見出し画像

上司と私

私は直属の上司と死ぬほど仲が悪い。
上司が私のことを嫌うので、私も嫌いになった。

上司はいつも、私にだけ挨拶を返さない。
目が合って、流石に返さないと人間としてまずい場合は渋々と「お疲れ様...」と呟くけれど、基本的にはスマホを見ながら、私の挨拶を右耳から左耳へただ送っている。私の後ろですれ違った同僚に「おつかれ〜」と明るい声で返すのを聞く時は、なんだか踏み潰された気持ちになる
こんなことが大人になっても起こってていいのか。子供でもいけないのだけれど。

上司はいつも、私のお昼ご飯をのぞいてくる。「もっと食べないと元気出ないんじゃないの?」とか「そんなんだからメンヘラになるんだよ〜」とか、オメェに言われたくねぇなと思うことをズケズケと言ってくる。少なくともメンヘラは生まれた時からだから。ご飯のせいじゃないから。
確かに私はご飯を食べるのが下手で、コンビニに行っても選ぶのが面倒だからと決まったものしか買わないし、買っても途中で疲れて手が止まるし、おいしいはずなのにおいしくないと言って食べるのをやめてしまう。お店に行っても、お昼休憩に門限があるから安心して食べられなくて疲れてしまう。できるだけ、なにも食べずに暮らしたい。
私の食生活がめちゃめちゃなのは同僚たちも知るところではあるので、もちろん上司だって知っていておかしくないのだけれど、イジりのつもりなのか、本気の悪口なのかよくわからないテンションで「それだけでご飯足りるの〜?」「毎日同じもの食べてて飽きない?私無理なんだけど〜!」と、ちょっと離れたところから話しかけてくる。お願いだから黙っててほしい。その時食べられるものを、食べられる量だけ食べてるの。途中で残して捨てようが、買ったものを数日放置してしまおうが、放っておいてほしい。私が何を食べてても、食べなくても、あなたがどうにかなるわけじゃないでしょう?

私の上司はいつも、私の好きな人たちのことをバカにしてくる。
私はかわいい見た目の女の子が大好きで、涙袋が盛られてきらきらしてる目とか、細い腕とか、まっすぐな脚とか、ドールっぽい洋服とか、ヘッドドレスをつけた頭とか、アヒル口とか、そういうもの全部が好き。自分もできることならそうなりたいし、何歳になってもそういうのが似合う人でありたい。好きだし、憧れてる。
だけど上司は、「好きな子がメンヘラだとファンもメンヘラになるの?メンヘラだからメンヘラっぽい子を好きになるの?」と聞いてきたり、「え〜その子のどこがかわいいの?ちょっと痛くない?」と貶してきたり、「みんな顔が一緒に見えて誰が誰だかわかんない〜!好きになるのだれでも良くない?」と言う必要のないことをわざわざ言ってくる。
私はその子のことをメンヘラだと思わないし、仮にメンヘラでも好きだし、てか世間の言うメンヘラってなんだよと思うし、たくさん考えたり傷ついたり悩んだりしてるだけでおかしいって言われるのは腹が立つし、その子も一生懸命だから痛いことなんてなにもないし、その子だから私は好きなのだ。誰でも良くない。その子が好きなの。
わかられなくていいけれど、わざわざバカにしてくるのは人として違うと思う。上司だって、自分が好きな野球選手をバカにされた時は怒ってた。私だって同じ気持ちなのに、どうしてわからないんだろう。
私から「見てください!この子かわいいと思いませんか!?」って話しかけてるならまだしも、上司から「この前あの子見たけどさ〜よくわかんなかった、なにがいいの?」って言ってくるのは死んでからにしてほしい。わからなかったら黙ってろ。

私の上司はいつも、私の話をまず否定してから話を進める。
この前作ったプレゼン資料をチェックしてもらったら、まずそもそも使ってるテンプレートから直されたのだけれど、同僚が私の作った別の資料を同僚のものだというテイで提出したら通って、その後に私が作ったものだと明かしたら取り下げられた。私の資料作りが下手なわけではないみたい。
この前は私が作った提案書を、上司が書き換えて自分の提案書として提出して、PMのひとたちに絶賛されていた。それだけだったら「あー...クソだな」で終われるけれど、そのQAは「あなたの提案だからやってまとめてPMに返して」と言われて最悪だった。ゾンビに食われてほしい。
自分の提案が実装されることになるのはとてもうれしいはずなのに、結局顔が出るところは横取りされて、裏の手のかかる(とても大事な)部分は丸投げされて、ほとんどうれしさなんて消えてしまった。こんな行為は管理職として恥ずかしく思え。私の提案資料をパクるならもっと上手くパクれ。私にわからないように奪えないんだったら給料を上げろ。ゴーストライターとして報酬をもらえるなら、退職するまでパクられてることは黙っててあげる。

私の上司は、私のことが大好きなのかもしれない。
私は休職から戻ってきたとき、「今まではあなたに依存してしまっていたので、これからは自立してあなたからの評価を自分の行動基準にするのをやめます」というような話を上司にしたのだけれど、もしかしたらこれが上司は寂しかったのかもしれない。今までは自分が掌握していた私の心が、私の目が覚めたことによってその掌からいなくなってしまったから。今、私の心が手に入らなくてすごくやきもきしているのだと思う。
だから、私の気持ちを揺さぶろうと嫌なことをたくさんしたり言ったりするんじゃないかな。他の子よりもあなたのことを私は見てるよ、って言ってるつもりなんじゃないのかな。挨拶は返せって思うけれど、それも駆け引きなのかもしれない。駆け引きのつもりなら、私も毎日上司に心を揺さぶられてるし、一瞬たりとも忘れられないし、ずっと考えてるからうまくいっている。ずっとずっと上司のことが頭から離れないもの。

ころすぞ。

お願いだから、会社にゾンビの群れが乗り込んできてほしい。上司は通路側だからすぐゾンビに襲われると思う。言葉の力が強いだけであまり物理的な力は強くない人だから、ゾンビなんかに襲われたらひとたまりもない。多分すぐに噛まれてしまう。

いっぱい悲鳴をあげてほしい。怖くて声なんか出なくて、その場にへたり込んでしまってもいい。その時は私が立たせてゾンビの方に押しやってあげる。逃げ場がないところで襲われてゾンビになるよりも、逃げられる可能性がある場所にいたのに噛まれてゾンビになっちゃう方が悲しいでしょう?いっぱいいっぱい絶望してほしい。一度落ちた崖を登る途中で蹴落とされるみたいな、そんな絶望をくりかえしくりかえし。

ゾンビは乗り込んでくる前の日に、私に予告してくれなきゃ困るよ。上司の周りから武器になるものを取り除いておかなきゃいけないんだもん。力の弱い上司がゾンビと戦えるとは思わないけれど、火事場の馬鹿力なんて言葉もあるし、念には念を入れておいて損はないと思うから。なす術もなく、ゾンビに囲まれて絶望してほしいな。

上司がゾンビになったら、私が上司を地獄から解放してあげる。上司が死んでから行く場所もきっと地獄だけれど、自分の見た目を褒められるのが大好きな上司は、ゾンビになった自分には耐えられないと思う。だから、そんな苦痛からは私がいちばん最初に、もう、すぐに、解放してあげる。この前私は会社の椅子を持ち上げられることに気付いたから、脚のところでその頭を潰してあげるね。私も力持ちじゃないから1発では死なせてあげられないかもしれないけれど、それでも10回くらいガンガン振り下ろせば、あんまり詰まってなさそうなその頭なら潰せるかもしれない。すぐ楽にしてあげる。

他のゾンビより早く死なせてあげたいこの気持ちを、愛だとわかってくれるかな、上司は。

たのしく生きます