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【ツバメroof物語③】(三人の半分フィクション半分ノンフィクション)/石井-珈琲係

 そもそもツバメroofというお店が始まったきっかけはこうだ。
夕子とアイの亡くなった祖母の家が、数年間空き家だった所をドライブ中に祖母の近くのコンビニに寄ろうとなり、突然アイが『おばあちゃんちで何かはじめよう』と言い出した事だった。 
 それは『今日晩ごはん食べに行こう』くらいのノリだった。 


 今思い出してみても、その『何か』は、あまりに突然で誰も分かっていなくて、とりあえず『何か』だった。 
分からないものを始めるのは、苦手だった夕子は、ハンドルを握りながらアイに『何かって何?』と聞いたが、『わからーん、とにかく何か面白い事!』と言って助手席で笑った。 
 またいつもの瞬間的な発言だと思ったので、返事はしなかったが、次第に夕子の心が『何か』にじんわりと期待し始め、こっそりとワクワクしながらアイスコーヒーを飲んだ。窓からは爽やかな5月の風が入ってきた。


 その後は会うたびに『色んな面白い人が来る場所作りたい』『自分も面白い事したい』『建築の仕事もそこでしたい』とアイは色々話していたが、夕子はそこに自分が要るのか、イマイチ分からなかったので、興味があるようなないような声で『ふぅ~ん』と答えるばかりだった。 
 しばらくして、アイの建築友達のその子さんが手伝ってくれるという話になった。まだ『何か』の輪郭も出来上がる前で、そんな時に手をあげてくれる変わった人だなというのが第一印象だ。 同時に不安も覚えた。『何か』を始めるにはとりあえずお金が必要だった。わけのわからないものに投資するのはリスクがあったし、このアイとその子さんの二人は頼り甲斐があるような、ないような…。 
 しかし、もう祖母宅に初めて3人が集まった時には、夕子以外の二人は、目がキラキラしていた。内心不安なのはどうやら私だけの様だと夕子はますます不安になった。 
 下見だけの予定だったのに突然『ここの壁ぶち抜こか!』とアイがいえば『わ、いいねぇ!』とその子さんまで言う。『えー、待って!大丈夫!?』と一人焦る夕子。 
 ぶち抜いてから、『アチャー』とか言うのは容易に想像できたし、建築士二人には申し訳ないが、建築構造的にも心配でたまらなかった。おばあちゃんの家が潰れてしまうからもうちょっと考えよ~!と言おうとした時にはアイはもうどこからかハンマーを見つけてきて、土壁を、『だーいじょうぶやって!』と叩いた時だった。 
 あぁ…おばあちゃんごめんなさい。止められなかった、と天をこっそり仰いで夕子は謝った。だって…まだ『何か』が何も決まってないのに…。  


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