見出し画像

全部フェイクフィクション

ゆっくり意識が浮上して、目が開く。
まるで水の中にいるような重さが頭にまとわりついていて、開いたばかりの左の瞼がスッと落ちる。
私の身体がかすかに揺れたことを感じ取ったのか、お腹にまわる腕に力がこもってぎゅっと腰だけ抱き寄せられる。

一晩中つけっぱなしにしているエアコンは23度で部屋はすっかり寒い。
指の先まで冷え切ってる脚がもぞもぞと居場所を探し、私の脚の間にすっぽりと入って動かなくなった。下敷きにされている左足は朝には痺れているんだろうけれど、外したところで追いかけてくるので諦める。

Tシャツだけでも着て眠ればよかった、と胸元をさすりながら思う。
冷たくなった肌はさらさらして触り心地は良いけれど、重なっている部分がまだ微かに湿度を残していて気持ちが悪い。
気持ちが悪い、そうだ、気持ちが悪い。
横腹を圧迫する腕も、動かすことを許されない脚も、ぬるい背中も、気持ちが悪い。

何がいいのかわからない行為も、意思と分断されて反応する身体も、出しておいた方がいいのだろうなと思った途端に発せられる声も、こういう時の正解を知っている脳も、受け入れてしまえる自分自身も、全部気持ちが悪い。

皮膚の接触だけなら特に嫌悪感はないのに、唾液が行き来することを考えると悪寒がする。
きれいでないものは口に入れてはいけないはずなのに、何よりも汚いものを口に入れる。

ただの脂肪の塊に触れて何が楽しいのだろう。
脂肪だけで神経は通ってないのだろうと思えるほど、ただ触られているという以上の感覚がない。
母性もクソもないからか、そこに縋り付いている姿を見ると心が固く重くなる。全ての力をこの掌に集めて、胸元に寄せられた頭を潰したい。

ただ触れられるから身体が反応するだけなのに、そこに気持ちが伴っているだなんて考えてしまえるのは御伽噺の読み過ぎだろう。
ただの生理現象、ただの浄化作用。甘くてすてきな物語よりも授業で習った事実を思いだしたほうがいい。
ただ清潔であるべきところにそうではない何かが侵入してくるから、身体が洗い流そうとしているだけだ。
揺さぶられるから喉から音が出るだけ。ただ鳴らされているだけ。

こんな全てを、愛おしそうだと誰もがわかる眼をして好きだ愛してると言葉を発せば愛し合っているのだと受け取られ、そんなものをなくせば愛のない関係だと捉えられる。

嘘だとわからないくせに、愛だの恋だの、笑わせる。

嘘をついたことを責められるのはわかるけれど、嘘をつかせたことが責められないのはなぜなのか。
だってそうだろう。
嘘をつく必要があるから嘘をつく。
嘘をつかせる世界がそこにあるから嘘をつく。
嘘をついたほうが快適な環境があるから嘘をつく。

嘘をつかせることも罪になれ。
目の前のそれを嘘だと疑わないことも罪になれ。
信じたいことだけを信じたそれ自体が罪になれ。

見破れず信じた己を恨めよ。


この記事が参加している募集

たのしく生きます