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【短編小説】 霊感タオル その3

午後は得意先でも若干上の空で、何を話したか覚えがない状態で会社に戻って来た。

席に座って、机にあった飲みかけのポカリを一気に飲み干した。

周りがみんな知った顔なので、どっと肩の力が抜けた。

「あっら~」

田島が立ち上がってこちらへやってきた。

隣の空いている席に座って、小声で話し掛けて来た。

「首、どうしたの?」

タオルを巻いたままだったことに気付いた。

「タオル、色が派手だよな」

急に恥ずかしくなってタオルを首から外して手に取った。

「違うよ、ほら」

田島が手鏡を自分の方に向けて来た。

首のシワみたいに黒い筋がスーっと一周回っている。

「うわうわうわっ」

慌ててタオルでこすってみたら、長い髪が1本絡まってきた。

驚いて声が出なくて、慌ててその髪をゴミ箱に投げ入れた。

「何か拾ったみたいね、あららら」

「残念ね」みたいな顔で田島が席に戻って行った。

拾うどころかゴムボールは転がって行ったけど。

タオルはすっかり乾いて、ただのタオルに戻っていた。


マンションでビールをグイグイ飲むけど、どうしても酔えない。

冗談みたいな青い顔の女がフっと頭に浮かんで、思わず首をさすった。

洗濯した冷感タオルがエアコンの風で揺れていた。


翌日出勤すると田島が寄って来た。

「昨日のタオルはナニあれ?」

「親が使わないからってくれたんだよ。冷感タオルって、最近流行っているやつ。」

「何本もあるの?」

「あげられる程は無い。1枚だけ。」

「欲しく無いし、ぜーんぜん。でも、今度使う前に見せて。」

「きょうは持って来なかったから、今度ね。すんごい冷えて、案外良いぞ。」

「そうね、最上級に底冷えするだろうね。」

妙な言葉を残して、田島が自分の席に戻って行った。

きょうも昨日と同じ公園を通ったけど、どうにも入ってみる気にはなれなかった。

入り口の前を通り過ぎる時に、例のベンチの辺りを見るとも無しに見たけど特におかしい感じはしなかった。

会社へ戻って席に着いたけど、きょうの田島は自分には用無しとばかりに、「お先に~」と17時ぴったりに帰って行った。


夜に洗濯物を畳んでいて、例のタオルをカバンへ入れようとして、ふと匂いを嗅いでみた。

単純に薄く洗剤の良い香りがして他は何もヘンなところも無い。

何で田島はこんなの見たがるんだろう?




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