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【短編小説】 霊感タオル その6

朝にタオルをカバンへ入れようとして、タグを触ってみた。

確かに「何か」があるけど、相当小さくなっている感じがする。

田島の言う通りで、恐らく今日普通に濡らして使うか洗濯した時点で、「何か」は消失してしまう気がする。

単に話を聞くだけか、お願い事をされるかわからないけど、間違い無く会話の出来る最後が今日だろう。

それも時間は恐らくあのベンチが木陰ゾーンになっている間だけ。


「話、聞くだけ聞いてあげてね。その気があるなら。」

「聞くだけで良いのかな。」

「わかんない。」

「な・・、何かしないといけなくなるのかな。」

「知らない。まだ核心的な話のところまで行って無さそうだし。」

「あのさ、一緒に行ってくれない?」

「行ける訳ないじゃない。私の担当先の近くでも無いし。それに・・」

「それに、何よ。」

「わたしがいたら、話をしてくれないかもしれないでしょ。」

「そうなの?」

「かもしれない、かも。」

「何だよ、それ。」

「浜波さんの人畜無害な外見が功を奏しているのよ。聞けるだけ話を聞いてきたら、それを聞くわ。」

「褒めてんの?」

「良くも悪くも。」


午前中の仕事を半ば適当にやっつけて、早々に公園へ向かった。

きょうも公園は元気な子供とゲンナリな大人で盛況。

そして、例のベンチはちょうど木陰になりかけるくらいのナイスタイミングだった。

カバンからタオルを出して、ビッショビショに濡らした。

ベンチに腰掛けてからブンブンと振って、まだ濡れ度が高い状態だけど、構わずに顔を拭いたりもしないで首に掛けた。

「こんにちは。」

柔らかい口調が頭にスルリと入り込んで来た。

いつの間に、また隣に女が腰掛けていた。

「こんにちは。」

口に出したら確実に通りがかりの人にヤバイ人扱いをされることは学習したので、頭の中だけで会話することにした。

「こないだの続きを・・・、えっと、、どこまで話しましたっけ?」

え!忘れてんの?と思ったけど、恐らく女は自分が話を聞くことの出来るリミットを感じ焦っている雰囲気がする。

「110番をして警察がパトロールをしてくれる、といったところでした。」

「あ、そうでした・・。それで、電話を切った後に、最寄りの交番からお巡りさんがひと通り見回りをしてくれたらしいんです。翌日に特に怪しい人物は見かけなかったと連絡を下さったので。。」

「はい。」

「それが先週の今日だったんです。一応、継続してパトロールは続けると言って下さったんですけど。」

「その日、仕事が忙しくて帰りが遅くなってしまって。いつもは暗いし怖いから通らないんですけど、近道になるので、この公園を通って帰ろうとしたんです。」

ことの核心に入ってきたらしい。

頭の中の声に震えと高ぶりが感じられる。

さらにベンチの横に日差しが差し始めた、時間が危うい。

「公園のあの奥のところ・・」

女がベンチから立ち上がって、公園の木が立ち並んでいる奥まったところを指差した。

「お・・、お、奥のところ・・ですか・・・?」

女が頷いてベンチに力無く腰掛けた。

「あの手前を歩いていたら、後ろから誰かに口を塞がれて奥に連れ込まれて。。」

急激にノドが乾いて、頭がガンガンしてきた。

でも、容赦無く声が頭に入り込んでくる。

「『大事に思って見守ってやっていたのに、警察に余計な話をしやがって。』って。それで・・・」

思わずタオルをギュっと握りしめて、女を凝視した。

「『余計なことを言えないようにしてやる、オレの物なんだ、お前は!』って、首に何か巻き付けられて、それで気を失いました。」

女が固く目を瞑りながら、首を両手でさすっている。

良く見ると目元に涙が滲んで来ているようだ。

「そ・・それで・・・?」

女が自分を悲し気に見返して、こう言った。

「そのまま、そこにいて、公園から出られないんです。。。」

「そこ???! そこって、あそこ・・?」

もう声に出さずにいられなくて、裏返った声で公園の奥の方を指差した。

女がポロポロ涙を流しながら、小さく頷いた。

「・・見つけて欲しいんです。。ここはイヤです。。。」

女が自分の肩口を掴もうとしたけど、当たり前にスっと通り抜けた。

でも、首にかかっているタオルはしっかりと握った。

タオルが風も無いのに、大きく左右に揺れた。

「見つけるって・・? 自分がですか??」

「誰にも気づいて貰えないんです。お願いです。助けて下さい・・!」

ベンチに日差しが差し始めた。

「お願い・・!!」

頭の中じゃなくて、ハッキリと弱々しい声が聞こえた気がした。

日射しがタオルを乾かしてしまったようで、サラっとしている。

タグをつまんでみたけど、もう布の手応えしか無い。

隣に女は座っているのかもしれない。

けど、もう見えないし、何も聞こえない。


会社に戻って、田島にきょうの帰りに付き合って欲しいと頼み込んだ。

田島も何か思うところがあるようで、了承してくれた。

まだ明るい内に行かないと、暗くなってから公園に行く勇気はない。

定時きっかりに日報もほったらかして、田島を急かして急いで一緒に会社を出た。




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