「真心」のおくりもの
私が小学校1年生の時の担任の先生は
文子先生と言います
母から
「叩いてでもいいから
厳しくてもいいから
娘の左利きを直してやってください」
と頭を下げられた時
文子先生は
メガネの奥の目を細くして
にっこりと微笑んで
「左利きは個性です
私には直す理由が見つかりません」
と母に優しく諭してくださいました
それが4月の家庭訪問の出来事で
それ以降
母から私の左利きへの不安やしつけを
受けた記憶はありません（多分）
先生の言葉を
母もホッとして受け止めたのかもしれません
私の一方的な思いかもしれませんが
文子先生は
「私を守ってくれる人」のような
存在になっていたことは確実で
何かあると先生の近くにいたのを
覚えています
それから4ヶ月後の
夏休みの終わりに
私の父が心臓発作で急逝し
目の前で私たちの名前を呼びながら
倒れていく父の姿を目の当たりにしてしまい
新学期以降しばらくは
突然発熱したり
嘔吐したり
突然泣き出したりと
不安定な時が続きました
母がよく話してくれたのは
しょっちゅう熱を出しては
保健室のベッドで母を待つ日があり
母が保健室のドアを引くと
私の手を握り涙を流しながら
母に振り向く文子先生の姿があったそうです
その度に母は
「あぁうちの子は今度こそ死んでしまった」
と思ったそうで
そうすると先生が
「えりちゃんが熱で顔を赤くしながら
お父さんの話をするのを聞いていると
可哀想でね」
と伝えてくださったそうです
教師生活最後の年に受け持った
生徒の一人に
左利きを異常に心配するお母さんを持つ子がいて
ちょっと気になっていたとして
今度はその子のお父さんが突然亡くなって
新学期早々熱を出してうなされて
保健室に何度も運ばれることが続いたら
先生としても
「この子はどんな生き方をしていくんだろうか」
と気になったのかもしれません
小学校を卒業しても
中学校に行っても
先生はお手紙を書いて送ってくださいました
「高齢になり
筆を持つことが難しくなりました」
と最後に年賀状をいただいてから
しばらく交流が途絶えていた
私が29歳の時
アメリカで同時多発テロが発生し
アフガニスタンを攻撃した時に
中央公園を借り切って
公園の芝生に大きな大きな平和の鳥の絵を描いて
公園に来た人に５０センチ四方の紙を渡して
それぞれに描いていただいたメッセージを
並べて一枚の巨大な絵にするという
パフォーマンスを
母や妹、親友や協力してくださった方々の助けを頂きながら
挑戦してみたことがありました
新聞にも載せていただいて
イベントの当日に
10年以上会っていなかった文子先生も
私の様子を見に来てくださいました
緊張で前の晩眠れず
朝から吐きそうなほど怖い気持ちを
抱えながらも
なんとかイベントをやり通そうと
絵を描いていたら
突然目の前に
高齢の女性が立っているのに
気づきました
ふと見上げると
ニコニコとした笑顔で
私を見下ろしています
おはようございます
よろしかったら
メッセージを描いていただけますか？
と私が言うと
そのおばあさんが
「あんたは 良い子に育ったね」
と目に涙をいっぱい浮かべて
私にそう言ってくださいました
その瞬間
おばあさんの顔が
20年以上も若返り
当時の文子先生と重なりました
突然のことでびっくりしたけれど
瞬時に7歳の私に戻り
せんせーい
うわーん
うわーんと
しゃくり上げるように
大泣きしてしまいました
先生は用意してあった絵筆をとり
赤色を選んで
「真心」
と書いてくださいました
考えてみれば
先生からは
「ああしなさい こうしなさい」
何かしら諭されるようなことは
言われた記憶がありません
あの時残してくださった
「真心」の言葉
それこそが
私が先生と出会ってから
先生からいただいていた
思いでいあり
心であり
教えであったのだと
今も大切に額に入れて
私の心の中での指針となっています
何をするにも
「私の言動には真心がこもっているかな」
そう思いながら
人々と向き合う自分がいる
そういう教えを心で学べた私は
なんて幸運だったろうと
思います
左利きだったから
大切な人を幼い時に失ったから
それなりに傷ついたけれど
そんな私に深く寄り添ってくれる
人がいたことは
神様からの贈り物だったなと
思います
今は先生は天国で
きっとあの時と同じ
優しい目をして
にっこりと私を見守ってくださって
いるだろうなと信じています
先生を思うと
私の心には
なにかあたたかい温もりが
広がります
大丈夫だよ
あんたは良い子だよ
そう囁いてくれる
先生の声が広がるような
そんな感覚です
学校で子どもたちと過ごす時
私はニコニコと見つめている時があります
そんな時はきっと
先生も私のところにきてくれて
一緒に子どもたちを見つめているのかなと
思うことがよくあります
幸せものだなぁと
思うひとときです
☆あなたがあなたらしく 笑顔で過ごせますように☆
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今日の日めくりカレンダーの言葉
「のびのび のびのび」
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