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「イップス」は恥ずかしくない 隠す必要はない きっと克服できる

「イップス」と呼ばれる現象がある。

2018年1月に発売された広辞苑(岩波新書)には、次のように書かれている。

「これまでできていた運動動作が心理的原因でできなくなる障害。もとはゴルフでパットが急に乱れることを指したが、現在では他のスポーツにもいう」

広辞苑

語源は英語の「yip(イップ)=子犬がキャンキャン叫ぶ」とされる。

1930年代にプロゴルファーのトミー・アーマーが、緊張するパッティングで手のけいれんなどが出るようになり、引退を余儀なくされた。アーマー自身が、のちに自分に起きた現象を「イップス」と表現した。これが始まりとされる。

医学用語ではないので、明確な定義があるわけではない。

私は野球記者として、また少年野球チームのコーチを務めた経験から、イップスに興味を持って取材を重ねた。日刊スポーツで連載をした後、2018年には書籍「イップスは治る!」(洋泉社)として出版した。

その経験から、イップスの定義を次のように考えている。

それまで出来ていたことが、何らかのきっかけでできなくなり、その現象が中長期間続く

私は、イップスを「スポーツ」に限定しておらず、音楽や会話などの日常生活でも起きると考えている。

例を出そう。

・野球のボールを投げるとき、テイクバックからトップに上がっていかず、止まってしまう
・投げるとき、ボールが指から離れていかず、目の前にたたきつけてしまう
・テニスでフォアハンドはうまく打てるのに、バックハンドで振れない
・ゴルフで、ショット時にトップからクラブを振り下ろせない
弓道で、自分の意思に反して手を離してしまう
・楽器を演奏するとき、指が動かない
・アナウンサーが、特定の場面だけ声が出なくなってしまう
・会社員が、会議のときだけ声が出てこない
・飛行機や電車など密室に入るとパニックが起こる

もちろん骨や筋肉など体の機能的に問題が生じている場合もあるので、整形外科などで診察してもらう必要もある。また、「パニック障害」「広場恐怖症」などと呼ばれる症状でもある。

あくまで私の解釈として、これらも「できたことが出来なくなる」という意味で「イップス」の一種だと考えている。

私自身、電車に乗ると気が遠くなる症状に悩んだ時期があり、それを「電車イップス」と呼んでいた。ちょうど記者職から離れ、慣れない営業部門で仕事をしていた時期なので、会社へ行きたくない思いが強かったのだろう。

書籍を出版した後も、日本イップス協会の講習会に参加するなどして勉強を重ねてきた。

数年前、旧知のスポーツトレーナーから「イップスに悩んでいるゴルフ選手がいる」と聞き、何かの参考になればと著書を送った。

その林亜莉奈選手は今、イップスを乗り越え、プロテストを目指して練習を重ねている。昨年末、そして今年1月に林と会い、イップスや現状について話を聞き、記事に書いた。

人間は誰でもイップスに陥る可能性がある。疲れることもあれば、何をしても思うように進まないと弱気になってしまう時期もある。それは決して恥ずかしいことではない。

弱い自分も大事な自分。

もし、今イップスに悩んでいる人がいるならば、まず自分を大切に、優しくしてほしい。そこから克服への道が始まる。