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置き去りにされた記録 第8章 〜再生〜

私はカウンセリングに来た頃はなんとか夫を助けたい気持ちでいっぱいだった。
夫がアルコール依存症ということを知るまでの15年間は同じことの繰り返し。夫のため、自分のためにいいと思ってやってきたけどなにひとつよくならなかったし悪化する一方だった。
アルコール依存症の治療ではよく「底つき」と言われるけど、私はその言葉が大嫌いだった。私の中で底つきは仕事を失い、家族を失い、健康を失い、とにかく今まで築き上げてきたことをすべて失うことだと思っていた。
そんなことは絶対に嫌! って思っていた。
だから底つきをしないように家族教室に通い、正しい答えを学び、なんとかすべてを失わないようにしたかった。
出来ることから少しずつやり方を変え、夫の問題を夫に返すようにしていったら猛反発が起こったけど、今までと違うパターンになってきた。そして夫が苦しみ出してきた。
その苦しみは当然私にぶつけられてきたけど、苦しんでいる夫を見て私もすごく苦しくなってきた。

「この苦しみはなんだろう?」

って思ったけど、本当はわかっていた。
夫はアルコールに依存しなければいけないけど、私はそんな夫に依存しなければ生きていけないということを。
夫の問題がある限り、私は自分の問題と向き合わなくていいのです。
この苦しみは自分の問題と向き合うことが直面させられてきたことの恐怖だったのです。
限界を感じて家を出たけど、私にとって本当に苦しい決断でした。
家を出れば夫から暴力を受けることもないけど、私の体は引きちぎられるくらい痛くて、内臓が口から全部出てきてしまいそうなほど苦しかった。
それがFAP治療によってだいぶ楽になってきた。
当初夫婦カウンセリングは月に一度の予定だったけど、月に一度も会いたくなくなってきた。
今までいろんなところに相談に行ったけどどこに行っても「離れない」と言われるばかり。私は離れなくてもいい方法を聞きたいのに、誰もが敵に見えた。
だから、ずっと自分でなんとかしようとしていた。
カウンセリングでは先生は否定も肯定もしなかった。
ただ話を聞いてくれた。
少しずつ私が変化してきて落ち着いてきた頃私はそろそろ家に帰ろうかと思っていた。その時先生が
「最上級の暴力だよ。この暴力を治すのは難しいかもしれないし時間もすごくかかると思うよ。精一杯がんばるけどダメだったらごめんね」
そう言ってくれた。
その時素直に話を聞くことができた。

夫のことは先生にまかせよう。この先生は私たちを引き離したりしない。私の敵じゃない

そう思ってまだしばらく別居をしていることにした。

今までは「あの人も悪いけど私も悪かったから、、、」と言っていたけどFAPによって押し込めていた怒りや悲しみなどの感情が出てくるようになったら
「本当はこんなことが嫌だった」「あんなことがムカつく」と話すようになった。
そしたら先生に

「それって嫌いってことでしょ」 と言われたけど

「嫌いじゃないよ。嫌いって言ったらかわいそうでしょ、、、、、、」

そう言った瞬間に自分のことを変に思った。

(私って嫌いって思ったらかわいそうだと思っているんだ、、、なにがかわいそうなんだろう、、、?)

私の体は思いっきり夫が嫌いだと訴えていた。
とにかく夫に対してのパニックがすごくて、街で夫に似た感じの人を見るとパニックが起こり、嫌悪感もすごかった。

家を出た最初の頃はしばらく別居をして時間がかかってもいいからお互い回復したらまたやり直したいと思っていた。でも離婚まではまだ考えられないけどもう一緒には暮らしたくないかもと考えるようになった。
そんな時の何度目かの夫婦カウンセリングのときです。
夫の父親もアルコール依存症でケンカが絶えなかったそうで、飲んで仕事をしない父親の代わりに母親が一生懸命働いていたそうです。でも限界を感じ、夫が中学を卒業と同時に家を出たそうです。
そのことを夫から「俺は捨てられた」「裏切られた」という気持ちを聞いていて私はこの人を守らなくちゃいけないって思うようになりました。
私は捨ててはいけない。私は裏切ってはいけないって。
“この人をこれ以上傷つけたらこの人は生きていかれないかもしれない”
その責任が重く肩にのしかかっていました。
その話が出た時先生が
「お母さんが出ていったから傷ついたのではなくもっと小さい時から女性に対してコンプレックスを持っていたんですね」
そう言った時、夫の目には涙が浮かんでいた。
なにがあったのか私にはわからないけど、その涙を見て私の肩にずっしりと乗っていた重いものが取れ

>>夫の苦しみは私が何かしたからといって取れる訳ではないんだ。夫自身の問題なんだから私がいてもいなくても夫が自分の問題に向き合わなければ苦しみから解放されることはないんだ。

そう思った時


離婚しよう!



はじめてそう思いました。


それから何度も「本当に離婚でいいのか?」考えました。



つづく

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