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【読書日記】上間陽子『海をあげる』

Yahoo!ニュース本屋大賞2021ノンフィクション本大賞を受賞した話題作。TwitterのTLで受賞時のスピーチが掲載された記事が流れてきて、なんとなく「これは読まなければ」と思い読んだ本です。

はじまりは著者のプライベートの問題で過去の記憶からスタートしていたため、読み手としては大いに戸惑ったのですが、家族のことを書くためには必要な作業だったのかも知れません。沖縄で生まれ育ち、そこで生活をするのはどういうことか、外の人間に伝えるためには…。

著者が住んでいるのは普天間で、飛行機が頻繁に飛び交うという。飛行機の飛ぶ音を聞くと子供は怖いと母親にしがみつく。基地や飛行場の側に住むとその騒音のひどさに耐えられないという話をよく聞きます。

私も子供の頃羽田空港のそばに住んでいたため飛行機の音がうるさいというのは経験済みだが、どうも基地の騒音は私が経験したものとは比べ物にならないらしい。恐怖が常に生活に密着しているのが、今の沖縄なのではないでしょうか。

こうした騒音とは違い、著者の文章は静かに見てきたこと、体験したことを語っている。その静けさはただ耐えるのではなく激しい感情を出さずに思いを伝えているように感じました。それこそ、どんなにあげても届かぬ声を伝えるために…。

辺野古をはじめ基地の問題は、うかつに触れてはいけないような気がします。そしてタブー視をすることで、過去の沖縄、日本に関しても目を背けてはいないだろうか。平和が大事で戦争は嫌だと思っても、どこか他人事のように見てしまうのが沖縄のことなんだと思います。

今の政治は、政策を実行することが善で、立ち止まることはどこか悪と考えている節があります。辺野古の問題だって、ちょっと一呼吸おいて考えた方がよいのに、そこは無視をして計画通りに逐行しようとする。見ていて正直怖いと感じます。

沖縄以外の人間にはわからないことも多い、だからこそ知らなければならないこともある。それが『海をあげる』なのかもしれません。基地だけでなく、著者がフィールドワークとしている少女や沖縄の女性が抱える問題。これもリアルな現代の日本を表現しているのではないでしょうか?

届かぬ声を文章にして伝えることで、外の世界に届ける。それが本になることで多くの人に知られる。すごく大事なことだと読んでいて感じました。


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