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森の動物 第1回 サワガニ(サワガニ科)

自然写真家の中川雄三さんによる、「森の動物」のコーナーが始まります!「森の動物」は1989年頃~2005年頃まで林野庁管轄・林野弘済会発行の機関紙「森」に連載されていたコーナーです。今回、Webに再掲載するにあたって、中川さんより写真や文も加筆もしていただきました。

中川雄三(なかがわ・ゆうぞう)
1956年山口県美祢市生まれ。自然写真家。1980年に日本大学農獣医学部水産学科卒業後、山梨県富士吉田市に移り住み、富士山周辺の身近なあらゆる自然をテーマに写真を撮り続ける。1987年に動物雑誌「アニマ」にてヒメネズミの組写真でアニマ賞を受賞。
人と野生動物との架け橋となるべく、観察会や講演会などで啓蒙活動を続け、自然保護運動にも力を注いでいる。

主な著書は「富士山麓の仲間たち」(ぎょうせい)、カワセミの四季(平凡社)、まちのコウモリ(ポプラ社)、たくさんのふしぎ「水辺の番人 カワウ」(福音館書店)、他。映像ではNHK「ダーウィンが来た!~高速道路に5000羽!?サギ大集結」、NHK「ワイルドライフ~東南アジア タイ 初密着! 巨大ヤモリ ヘビと闘う」など。

NPO法人「富士山クラブ」前理事、「富士山エコネット」理事や、環境省・自然公園指導員、山梨県・環境アドバイザー(現エコティーチャー)、日本野鳥の会・富士山麓支部副支部長、コウモリの会・評議員なども務める。
中川雄三の個人Webサイトはこちら

サワガニ/サワガニ科(1993年夏号掲載)

1993,夏号サワガニ(加工)

▲卵を腹に抱くサワガニ(左) サワガニは生息場所によって色彩に変異がある(右上)

サワガニは、青森県以南、屋久島にまで分布する、甲羅の幅が約2.5センチの谷川にすむ純淡水産の蟹で、日本ではただ一種、一生を淡水でくらします。

生息場所によって色彩に変異があり、基本的には濃紫褐色、赤褐色、淡青白色の三つに分けられます。

子供のころの思い出の一つに、サワガニ捕りがあります。冷たい山水に手を浸し、ここぞと狙った大石をごろんとめくると、“しまった見つかったか”とカニたちが一目散にはい出します。時には大物が”はさみ”を振り上げて威嚇し、思いきり挟まれて痛い思いをしたものです。

昔は、どこの谷川もきれいで、平地でもサワガニの姿を見かけたものですが、今ではめったにお目にかかれません。これにはもちろん川の水質の悪化だけでなく、私たちが成長とともに物の見方を変え、興味の対象が変わり、サワガ二など探さなくなってしまったことも大きな原因なのでしょう。

小さな時には何でも不思議に思え、興味をそそったものが、大人になると反対に何でも当たり前に思えて興味を失い、見方も狭くなってしまうのでしょう。私たちでさえそうなのですから、今の情報過多の子供たちが大人になった時、彼らの物の見方は、そして自然環境はいったいどうなるのでしょうか、とっても不安です。

私の家のすぐ裏の川も、つい最近までは素晴らしい渓相をしていましたが、今では河川の改修工事が施され、昔の面影はありません。まっすぐで平坦、淵も瀬もない川の流れは、まるで下水路のようです。生活雑排水が直接流れ込むごみだらけの川ですが、それでも訪れる釣り人は絶えません。何かが矛盾している光景です。

2020年の今、サワガニを通じて思うこと

−−上記のサワガニの記事を発表してから27年。その間もずーっと懲りずに本気で、自然保護活動や野生動物たちの記録撮影・調査活動を続けています。

特に時代が変わったと思うのは、「都市部の近自然化」に「地方の近代化」でしょうか。人によるこの行動は、一言で表すとどちらも「究極の無い物ねだり」なのでしょう。

これを良い方にとらえるならば、「多様化」とも言えるのかな?都会にはもっと自然を、田舎にはもっと開発を、と言う構造がさらに加速された感じですね。

サワガニたちはと言えば、人の都合によって目まぐるしく変わっていく環境に翻弄されながらも、その都度適応を繰り返し、何とか生き延びているようです。

コンクリートの三面護岸でいったん姿を消したサワガニも、この20数年で地震や洪水などの天災を受けて人工物が自然劣化したため、また再び姿が見られる場所も出てきたのです。

カメラを威嚇する子持ちサワガニ1(著作表示あり)

▲お腹の稚蟹を守り、はさみを振り上げる母サワガニ

お腹の子供を守る凛々しい母ガニの姿。これはデジタルカメラと「虫の目レンズ」を使って撮影した写真です。

デジタル化が進んだ今、フィルムの時代では到底不可能、もしくは困難だった悪条件でも撮影記録が可能になりました。それにより、動物たちの新たな魅力や生態に気付き、その大切さを改めて学べることも多々あります。

便利なほうへ便利なほうへと向かっていく人間の、大きな流れを止めることはできません。

しかし、時代の改新速度が早過ぎるのは、多くの弊害を誘発する元凶にもなりえます。私たちは日々、そのことを頭に入れ、身の程を知って生きていくことが必要なのではないでしょうか。

たくましい野生動物たちの適応力に甘んじては、いけないのです。
(文・写真・中川雄三)

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