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VOCA展受賞作に見つけた宇宙🌃無数の上野の宇宙だったり、襖の向こうの宇宙だったり!

若手の現代美術家の登竜門として知られるVOCA展が開かれている上野の森美術館へ。訪れた二人の目は、たくさんの額縁がコラージュのように貼り付けられた作品に釘付けになりました。

つあお この作品、額縁とか木枠だらけですごくないですか?

まいこ 額縁のコラージュっていう感じですね。お祭りみたいな賑やかな雰囲気! VOCA賞を取った作品なんですね!

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尾花賢一《上野山コスモロジー》(インク、ワトソン紙、木枠、250✗400✗20cm、VOCA賞受賞作品)展示風景

つあお 額縁の中の絵は、何となくどれも漫画っぽいですよ。近寄って見ると、わりと見覚えのあるものがたくさん描かれてる。

まいこ ホントだ! 絵はモノクロですね。だから漫画みたいに見えるんだ。ロダンの《考える人》なんかが描かれてる! 新聞記事みたいなのもありますよ。何なんでしょう?

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つあお その下の猿の絵は大迫力!

まいこ 劇画調! でも立体的ですね。

つあお まさに「くわーっ!」ていう感じだ。

まいこ 猿って「くわーっ!」て鳴くんですか?

つあお 多分、上野の猿はそう鳴くんじゃないですかね? 今度動物園に行って、鳴き声を聞いてみますか?

まいこ 💡ひょっとしてこの猿も《考える人》みたいに誰かの作品から来てるのかな?

つあお 素晴らしい。いいことを聞いてくださいました。これは明治時代の高村光雲という彫刻家が作った《老猿》という木彫作品なんですよ。高村光雲は、有名な詩人高村光太郎のお父さんです。

まいこ えー、そうなんだ。ロダンと並べて、こちらも彫刻を絵にしたんですね。

つあお まいこさんは、またいいところに気がつきましたね! 高村光雲の《老猿》は東京国立博物館、ロダンの《考える人》はすぐ近くの国立西洋美術館にあるブロンズの彫刻です。

まいこ へぇ。どっちの館も上野にありますね。ここにいろいろ貼り付けてある絵たちは、もしかして全部上野つながり?

つあお どうもそのようでございます。改めて作品のタイトルを見ると《上野山コスモロジー》となってます。

まいこ 作品のインパクトが強すぎてタイトルを見てませんでした。「 上野のお山の宇宙論」なんですね!

つあお 細かく見ていくと、《モナ・リザ》なんかも描かれている。レオナルド・ダ・ヴィンチの時空へ! まさしく「宇宙」だなって思っちゃいます。

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まいこ 《モナ・リザ》! 上野で行列ができた伝説の展覧会ですね!

つあお 《モナ・リザ》の来日は、確か1974年頃のことだったと思います。東京国立博物館本館の「特別5室」という部屋に《モナ・リザ》が1点だけ飾られ、それをみんなで拝んでいたと聞いたことがあります。

まいこ 美術品を拝んでたんだ。なんだか時代を感じますね。

つあお 拝むといっても仰ぎ見る感じだったのだと思います。日本で《モナ・リザ》を見られるのはやっぱりありがたいことだし、けっこう高い位置に掛かっていたらしい。だから拝む感じになりやすかったのかも。

まいこ なるほど〜。作品の真ん中辺りには、《モナ・リザ》めがけてスプレーをかけて逮捕される女性も描かれているみたいです!

つあお そういう事件もあったんですね。絵は、きっと当時の新聞記事を模写したものなのでしょう。なんだか新聞というオールドメディアの重要性がわかりますね。

まいこ 《モナ・リザ》は社会現象だったということですね。でも現在も、 フェルメールや伊藤若冲で何時間待ちとか 興福寺の阿修羅像を東京で見るために90万人も来場するとか、状況は意外と当時と変わってないのかも。

つあお あゝ行列好きの日本人! っていう感じでしょうか。でもこの作品はほかにも、パンダとか遮光器土偶とかいろいろ描かれていて上野のすべてがわかる感じがするなぁ。あー楽しい。

まいこ 見てていつまでも飽きないですね。ホームレスさんのブルーシート家屋もフィーチャーされてますよ。

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つあお ホントですね。額縁と漫画調の描き方と新聞記事の模写のコラージュの絡み合いが絶妙だなぁ。上野の「宇宙」はすごく楽しい。

まいこ ポップな曼荼羅みたいにも見えますね。上野界隈のことばかりなのに、なぜか人間の普遍的な生活やクリエーションを感じます。

つあお 実はね、もう一つ「宇宙」を表した、とっても気になる作品があるんですよ。岡本秀さんが描いた作品です。

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岡本秀《複数の真理とその二次元的な利用》(紙本着色、額に写真をマウント、180✗354✗3.5cm、VOCA佳作賞・大原美術館賞受賞作品)展示風景

まいこ 襖が開いてるこの絵を見たら、私はすぐに中の部屋に入って行きたくなりました!

つあお 襖のように見えるんだけど、襖絵じゃない。

まいこ そうそう、本物の襖がそのまま絵にはめ込まれているみたいに見えました。だから、靴を脱いで上がろうかな、みたいな…。

つあお これ、どうしつらえられているかが一瞬わからなくなる。そうやって錯乱させてくれるところがすごく面白い。

まいこ しかも襖は半開きになってるから、実は画中画として描かれている襖絵のけっこう肝心なところが見えなかったりしますね。

つあお 主人公の顔が見えないとか、めっちゃ想像が膨らみます。たわくし、実は襖を閉めてみたくなりました。現実には閉められない構造なんですけど。

まいこ 閉められないのがもどかしさを引き起こす。それがこの作品のパワーですね!!

つあお 日本画の新しい可能性を見出したいといつも思っているたわくしとしては、伝統的な表現に則った手法を使いながらも新しい宇宙を作り出しているところがいいなと感じましたよ。

まいこ 伝統的な手法はどの辺りに感じられますか?

つあお まず人物の描き方でしょうか。すごく線を上手に使って衣服や人体を表しています。これは東洋絵画の妙を意図的に再現しているものと思われます。

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まいこ なるほどです。一本一本の迷いのない筆づかい。衣服のシワなどにも「東洋」を感じますね。

つあお 線の肥痩がなかなか味わい深いのです。それでいながら、画面の構成は現代的というか哲学的というか。

まいこ どういうことですか?

つあお 開いた襖の両方に描かれている牛の胴体はぱっくり分かれている。でも切断されているわけではない。まるで、異次元を通ってつながっているみたいじゃないですか。

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まいこ しかも、なぜか牛の頭だけは女の人が手にしている箱の中にありますね!

つあお 観察すればするほど、「不思議」が出てくる!

まいこ 私はデビッド・カッパーフィールドの胴体分離マジックを思い出して、不思議な気分になりました!!

つあお マジシャンも、この絵を見たらびっくりするんじゃないかな。それくらいかっ飛んでいると思いますよん。

まいこ 東洋の伝統的なしつらえの中に、これがあるからびっくりなのですよね。真ん中の四角な空白は?

つあお この作品の「核心」だと思います。

まいこ 宇宙的! 解説板を見ると桂離宮が関係してるようですね。

つあお 桂離宮といえば、幾何学美! 写真家の石元泰博さんが撮った作品を見ると、桂離宮には数式に帰することのできるような美がある。この絵の真ん中の空白もやっぱり宇宙とつながっているんだなと思います。


【Pick up!】

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八木佑介《共喰い》(アクリル、土絵の具、岩絵の具、顔料、カンヴァス)展示風景
遠目には写真かと思ったが近づくと力強く画材を使っていることに衝撃を受けた。練馬区立美術館で開催中の「電線絵画展」にリンクした。by つあお

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【Pick up!】

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水戸部七絵《Picture Diary 20200910》《Picture Diary 20200904》(ともに油彩、麻布、木製パネル、VOCA奨励賞受賞作品)展示風景 

入口の反対側の遠くにあったのに、ものすごい存在感を発揮していたのがこの2枚。絵柄だけ見た印象は、「おおざっぱで子どもっぽい」感じがしたのだけど。。。近づくと、まずはその質量感にびっくり! どちらの絵も、一番出っ張っているところは10cm以上あるかと思われるほど厚塗り。そして特に気になったのが左側のライオン✗ゴリラのようなポートレート。粗削りな彫像にも見えて、質感はジャコメッティ。そして、「British museum」という大きな文字が目に入るのだけど、なかなか大英博物館のイメージと結びつかない。。。と思ってキャプションを見ると、「大英博物館の創立にコレクションで寄与したハンス・スローン」だとか!

どんな顔をしているのかなとちょっとググってみると。。。全然似ていない!!なぜこんな風に?! 

コロナ渦中に起きた反人種差別の抗議デモのあおりを受けて彼の彫像が移設された騒ぎと関連しているとのことで、複雑な人間の業と社会のうねりがゴーっと渦巻いているようでした🌀

ところでこんな感じの作品と彼女の名前、最近もどこかで見たな。。。と思ったら、寺田倉庫に新設されたコレクターズミュージアム「WHAT」に高橋コレクションとして展示されていたことを思い出しました♪こちらも、分厚く重量感あり! by まいこ

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水戸部七絵《DEPTH》(2015〜16年、油彩、鉄、200✗170cm) 
コレクターズミュージアム「WHAT」 「-Inside the Collector’s Vault, vol.1-解き放たれたコレクション」展の展示風景より

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【今日のラクガキ】
今回見た作品につあおが触発されて描いたラクガキを披露するコーナーです。

Gyoemonの宇宙

Gyoemon作《Gyoemonの宇宙》
宇宙のグルメツアーに出かけるのがGyoemon(=つあおの雅号)の夢なんです! 😁
※お断り:本作品はVOCA展には出品されておりませんが、ご了承ください。 

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VOCA展2021 現代美術の展望─新しい平面の作家たち─
2021年3月12〜 30日、上野の森美術館(東京・上野)

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