トレイルカメラは見た!第2話「森で尽きた命巡る物語」
息絶えた鹿を見つける
木々の葉がすっかり落ちた、冬のある日の出来事。森の中で、横たわる一頭の鹿を見つけた。
鹿は息絶えていた。生を全うし、あとはこのまま土に還るのを待つばかりかーー静かな森の中、鹿の死を想い、少し寂しい気持ちになる。
鹿の死骸をよく見ると、何かに食べられた跡がある。動物の仕業だろうか。
いったいどんな動物が来ているのだろう。自然の中で尽きた命はどうやって朽ちていくのだろう・・・。トレイルカメラを置き、観察することにした。
▲地主の許可を得てトレイルカメラを設置
トレイルカメラに映っていたものは
数日後ーーカメラをチェックして、自分の目を疑った。
なんと、絶滅危惧種に指定されている、「クマタカ」が映っていたのである。
クマタカは森林に生息する大型の猛禽だ。めったにお目にかかることができない。運よく見られたとしても、せいぜい大空を飛んでいる姿くらいである。
そのクマタカが、鋭いくちばしで鹿の肉を引きちぎり、夢中で食べているのだから驚いた。
鹿を食べに来ているのは、カラスかタヌキだろうと予想していたし、クマタカ=狩りの鳥というイメージも強かったので、こうしたスカベンジャー(腐肉食)的な側面を持っていることの意外性もまた、驚きに拍車をかけている。
考えてみれば、クマタカだってそう毎日狩りが成功するわけではない。食べられるチャンスがあれば、腐肉だって食べるだろう。
あらためて、野生動物のしたたかさを再認識した。
映像を確認していると、翼を広げてポーズをとっているクマタカの姿も映っていた。
これは猛禽類に見られる行動で、翼で獲物を隠し、他の捕食者から見えないようにしていると考えられている。
クマタカも、こんな行動をするのか・・・。上空を気にしているので、近くにトビかカラスが飛んでいたのかもしれない。
トレイルカメラには、実に2時間以上も食べ続けているクマタカの姿が映っていた。この日だけでなく、別の日にもやって来て腹を満たしていた。
トビとカラスの関係性
また、別の日にはトビも映っていた。周りをうろつくハシボソガラスを気にせず、頭を突っ込んで鹿肉をむさぼりつづけている。
カラスは、いつまでも場所を譲らないトビにしびれを切らしてか、大胆に近づいてみる。しかし、やはり自分よりも大きな体のトビには分が悪いと感じたのか、あきらめて飛び去ってしまった。
カラスが獲物にありつくには、トビの食事が終わるのを待つしかない。動物たちの力関係も知ることができた。
カケスのナゾの行動
カラスの仲間であるカケスも、鹿の肉をついばみに来ていた。時折、鹿の毛がついている部分をわざわざ選んで飲み込んでいるように見える。一体どういう行動なのだろう?まだまだ生き物の生態は謎だらけだ。
▲毛ごと飲み込むカケス
また、夜にはタヌキ、ハクビシン、キツネ、テンなど・・・。昼夜問わず様々な動物たちが訪れた。
一頭の鹿の死と、それに生かされるたくさんの命
結局、トレイルカメラを設置してからわずか一週間ほどで、鹿は骨と毛だけを残して綺麗に食べつくされてしまった。その骨も、ネズミがかじり、毛は鳥たちの巣材に利用される。
映像を見終えた後、最初に鹿を見た時に感じた寂しさは、もう無くなっていた。トレイルカメラが記録した死後の映像から、寂しいどころかたくさんの命でにぎわっていることがわかったからだ。
自然下では、命を終えた後も、その肉体は様々な生き物の血肉となる。
そうして、命は続いていく。
(文・撮影/つばめプロ)
前回の記事はこちら
Webマガジン「ネイチャーフィールドnote」記事一覧
ここから先は
ネイチャーフィールドnote
自然・鳥・動物に特化した映像制作会社「つばめプロ」が、写真、動画、音声などを交えて、自然にまつわる記事を発信していきます。
頂いたサポートは、noteの運営費や、記事に協力して下さったクリエイターの支援に当てさせていただきます。「スキ」やコメントを頂くだけでも、十分励みになります!(つばめプロ)