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電卓について話そう

僕が電卓に求める要件は、以下の通りである。左手で電卓を操ることを前提としている。

1_電卓左端がテンキーの端

テンキーを扱うのは、薬指・中指・人差し指である。薬指が「7-4-1」、中指が「8-5-2」、人差し指が「9-6-3」をそれぞれ担当する。このとき、キーの最も左端の列がテンキーの左端(つまり7-4-1)でなければ、小指の行き先がなくなってしまう。薬指・中指・人差し指を曲げたまま小指を中空に浮かせておくのは難しい。したがって、キーの誤タッチを防ぐため、小指は電卓の左側面に落とす。もちろん、1列飛ばして電卓の左側面に落とすことも可能だが、小指と薬指を広げるための追加的な緊張が求められる。

また、机上で電卓の向きを変える時、小指で電卓の左側面を、親指で右側面を支え、手前側を浮かせる。このとき、その手のポジションは、電卓を使用するポジションとなっており、そのまま打ち込みへ移行できる。左端がテンキーでなければ、電卓の向きを変えた後、1列分右方へ手を動かす必要がある。もしくは、前段と同様、小指と薬指の間を余計に広げる必要がある。

さらに。電卓を目視せずに打ち込みポジションへ手をセットするために、一般に使われるのは、「5キー」上に設けられた突起に中指を合わせるという方法である。ただし、それで定まるのは前後のポジションだけであって、左右のポジションである手の角度は決まらない。ここで電卓の左側面に小指を添え親指で電卓の向きを調整することで、左右が決まるようになる。

2_「00」ではなく「000」

複数のゼロを打ち込むために用意されたキーは、「00」もしくは「000」である。僕は「000」を推奨する。理由は、数字を書くときのルールが、「3桁ごとにカンマ」だから。数字を目で見て脳で運動神経に変換し電卓を打ち込む際、このカンマの位置をそのまま利用したい。「1,000,000,000」を打ち込むために、「9つのゼロを2で割ると4、したがって"00"が4回と"0"が1回」と考えるのか、「000の塊が3つ。したがって"000"が3回」と考えるのか、という話だ。これが「100,000,000」であっても、まずカンマを無視してゼロの数を合計するというプロセスのコストを鑑みれば、「000」キーのほうがこれをシンプルに処理することができる。

この数字を2桁ずつ捉えるのか、3桁ずつ捉えるのか、といった問題は、数字を扱う専門家としてのその後の職業人生に大きな影響を及ぼす。

「123,456,000」という数字を見たとき、僕はまず1番左のカンマ前にある「3」に着目し、それまでに何桁あるのかをカンマの塊により把握する。この例では、カンマは2つ、ゆえに6桁。6桁は「million / 百万」。そこに頭の数字をくっつけて、「123mil(百万) + その他」と捉える。実務上、その他は些末な話なので注視することはないけれど、アタマで処理するとすれば、カンマは1つ、ゆえに3桁、3桁は「thousand / 千」、つまり「123mil(百万)+ 456t(千)+ その他」となる。実務上は、123.4milと記述するだろう。

カンマ3つ・9桁は「billion / 十億」、カンマ4つ・12桁は「trillion / 兆」。123milは、1億2千3百万円ではなく、123百万円だ。実務上僕は123milと表記する。13億円は、1.3bilである。繰り返し、最も左にあるカンマで単位を捉え、直前の数字をそれにくっつける。これは3桁ごとに数字をカンマで区切る方法を前提としている。対応する電卓は「000」型である。

ではなぜ「00」型の電卓を使う人がいるのか。おそらく日本語の「万」「億」という言葉がそれぞれ4桁・8桁区切りであって、これに対応しているのだろう。1万以降、1兆に至るまで、日本語では「n万・n億」のみで表現する。「10,000,000」は、「4桁 + 1,000」つまり「1,000万」と捉える。3桁区切りの「6桁 + 10」つまり「10mil / 百万」という方法ではない。なんとなく理解はできるが、いくつか指摘しておく。まず、それが試験であっても実務であっても、多くの数字は3桁カンマ区切りで表現される。したがって「万」「億」表記のために電卓を準備する必要はない。また、3桁区切りの方法は、安定している。2桁区切りの方法は、日本語であり、かつ1万以降、1兆に至るまでの場合に限り利用される。3桁区切りでカンマを打つ文化や英語によるビジネス世界を含むその他あらゆる場面では、数字は3桁区切りで捉えられる。敢えて特殊ケースに対応するため「00」型を使用する積極的な理由はない。「n00」を打つ、という局面では確かに若干優位かもしれないが、その場合は「0キー」を2度打ちすれば良く、そしてその他のあらゆるコストを凌駕するほどの利点は見いだせない。

3_入力チェックと訂正

誰でも必ずミスをする。ミスの発生を前提に、それをどう修正するのかが重要である。最初からミスを完全に防ごうとするのではなく、許容した上で修正する、というアプローチが望ましい。これは電卓作業だけではなく、広く仕事全般にいえることだ。

電卓作業においては、「=キー」を叩いて計算結果を表示させた後、その過程の打ち込みが正しかったか検証し、ミスがあればその部分だけ修正する、という方法を採用する。電卓は、計算の途中で、その前に自分の打ち込んだ数字が表示されない。計算要素を遡り数値の確認をする入力チェック機能と訂正機能が必要である。この機能がない電卓は、遡りチェックができない、つまりレビューができないものとして、作業の正確度と効率が著しく低下する。そして多くの場合、同じ作業を2度行うことで正確度を検証する、という手法に陥ってしまう。もしくは、一度の作業をミスなくこなそうと努力するか。いずれも、電卓作業のみならず、仕事のアプローチとしても誤っている。

4_その他細かなこと

電卓は、大きすぎると、手の移動距離が増えて無駄な動きが多くなる。大きなキーは、打ち込みに力が必要で、疲れる。キーのサイズ及びキー同士の距離感は、普段使っているパソコンのキーボードほどのサイズか、それ以下のものを選択するべきだ。繰り返し、それ以上では無駄な動きが多くなる。

同様に、キーの感応度は敏感な方が、力を掛けずにタッチができるので疲労が少ない。また、煩わしい電卓打音をたてずに済む。

キーの形状は、山型に中心が盛り上がり端へいくほど落ち込んでいるものと、逆に、すり鉢型で端が上がっているものとがある。後者が望ましい。タッチが少しズレて端を叩いても、きちんと認識してくれるためだ。

反応速度にも注意を払ったほうがいい。電卓によっては、キータッチが画面に反映されるまでに若干のタイムラグがある。その違和感があれば看過せず別のものに切り替えよう。

テンキーの次に使用頻度高いのは「+キー」、次点は「=キー」である。これらがいずれも人差し指で使える位置にあるのが望ましい(一般にはそうなっているはずだ)。また、「0キー」がテンキー列から1つ左側に外れている電卓もある。前述の「電卓左端がテンキーの端」という理由を持ち出さなくとも、その電卓の利用は無駄が動きが多くなるだろう。

最後に

電卓選びの基準を記述した。これは僕の理屈、僕の考えであって、会計・税務・経理分野の職人それぞれに強い思想があるだろう。僕はそのひとつひとつを尊敬していて、押し付けたり自分が正しいと主張するつもりは全くない。

たかが電卓ひとつで、ここまで理屈を述べた。仕事道具はそれほど重要である。きちんと思想と理屈をもって真剣に選ぶべきだ。道具を大切に、というのは、所有している道具を大切に使うことだけを示しているわけではない。道具の選択に丹精を込め、愛情と信頼を心に保ち、自然と大切に扱う、ということを意味しているのだ。

内容に全く同意できなくても、もしくは理解できなくても、道具選びへの強いこだわりが伝われば、それでこの記事は役割を果たしたといえる。

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それぞれが強い理屈と思想を持って自分の道具を選べばよいのであくまで参考程度に。一応掲載しておく。前述の要件を満たす、僕が長年愛用している電卓は、こちらである。





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