7【連載小説】パンと林檎とミルクティー~作家・小川鞠子のフツーな生活日記~
7)日常生活の中の恋という感情について
恋をした。
小説の一行目なら、これから訪れる驚きからますます相手を好きになるという希望がある。さらに、相手の性格や周りにいる人への羨望と嫉妬で心の中が洗濯機のようにまわる感情も味わい、苦い思いもすることがあると想像できる。すべてひっくるめて、期待。
日記なら、その先に出てくる言葉は、ひとりよがりの片思い。相手がどれだけ魅惑的か、どこに惹かれたのか、出会いはなんなのか、記録しておきたい言葉をただつらつらと綴るだけ。それでいい。日記は、誰にも見せないことが目的で書いているのだから。
わたしが死んだあと、日記が公開されたり出版されたら、固有名詞は伏字にするか書き換えて欲しいものだ。
恋をした。
後者である。
今さら、まさかこんなに好きな芸能人ができるとは青天の霹靂。お釈迦さまも驚き。わたしも驚き。担当編集者も驚き。
いったいどうしてそんなに、恋だというほどはまっちゃったのか。
聞かれても、明確な答えなんか出てこないのよ。
好きだから好き。
恋は理性で抑えられないものだから。
ある日、テレビに登場したその人を見て、いいなあと思ったらネットで探しまくり、情報をゲットしまくり、その後は毎日出演ドラマやYouTubeをチェックしている。
ネットが発達した令和の時代は、ありがたいのです。
そのむかしはネットもパソコンもスマホもなかったので、ほぼ2誌しかないアイドル雑誌を買い、切り抜きを交換、なんてこともやってたのでした。
今はいいわよねえ。
画像をダウンロードしまくり、待ち受けやロック画面は一瞬にしてある芸能人だらけになってしまった。
パソコンを立ち上げるたびに、姿がみえるので、ひゃ~と驚く、自分でも。おかしいよ、わたし。
恋は人を狂わせる。
とはいえ、日々の生活は送らなきゃならないし、仕事だってある。
パソコンの壁紙にいちいちひゃ~っていいながら、キーボードをかたかたさせている。
その恋はいつまでもつのかねえ、なんて言われてしまった。飽きっぽい性格だと見抜かれているのだ。まあ、三ヶ月くらいで落ち着いたとしても、そうなんだ、って思っててください。
わたしは、ミルクティーを飲みながら、芸能人某氏の情報を、今日も検索している。
つづく
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