとだった。

チャカチャカ…とした義母が
あれこれやっている様子を、
義父は穏やかに
ほほえみながら見守っている…

そんな感じのひとだった。


義父は
わたしたちが結婚したときに
とても喜んでくれた。

もう30年近く前のこと…

わたしたちの結婚式の最後に
義父は
親族代表の挨拶を引き受けてくれた。

人前で話すのが
あまり得意でなさそうだったが、
一生懸命に
心を込めて
参加した人たちへのお礼を
語ってくれた。

前に出て話し始めた義父は
しばらくすると
ぱたっと止まってしまい、
そのあと
「忘れたので紙を見ます」
と言って
ポケットから紙を出し、
それを読みながら
挨拶を続けた。

義父らしかった。

最初から紙を見るのではなく
原稿に頼らずに挨拶しようと
がんばるところも。

忘れたところを適当にしてしまわないで
考えた挨拶を
きちんとやり遂げたことも。

わざわざ「紙を見ます」と
宣言しちゃうところも。

わざわざ「忘れたので」って、
ごまかさずに言っちゃうところも。

まじめで率直な人柄が表れていて
とてもステキだった。
挨拶してくれたことに感謝した。


そんな義父が
結婚式が始まる前に
わたしたちふたりに
かけてくれた言葉が
とても心に残っている。

義父は
これから式を迎える
盛装したわたしたちを見て、
とてもうれしそうに、
「美男美女だなぁ」
と言ったのだ。

面と向かって
心からの「美女」という賛辞を
もらえるなんて、
あとにもさきにも
このときしかない。

しかも
ドレスを着たわたしだけでなく、
我が息子のことを
「美男」
と言ったのだ。

お世辞や社交辞令ではなく
心からぽろっと漏れた
独り言のように。

どれほどうれしくて
どれほど誇らしく
わたしたちのことを想ってくれてるのだろう…
と、
胸がいっぱいになり
気の利いた返事もできなかった。

今なら
わたしも言葉少なに
心からの
ありがとう
を伝えるのに。



仕事人間だった義父は
退職したと思ったら認知症になり、
ほどなくして
脳梗塞で倒れ、
あっという間に
逝ってしまった。

父の日に
義父の好きな甘いものを
贈ってあげられないのが
さみしい。

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