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岸田総理は新自由主義者の軍門に降ったのか─彼らがライドシェアを導入したい理由(『維新と興亜』令和5年11月号)

 新自由主義からの脱却を模索してきた岸田総理は、ついに新自由主義者の軍門に降ってしまったのだろうか。岸田総理は、十月二十三日に行った所信表明演説で、新自由主義者たちが待望しているライドシェア導入の検討を表明したからだ。ライドシェアとは、個人のドライバーが自家用車を使って乗客を運ぶサービスだ。
 しかし、ライドシェア導入に踏み切った国では、ドライバーによる乗客殺害など深刻な問題が起きている。タクシー業界では運転者の労働時間をきちんと管理し、運転者の健康状態を把握し、疲労、飲酒等をチェックしている。また、車両の整備、安全点検も厳しい基準が義務づけられている。しかし、ライドシェアでは運転者や車両に対する厳格な管理やチェックができない。
 こうした反対論を突破すべく、ライドシェア解禁を訴えてきたのが、楽天グループの三木谷浩史氏や竹中平蔵氏である。竹中氏は二〇一六年十一月の未来投資会議で、ライドシェアなどについて「先行する特区での取り組み、国際的な規制動向など、新たな状況変化に機動的に対応して制度設計する必要がある」と述べていた。
 そしていま、ライドシェア導入に向けた言論工作を加速しているのが、今年二月に旗揚げした「制度・規制改革学会」(改革学会)である。代表理事に就いた八代尚宏氏は、労働分野の規制改革を推進し、格差の拡大をもたらしたと批判されてきた人物だ。
 そして、竹中平蔵氏と八田達夫氏が改革学会の理事に就き、岸博幸氏、原英史氏ら約四十人の新自由主義者たちが発起人に名を連ねた。設立総会には、小泉政権時代に規制改革を推進した宮内義彦・元オリックス会長も顔を出した。
 規制改革推進を主張する学者たちを結集した改革学会は、岸田政権を新自由主義路線に引き戻すための圧力団体と言っていい。八代氏は「岸田政権になって規制改革はむしろ逆行し、何でも国に頼る、社会主義的な政策になっている」と批判し、「与野党の新たな政策立案を支援する」と明言している。
 九月十四日には、改革学会有志が意見書「タクシー不足問題の迅速な解決を求める」を発表し、「世界では……ライドシェア産業は第四次産業革命の象徴として極めて重要な成長分野となり、大きな企業が成長した。しかし、日本はこうした成長機会を逸してきた」と説いている。この時期、八代氏は自ら『毎日新聞』(九月十五日)や「プレジデントオンライン」(九月二十八日)で、ライドシェア解禁を訴えてきた。
 こうした新自由主義者たちの動きに呼応しているのが、九月十三日の岸田政権の内閣改造で新たに設けられたデジタル行財政改革(DX)担当大臣を兼務することになった河野太郎氏だ。河野氏は、制度・規制改革学会の設立総会にビデオメッセージを寄せ、「国政の立場からみなさんと一緒に改革を進めていきたい」と述べている。そして、九月二十二日の会見で河野大臣は、ライドシェア解禁に向けた議論に着手する方針を表明したのである。
 一方、日本維新の会は一貫してライドシェア解禁を強く主張してきた。ライドシェア解禁は維新八策にも盛り込まれている。そして、竹中氏、八代氏、八田氏がアドバイザリーボードに名を連ねるNPO法人万年野党が九月二十六日に開催したライドシェアをテーマとするワークショップには、音喜多駿氏、浅田均氏、東徹氏といった維新の会議員が参加していた。維新の会は、改革学会の意向に沿った動きを強め、岸田政権に圧力を加えるだろう。
 改革学会は、ライドシェアのみならず、林業分野の規制改革を求めて動き出している。岸田政権を新自由主義路線に引き戻そうとする改革学会の動きを、今こそ封じ込めなければならない。

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