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日本に子どもが生まれない理由 〜女の怒りと怨みを込めて〜

こんにちは。2人の男児を育てる海石榴(つばき)です。
同世代の働く母親たちなら、口を揃えて証言してくれるはずです。「私たちは本当に幸運に恵まれただけ」と。こうなることは火を見るよりも明らかだったのに、今さら「出生数80万人割れの衝撃!」と驚いてみせる永田町に送る、これは最後通牒です。

”キャリモテ”の掛け声と、世間の本音のあいだで

---海石榴さんが大学を卒業して社会に出たのは、2004年でしたね。
”キャリモテ”を信じて世間に出た小娘でしたが、当時は、キャリアか子どもを「文字通り」選択せざるを得ない時代(*1)でした。「子供を産んでも働き続けたい」だけで士業を目指したのですが、家庭のルーティーンを回しながら営業・・・なんて無理でしたね(笑)

---当時、世間に感じる違和感をmixiの日記に綴っていたとか。
酒井順子さんの著書『負け犬の遠吠え』(2003年)の「どんなに美人で仕事ができても『30代以上・未婚・子ナシ』は女の負け犬!」というフレーズは、多くの女性たちの心を引き裂いたはずです。自虐的なユーモアセンスに敬意を払いつつも、当時は「だから早く子どもを産め」と脅されているような気持ちでした。「名前のわからないイタリアンブランドのバッグを自慢できる貴女はいいですよね」という嫉妬も感じていました。非正規雇用の女性たちを見ようとしない違和感ですね(*2)。

---2006年には柳沢伯夫厚労相(当時)の「産む機械」発言(*3)もありましたよね。
当時の日記を引用してみます。プライベートな愚痴日記なだけあって、その筋からは目をつけられる内容ですね…

少子化って子供が減っていることが課題じゃなくて、少子化に伴う社会の仕組みの不安定化が課題なのではないでしょうか あと数年のうちに出生率が2を超えるとは思えないのに、大臣ともあろう方が本質的な課題の発見ができてないことを露呈してしまったあたりが突っ込みどころなんでは 与党も野党も政党支持者が望んでいるのはこういうのだろう的な「らしさ」のイメージみたいなのにとらわれて本質を突く議論というかマニフェストがないのが不満。

2007年1月29日付mixi日記より

日本に子どもが生まれてこない理由

---「女性を機械として扱うなんて!」と反発してみせた左派にも違和感を感じていたんですね。
”ジェンダー”という言葉に救われたこともありましたが、ただの”社会の物差し”にすぎないイデオロギーを政策目標に据えることには反対です。これは、わたしが2人の男児を育てている現実とも深く関係していると思います。

---子育て支援政策については?
少子化の最大の原因は、男女共に子どもを育てられるゆとりの見通しが立たないことではないでしょうか。とりわけ、労働市場改革(*4)に手をつけなければ先に進まないと考えています。そもそも「非正規には産育休を認めない」労働慣行(*5)のせいで、どれだけたくさんの女性が涙をのんで職場を去ってきたか。組織の都合に合わせて妊娠なんてできるわけないのに、本当におかしいですよ(怒)!!

---ちょ、ちょっと落ち着いてください・・・!
男女共同参画政策に漫然と多額の税金が使われていながら、いっこうに女性の経済的・社会的地位が上がらず、現実の男女がいがみあって子どもが生まれてこないのは、「”社会の椅子のデザインを決める人”が男性だから」です若く愛嬌ある女性を宴席に呼びつけ、結婚すれば地域活動を含む家庭運営の責任を負わせて正規雇用の労働市場から締め出し、結婚しない非正規雇用の女性たちを直視してこなかった政界、財界、労働組合全てに異議を申し上げたい

---・・・。
政策立案の現場において、課題に場当たり的対処しかしないことや、そもそもの課題設定のあり方にも疑問を持っています。アカデミアでよく耳にする「教員職における女性比」や「理系学部入学者数の女性比」は本当に制度設計で解決すべき課題なのでしょうか(*6)。性別役割分業による不平等を解消したいなら「1組の男女からなる夫婦が、賃金労働と家事労働を流動的に分担し合う」のがもっともフェアではないでしょうか。家庭内の役割分担は夫婦で話し合えばいいですよね。財界の偉い人は「家事育児なんか外注すればいい」とか簡単に言いますけど、外注するにも手間がかかること、外注するという決断そのものへの責任は常に付きまとうことを骨身に染みてお分かりになってるのでしょうか。

---・・・。
社会から専業主婦になることを暗に期待されていたわたしが、わざわざ”矯正"されるまで専業主婦にならなかった理由の一つは、「夫が有期雇用だったから」
です。「経済力を持つ男性とそれを支える女性」を社会の”標準”に据えてきたことによる歪みを清算するタイミングだと思います。

どうか悔いのない選択を、今すぐに!

---最後に、子どもを持つか迷っている人に言いたいことは?
世間の「早く子どもを産んだら」という声に、もやもやしたり反発していた時期がわたしにもありました。まず、子どもは、社会制度の維持のために産むものではありません。それから、今のところ大禍なく成長している点で幸運に恵まれたケースである、というおことわりをしつつ。

・・・世間の多くの大人たちと同じように、わたしもまた「子どもを持って本当によかった」と思っています。夜、布団の中の子どもたちに「君たちはママの宝物だよ」と囁いて、いつか来る巣立ちの日のことを想像しながら微睡むひとときを、あなたもぜひ味わってみてください

子どもを持つと自動的に「○○ちゃんのママ(パパ)」という肩書きがもらえます。世界のどこでも誰にでも通じる最強の肩書きです。子どもを通じて世間とつながってみると、「自分のことだけで老いていけるほど、人間は利己的に設計されていない」ことを実感します。子どもを持つか持たないかに関わらず、それは変わらないとも思うのです。

どうか悔いのない選択を、いますぐに!(*7)

(*1) 「結婚した女性は働いてもいいけれど、パートか派遣さんでお願いね」という世間の偽らざる本音を感じていました。タイトル画像はBea Miller "THAT BITCH"より。https://www.youtube.com/watch?v=V_6pApadewg

(*2) 東洋経済オンライン「子がいない『中高年単身女』の知られざる貧困/女性活躍の陰に埋もれ、声すら上げられない」https://toyokeizai.net/articles/-/633593 など、最近ようやく記事になるようになりました。

(*3) 当時、連合大阪などが厚労大臣の辞任を求めるなど強く反発していました。子供じみた言いがかりで政局が運営されるようになったのはこの頃からではないでしょうか。また、当時友人限定公開にしていたmixiを検閲されていたことがきっかけで、わたしは今、無償労働をしています。内閣府直下の個人情報保護委員会に相談しましたが、回答はありません。
連合大阪「『女性は子を産む機械』発言を絶対に許さない」https://www.rengo-osaka.gr.jp/whatsnew/data/070131.html
朝日新聞「私はなぜ『産む機械』発言したか 産まぬ自由『大前提』」https://www.asahi.com/articles/ASNC67K28NBXUPQJ005.html

(*4) ”時間調整の必要な労働力”という労働市場原理にねじれをもたらす配偶者控除、図書館司書などの非正規公務員といった官製の不平等構造を壊さないままで良いのでしょうか。https://note.com/tsubakizak/n/n24e4aaca85f3

(*5) 制度と現場のギャップは想像よりも大きいはずです。

(*6) 読売新聞「東大が女性教員300人採用計画、異例規模で5年後に比率25%に引き上げ」https://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/kyoiku/news/20221117-OYT1T50275/ など。この政策で「一定の成果をあげなければ子どもを産みづらい」と言われるアカデミアの慣例は変わるのでしょうか。

また、入学枠にクオータ制を設けるのであれば、若くして出産した女性や家族の介護をしていた男性など「社会的に期待される役割を引き受けたことによる不利益の代償」として優遇枠を設けるのが筋ではないでしょうか。生物学的な性別を条件とした制度設計が許される余裕は、今の日本にはないと思います。

(*7) 環境危機時計よりももっと切実に、女性の中の妊孕可能限界時計は動いています。なぜ政治の世界に女性が必要なのか、日本の「失われた30年」とともに考えてみてください。

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