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担当美容師さんがキャピってる件

今の美容室に通うようになって、3年。

最初は、近所だから…という理由だった。以前は外苑前まで電車で出かけ、さっぱりスッキリした新しい髪で、どこかに立ち寄って、ウキウキしながら帰る、というのも好きだったが、徒歩圏内に変えると、そのウキウキを上回る「楽ちん」が勝ってしまう。

担当美容師さんは、さくらんぼちゃん(仮名)といって、ちょっときゃりーぱみゅぱみゅみたいな、30歳前後の小さくてかわいい女子。オーナーの奥さまだ。

この彼女との会話が、毎度おもしろい。

「今年のハロウィンって、なんの仮装します?」
「え、なんで仮装する前提なの? しないけど」
「え? しないんですか?? 私は仮装して、Amazonでポチった巨大なトランプでみんなでババ抜きするんです~」
「なんの仮装するの?」
「枝豆です~!」
「豆、似合いそう…」

とか、

「犬飼いたい~」
「飼えば?」
「でも仕事が忙しい~」
「じゃあ、我慢だね」

「お餅食べたい~」
「食べれば?」
「夜、お雑煮にします」

的な、知らんがな案件の会話が多い。

私が血気盛んだったお年頃に出会っていたら、間違いなく、イライラして美容室ごと変えていたと思う。でも、さくらんぼちゃんの謎な会話に腹を立てず、淡々と返す自分は、大人になったなぁ…と感じて、ちょっと心地よい。

美容室は、読みかけの本を一気に読み進める場としても活用しているので、基本、私からは話さない。だから自然とさくらんぼちゃんが、ずっとおしゃべりをしている形になる。時々、本を置かずに対応していると

「何の本を読んでるんですか~?」と聞いてくるので、ざっと説明するが、大抵通じていない(私の説明が下手なんだろうな…)。韓国のフェミニズム的小説の説明は、ものすごく難しかった。ずっと首をかしげるので、「映画化もされたんだよ」と付け加えると「わぁ、すっごいおもしろい本なんですね!」と納得してくれたようだったから、もういいや、と思ってしまった。

さくらんぼちゃんとの時間は、じつはとても楽しいと思っているので、その出来事を友人に話すことがある。すると時々「なんで、楽しいと思うの?」と聞かれるので、振り返ってみた。

彼女は私についての詮索をしない。

彼女から、私の年齢や職業、休日の過ごし方、住んでいる場所を聞かれたことがない(こちらが書く顧客カードも存在しなかった)。これが、すごい楽で、依然通っていた美容室では、担当さん、アシスタントさん含め、何回もGWの過ごし方を説明して、ぐったりしてしまったことがある。

彼女のキャピキャピした知らんがな近況報告に、軽く突っ込んで、彼女がキャハハと笑うというリズムが心地よいのだと思う。

もちろん、腕もいいと思う。ムダ話をしているなかで、きちんと私の要望はキャッチしてくれている。そういう賢さも好きだ。

先日近況報告の中で「今度、飲食店オープンするんです~」というので「え、唐突。なんで?」と聞いたら

「美容師って、腕が動かないとか、立てなくなってしまうみたいなケガや病気をしてしまったら、職を失う可能性があるじゃないですか~。そういうとき、従業員が別の仕事を選べるような受け皿を用意したかったんです~」

と、いつものほんわか口調で言うのだ。

正直、とんでもなく感動した。キャピってる彼女を、大人の対応でかわす自分が好きなんて、考えてたけど、本当は彼女のそういう、しっかりとした芯の部分を尊敬できるから好きなんだなと思う。

この3年で私も引っ越しをし、「ウキウキを上回る楽ちん」というメリットが無くなってしまったのだけど、「楽ちんを上回るさくらんぼちゃんとの会話」があるので、私はいそいそとバスに乗る。

いつのまにか、彼女の指名料なるものが出来て、プラス2千円になったけれど、それも払おう…。そして、さくらんぼちゃんが、おかしな反応をしてくれそうな本も持っていこう。




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