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山登りとクマ


一昨年のこと。
今まで興味のかけらもなかった山登りにハマった。

登頂を目的にすることを「登山」
山頂にこだわらずに山を歩くことを
「トレッキング」と言うらしい。

わたしの場合
はじめは登頂を目的にしていたので「登山」だった。
頂上に登りきったところで
温かいスープとおにぎりを頬張る。
お湯を沸かして珈琲を淹れたり、カップ麺を食べている人もいる。
至福のひととき。

色々な山に登ってみて
私は登山よりトレッキングが好きなんだと気づく。

登頂が目的なわけではなく、その行き帰りが好き。
行きの上りは苦しくて引き返したくもなるけど
帰りの下りの気持ちよさを考えると引き返せない。
下るために上るのだ。

木漏れ日のさす緑のトンネルの中を歩く
整っていない道なき道の
背の高い草をかき分けて進む
足場が悪ければ悪いほど楽しい。

そして一番好きなのは水場
大きな滝の水しぶきには
ふわっと包み込まれるような爽快感
小川のキラキラしたせせらぎや
雪解け水のちょっと流れの激しい川や
どろどろの水溜まりにズボっとはまることも楽しい。
緑の中の水場は気持ちのいい障害物
それを渡らないと先へ進めない。
それが少し難易度が高いようなところだと
最高にテンションがあがってしまう。

幸せなことに
ちょっとがんばれば家の玄関を出るところから
徒歩のままで山登りができる環境にある。
それに気づいたのは最近のこと。

なので、好きなときに自分のタイミングで
“ひとりトレッキング”を楽しむようになっていた。

私の住んでいるところからの散策コースは
田舎なので人が少なくて
誰にも会わないこともある。
途中まではスマホの電波が届くけど
山の上の方はしばらく電波が届かない。

去年は熊出没がとても多くて
毎日のようにニュースで話題になっていた。
そんな時
家から一番近いその山で
私は多分、熊と接近していた。
なんだかとても嫌な雰囲気の
野性の動物の気配とニオイを感じた。

それまでに
ヘビにもキツネにも鹿にも出会った。
一瞬しか見えなかったけど
タヌキのようなイノシシのような謎の獣も
わたしの目の前を横切った。

ただ、あの時の妙な感じ。
気配、そして、ニオイ。
何か変な嫌な空気。
何かが違うのを感じた。

次の日、熊出没情報を調べたら、やっぱり。
あの辺りで痕跡ありって。

確かに、あった。
何者かのフン。
木の幹に爪痕。
今思えばあの謎の獣は子熊だったかも知れない。
だとしたら近くに親熊もいたはず。

そして
昔起こった熊の事件記事を検索して見てしまう。
恐ろしい、恐ろしすぎる。

GPSはオンにしてあるけれど
誰にも見つけられず
熊に食われた残骸は白骨化かな。

せっかくみつけた自由な独り遊びだったけど
あの時の気配とニオイが焼き付いて
急に怖くなってしまった。

熊スプレーって高いんだよね。
ほんとに効くんだろうか。
試すことができないし。
いきなり本番だし。
そうなったらパニックにならない自信がない。
同じ場所にひとりで登るのはもうできないかも知れない。

せっかく家から徒歩で行ける距離なのに。
天気の良い日は、とても気持ちいい
水場がたくさんあるお気に入りのコース。

もうすぐ雪がとけて登れる時期がやってくる

どうする?わたし
どうなる?わたし

登りたい気持ちと恐怖どっちが勝つのか。

できることならクマと仲良くしたいよ。

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