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犬に飼われる

お迎えする前

我が家には一歳と五か月になる女の子の犬がいる。
今まで犬を飼った事もあるし、猫も飼った経験があるが、多分歴代の中で一番賢い子のように思う。

犬種はイタリアングレーハウンドで、自分を殺してでも我慢する性格のために、繊細であり、ストレスで死んでしまう事もあるという。
"果たしてそんな子を、忙しくしている二人が飼えるのかどうか"
が、お迎えしようかどうしようか?と悩んでいた頃の夫婦二人の悩みでもあったが

✓あまり見かけない
✓短毛種である
✓犬としての体臭がない
✓無駄吠えしない

等、個人的にはデメリット数よりもメリットに感じる事の方が多く、家族に迎える事となった。

それに、と、私は思う。
私は長期で通院を重ねている。理由は副腎を壊してしまったからだ。人間の副腎はストレスに大変弱く、自身でもできる限りストレスのないよう生活をしようと心がけている。烏滸がましい、と言われれば尤もだけれど、なんとなく自分と共通点があって、もしストレスの溜まるような状態になっても分かり合えるのではないか?と無責任に考えた『お互いの共通点』からの踏み切り、が、一番、大きかった。

お迎えの後

上記の件で夜ごと話し合い、うちに迎えたのが生後三か月頃の事。
すくすくと成長し、犬のくせになぜか人間のような仕草や態度が増え、たまにどちらが飼い主なのかわからない事もあるほど。

驚くくらいの甘えん坊で、病院に連れて行くと
「イタグレさんなのに珍しい。分離不安でも抱えてるの?」
と獣医師に話しかけられていたところを見ると、どうやらあまりこうした気配はよそのイタグレさんには見られないらしい。本当にベッタリで、一緒にいると常にどこかがくっついていないといけないらしく、私や夫が何かをしているとそれをじーーーっと眺めて、待っている。

そのじーーーっと眺める行為、それがとても職人気質で、技は目で盗むと言われている世界の(まるで)人間のようで笑ってしまう。

例えば、私たち人間が眠るとき。
枕を使い、夫婦が共に、頭を同じ方向において眠る、これが几帳面な彼女の心にドンズバに響いた模様で、今では
【決められたように必ず二人の間で、同じように枕を使って、頭だけを毛布から出して眠る】ということをする。

時には私の枕を知らない内に奪われている事がある。顎をちょんと乗せる体勢を決めていたかと思うと、お互いが寝入ってから、あの長い四肢をつっぱり、ぎゅうぎゅうと押してくる。私は私で、細い脚の上に乗って骨でも折ると大変だと思い、知らずの内に、ゆっくりと体を移動させる。はっと気づくと、私だけが何も着ておらず、彼女は私の枕に頭を預け、仰向けで人のように眠っている事もしばしば。(可愛らしさに笑ってしまう!)

彼女の方が先に起きると、私を起こすために、前脚で何度か私をペチペチし、薄目を開けると、隣で[ウッタナシショーサナ]というヨガのポーズをしている事が多い。これは私が起きる時に必ずするポーズで、彼女が私に伝えたい事は『はよ起きろ。このポーズせんかい!』である。

ウッタナシショーサナをしてみせる彼女。

とても可愛い。こんなに可愛らしいと仕方なく起きる事となる。テロです。

天性の人たらし

こんな子なので、ドッグランに行っても、彼女はいつも犬より人で、すぐにいろんな人にすり寄っていく。ねぇねぇねぇ、好きよ!!
若い女の子には『わぁ~なにこの子!超かわいいんですけど!』と言われ、犬をよく知っている人にも『イタグレさんてあんなに明るくて人懐っこいんだねぇ』と言われ、『あの子は周りの空気読んでるね』とか『あんなに賢い犬種だと思わなかった』と良い言葉を頂戴する事も多い。
とても人たらしである。

イタリアングレーハウンドはドッグランで嫌われる事も多いらしく、どの犬よりも足が速く、大きいとも小さいとも言えない体は、トイプードルやチワワに比べると少し大きく、落ち着きもないので追い回したりする事もよくあるそうだけれど、彼女にはあまりそれがない。この子は走れる仲間(嬉しい!)、この子は大きいから恐竜さんみたいで怖い(プルプル)、この子は……と自分の中でカテゴリーがあるらしく
『そういう面倒くさい事を考える前に、その親を先に落とす!』
という作戦の上に生きている策士な部分もあって、驚いてしまう。

仲良くしている犬友達さんは『飼い主に似るんだよ』と笑っていたが、私はそこまでではないぞ?と思う。多分。きっと。

困りごと

さて、そんな彼女にも困った事がひとつある。
なぜかたまに勢いよく、宅内のトイレの外にオシッコをしてしまう。一番の問題はキレイ好きで、一度したペットシーツがそのままになっていると足の裏が汚れるのでそこには入りたくない!という事なのだろうと思い、汚れたらすぐに取り変える、をしていた。

でも、私は疑問だったのだ。なぜなんだろう、と。腑に落ちない何かがそこにあった。たまに、新品で美しいままのペットシーツの時も外して粗相をする事もある。

我が家のリビングは二階にあり、初めの頃はリビングの隅にトイレを置いていたのだけれど、皆が階下のトイレに行くのを見ていて、ある日、人間用のトイレ外の廊下に粗相が増えた。とにかくよく見ている子なので、あなどれない。きっと、これからは自分も階下でするべき!と思ったのだろう。いつの間にかリビングからトイレは消え、人間用のトイレのある廊下の隅に設置してやると、人間同様、トイレトイレー!と急いで階段を下りるようになった。それから一度もリビングでの粗相はなし。そんなに賢いのに、そんな無駄な事わざわざするー?と、余計に腑に落ちなかったのだった。

何かしらそうして意思を伝えてくる子なので、その、"的はずれな粗相"も絶対に別の理由があるはずだ、と思うようになった。

そしてとうとう、謎が解けた。


謎はすべて解けた

今週、夫が出張に出かけている。
私は私で、すべき事も多く、居ないからと言って何もしないでよい、という状況にはない。彼女を独り残し、仕事にも行けば買い物にも出かける。たった5分離れただけで、死ぬかと思ったほんとに!と私の前にひっくり返り、お腹を撫でて欲しがるような子だ。

夫が出張中、面倒を見るのは私しかいない。それで私は不安になる。仕事に行くのも、病院へ出向くのも、彼女が独りぼっちになる時間が長い。夫がいれば、私は少し遅くなるから仕事が終わったのなら、先に帰ってやって!とlineも出来るが、そういう人もいない。うん、困ったぞ……そう思っていた。

出張への出発数時間前、夫は準備をしていた。
飛行機の時間もあるので、出社の時よりもゆっくりめの準備をして、月曜の昼前には家を後にした。それまでじーーーっといつものようにソファに座って眺めていた彼女が、とてもそわそわしていたので
『しばらく帰らないんだって!一緒に頑張ろうね』
なんて声をかけて、夫を玄関で見送った。

夫の姿が、気配が、玄関から消え、私はリビングに戻り、当然ついてきてソファに座ったであろう彼女に
『あーあ。行っちゃったねー。私も昼から仕事だし、いい子で待っててよ?』
と声をかけ、隣を見ると、いない。
え、ドライか、トイレ?と思って階下に降りると、なんと珍しく独りでベッドで寝ている!!

確かに度々、独りきり、ベッドを悠々自適に使っている事がある。でも、それは、夫が仕事に出かけ、少し遅れて私が起きリビングでご飯を食べたり、何かをしている、"寝ているままの彼女をベッドに置いてきた"時だ。

何かをしているとわかっているから、かまってもらえず、かまってもらえないのであれば、二人の香りのするベッドで眠っていた方がいいわ♡と考えているのだと思っていた。

まず、その考え自体が間違っていたらしい。

数日、私ひとり、仕事に行ったり、ちょっと出かけていて戻るのが遅くなったりして、月曜も火曜も水曜も、出先で一番に心配していた"的外れな粗相"であるが、なんと、それが一切ない!!なんなら、私ひとりだからをいい事にさぼりが発生して、汚れたペットシーツに気づいていても下げもせず、まぁまだ一回しかしてないしOKかなぁ~、と、そのまんま設置している日もあったが、ちゃんと汚れていない部分にもしてあった。彼女は、ビショビショになるまできちんと使いこなしていたのであった。

そこではっとした。
【嫉妬】だ。私を夫にとられる、という、嫉妬。
悠々自適にベッドで眠っているのも、私は誰にもとられる事のない状況で、なのだ。夫がいつも言うのであった。

『寝る時はいつも俺の傍にいるのに、起きると絶対、あなたの方にいる』
と。

要するに、私がよそ見をして自分以外に夢中になっている、その状況が許せないから注意を引き付けるためであれば、叱られたってかまわない!というやつだ。なるほどなぁ……と思う。

子どもにもそういう事がある。自分に注意を向けてほしくてわざと問題行動を起こす、あれだ。もうここには二人しかいないので、私が彼女以外に注意を向ける相手もおらず、どこかに行く前にはちゃんと、行ってきますと言ってくれるだろうから私は安心してベッドで過ごします、なのだった。

実際、いつもならとても甘えてくるのに、逆に私の方が
「あら、静かね」とか「だっこー!って言わないの?」とか話しかけている状況が続いている。満足しています、という顔をしてこちらを見る。愛されていて満足している時に見せる少し眠いよ、の時の細目をくれたりもする。

夫が出張先から連絡をくれた。あの子どうしてる?いい子にしてる?
その質問に、(驚くほどにいい子にしています!)とも言えず、
『うん元気だよ』
と答えて、ビデオ通話で姿を見せてやると、自分の名前を呼ばれて前脚で画面を二回ほどタッチ、はよ切れ!のような仕草をした。お前は私の親か。人間の男になんかほだされやがって!そう思ってるに違いない。数日は追いかけても来なかったのに、ビデオ通話をしながらキッチンの方に行ったら、わざわざキッチンまで呼びに来てクゥウン、なんていう切ない声まで出していた。

どちらもかけがえなく、どちらも愛しています、で、許してくれやしないだろうか?可愛い寝顔を見ながら、犬に許しを乞うている自分に、どちらが飼われているのかわからない!と思いつつ、私のところに来てくれて本当によかったなぁと、幸せに思う。

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