見出し画像

「クリエイティブ」を理解する難しさを体験できる読書


「TIMELESS 石岡瑛子とその時代」


「TIMELESS 石岡瑛子とその時代」の評伝は500ページ以上の大作。ページ数を聞くだけで、長い旅路になりそうな読書体験ができそう。(ちなみに私はまだ読んでいない)

本の紹介文は下記とある。

資生堂やパルコのキャンペーンで、時代にセンセーションを巻き起こし、1980年代に活動の拠点をニューヨークに移して以降は、映画や演劇など境界を超えた創作活動を展開。
アカデミー賞やグラミー賞を受賞するなど、世界を沸かせたデザイナー・石岡瑛子。ポスターや衣装など、瑛子が手がけた数々の仕事は、命のエネルギーに満ち溢れ、いまなお輝きを失っていない。その才能と人柄は、フランシス・コッポラにマイルス・デイヴィス、そしてスティーブ・ジョブズをも魅了した。石岡瑛子のラストインタビューも手がけたジャーナリストが、彼女とともに仕事をした日米のクリエイター、関係者に取材を重ねながら、遺された膨大な作品および資料をリサーチ。
生涯アップデートを続けた「私」と、変わりゆく「時代」のミステリーに迫る本格評伝。


著者の朗読をClubhouseで聴く。


著者は広告批評の編集長を務めた河尻亨一さん。

私は広告批評が休刊になって以降、河尻さんのイベントに足しげく通った。幸いにも名前は覚えてもらえたようだ。

今回も「おっかけ」よろしく河尻さんのClubhouseでの朗読roomにて評伝の朗読を聞かせてもらった。

本人も言っていたのだが、朗読roomは30分ひたすら著者が伝えたいパートを読み、その背景を解説するというシュールな会だった。

私自身制作の裏側が聞ける機会は大好物なので、そんな朗読roomも大いに楽しませてもらった。途中河尻さんの愛猫もニャーと合いの手を入れてみたり、村上春樹の小説の中にいるような気さえした(笑。


同時期に出版した評伝を著者同士で語り合う

画像1

奇しくも同時期に出版された評伝「細野晴臣と彼らの時代」

こちらも500ページ以上の大作だそうで、その著者同士で語り合うというClubhouseも聞くことができた。

同じ苦労体験を共にした二人だからこその創作の裏側やその伝えることの難しさや葛藤を聞けた2時間だった。

顔が見えずに語れるClubhouseだからこそ、著者二人が思いのたけを吐露していたように感じた。パーソナリティとリスナーのようなラジオな空間を堪能することができた。


書くという行為は彫刻に近い。


書くという行為は彫刻に近いと言っていたの河尻さん。無形なものから掘り進めながら、しだいに輪郭が生まれ、立体的な完成に近づいていく。

書いている途中まで何が書けるか分からないくらい没頭するからこそ、締め切りとページ数という制限の中で本を完成させる。

そんな生みの苦しさは書いている本人しか分かりえない苦行。苦行を乗り越えたふたりだからこそ創作の完成をたたえ合う、その現場(room)に立ち会えたのは良かったなぁ。


立体的に見せるために対比を使う。


河尻さんが他に言っていたのは、

物語を立体的にするために、あえて対比させることでクリエイティブの本質を見えるようにした。

広告と芸術という水と油のようなフィードで活躍した石岡瑛子さんからクリエイティブを語るのは至難の技。

クリエイティブを伝えることが限られているからこそ、著者が試したのは対比構造。本のタイトル「Timeless」と「時代」という対比の言葉を並べているのもその意図さだそうだ。

ヒマラヤのようなキレイな山も近くにいってみるとゴミだらけだったりする、適度に美しく見える距離感が大事

インタビューにもあるクリエイティブの定義を聞く問いに対してもこんな答えがあったそうだ。

立体的で且つその距離感が分かるような表現、500ページ以上の物語を通じて、クリエイティブという山を表現する著者の苦しみを、読書で味わえる。そんな一冊だろう。

デザインの本ではなくビジネス書だと豪語した河尻さんの力作、時間を見つけて私も読破したい。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?