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私が業務設計士®になった理由

先日、freeeマジカチmeetupの全国大会「MAJIKACHI JAPAN TOUR2020」で登壇してきました。

これまではfreeeの機能や活用方法、オススメのSaaSなどの登壇テーマが多かったのですが、今回はマジカチ本『会計士・税理士はこれからどう生きるか』の内容を受けて、私なりのアンサーLTとして「私が業務設計士®になった理由」というテーマを選びました。

このnoteは当日のLTでは話しきれなかった私が業務設計士®として会計業界をどう見ているかについての私なりの考え方などを書いていきます。

1.環境の変化

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会計士・税理士などの会計専門職に限らず、世の中のあらゆる専門職はもはや「その情報を知っている」だけでは価値がほとんど発揮できなくなってしまいました。しかし、資格試験は相変わらず詰め込み型の丸暗記偏重のものが多くあります。

最新の試験内容をウォッチしているわけではないので、あくまでも「私が受けた当時は」という注釈がつくのですが、日商簿記検定や税理士試験は暗記と作業の正確性を問う問題が多かったと思います。アナログな環境であれば、そのスキルはすなわち専門性なのかもしれませんが、あらゆるものがテクノロジーによってデジタル化していく中では、暗記と作業の重要性は低下していきます。

町の税理士さん、という概念がどんどん希薄になり、全国レベルで競争するようになると、「私は専門家なので」という姿勢でふんぞり返って商売をすることはできません。もちろん、資格を持っていないよりは持っていた方が顧客を獲得できる確率は遙かに上がりますが、提供するサービスの質が金額に見合わなければ、あっという間に乗り換えられてしまいます。

知識や経験だけで差別化できるのは、本当にトップ・オブ・トップの人材だけです。領収書を記帳する、決算書を作る、というような会計専門職の飯の種であった仕事の価値は相対的に低下しています。

資格を取れば一生安泰、というのはもはや幻想なのです。それは資格試験の内容が世の中のニーズに対応できていないということでもあるのですが、それは私たちがコントロールできることではありませんので、生き残っていくためには資格+αの要素が不可欠になってきている、という事実をまずは認めるところからスタートしなければいけません。

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記帳、税務申告、事務処理代行だけでは食っていくのは難しいので、新しい付加価値を見つけて、そこで勝負しましょう、という話です。資金調達の支援に強い税理士、組織再編税制に強い税理士、などのそういうイメージです。freeeに関連した話で言うと「freeeの導入支援ができる」というのも立派な付加価値だと思います。

すべてをカバーすることは当然ながらできません。眼科のお医者さんは外科手術をしないように、税理士にも専門分野はあるし、付加価値もなにかひとつでも秀でたものがあれば十分に闘えます。

私はその中で「業務設計士®」というものを自分の付加価値として選びました。正直いって、税務の分野でいけば未だに私などひよっこです。しかし、SaaSやシステムをきちんと活用して、業務フローを再構築し、かつ、それを運用に乗せていく、という分野、いわゆる「スマートなバックオフィス構築」ではトップランナーである自信があります。

SaaSやクラウド会計という分野自体がまだ新しく、そこに「業務設計」という未開拓分野があった、というだけの話ではあるのですが、この分野を自分なりに定義をしたときに、自分のやりたいことと求められているものが初めてカチッとハマる感じがしたのです。

私のキャリアやスキルは、ほぼ再現性はありません。なので、今回のLTは「業務設計士®になりましょう」、という話ではなく、各自なりの新しい付加価値を見つけるヒントにして欲しい、という想いを込めてお話しをさせていただきました。

2.会計ソフトに対する的外れな要求

私がSpeakerDecに初めてアップしたスライドにして、最大のView数を誇る「MFクラウドとfreee」。あれから2年以上が経過しましたが、未だに色んなところで「あのスライド良かった!」と言っていただけるのは本当に嬉しい限りです。このスライドがバズったおかげで起業する踏ん切りがつきましたし、多くの会計ソフトが企業側のニーズに全く応えられていない、ということがハッキリと分かりました。

あえて言葉にするとすれば、多くの会計専門職の人たちが「いい会計ソフト」を求めていることがそもそも問題なのです。フォードの「もっと速い馬が欲しいと彼らは言っただろう」という言葉や、スマホが登場したときに某通信会社社長が「ボタンがない携帯電話を顧客は求めていない」言ったという話と同じように、近視眼的になっている人は本当のニーズと向き合わずに、現状の延長線上でしか考えられなくなってしまうのです。

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多くの会計ソフトは「早く正確に」入力することにこだわって進化してきました。しかし、記帳は手段にすぎません。会計専門職の色眼鏡をかけると見えなくなっているのかもしれませんが、企業は「良い会計ソフト」を求めているわけではありません。

DXやデジタル化が叫ばれる前から、業務全体を効率化する手段はいくらでも存在したのです。ERPもそのひとつでしたが、現場の業務に合わせてカスタマイズをしすぎて、多くの現場で頓挫しました。そして、SaaSによって中小企業でも一気にデジタル化することが可能になってきたのはここ2、3年での大きな変化です。

求められているのは「クラウド上にデータがある良い会計ソフト」ではありません。あらゆる業務からデータを手間なく集約し、会計データに変換するための箱です。現時点でこれを明確に体現しようとしているのは、日本ではfreeeしかありません。

もちろん、会計や税務の専門家として、freeeにはまだまだ未完成な部分が多々あることは分かっていますが、それはいずれ解決されていくはずです。大企業での使用にはまだ厳しいですが、それはほとんどの会計ソフトも同じです。一部上場企業で、弥生会計を使っている会社などありません。中小企業においては、業務全体の再構築を前提にすれば、freeeが最も効率化に貢献する可能性が高いと私は考えています。

これは私が会計や税務よりも、業務設計という観点を重視しているからです。会計や税務を重視すれば、違う結論がでるということは理解しています。しかし、私には良い会計ソフトを求める人たちが、スマホが登場したときに良い携帯電話(ガラケー)を求めていた人たちと同じに見えるのです。

どんなに素晴らしいガラケーを作ったとしても、どんなにスペックを上げたとしても、絶対にスマホにはなりません。そもそもコンセプトが違うのです。いいか悪いかではなく、実現したいものや優先したいものが違います。

freeeを受け入れられない層がいるのはもちろん理解しています。これは宗教論争と同じなので、別にすべての人に理解して欲しいとも思っていません。

ただ、私は業務設計士®という立場からは、freeeを中心に置くことで遙かにバックオフィス業務を効率化するのが容易になる、と考えているのです。

3.会計知識という強み

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入力するのではなく、あらゆる企業活動を早く正確に会計データに変換するための情報を集める仕組みを作る。これが会計専門職に求められる役割に変わっていく。そういう風に私は考えています。勘定科目や税目という浅い話ではなく、正しい処理ができるように情報そのものを整備するという話です。

情報が正しく集約できれば、システムは自分で判断して常に正しい答えを出せます。つまり、会計データに変換するところを高度化するのではなく、情報が発生するところを整備することで、会計にいかに正しい情報を引き継ぐか、ということが重要だということです。

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経理処理を早く・正確に行うために重要なのは、フロント業務の改善です。経理業務が効率が悪いのは、フロント業務がいまだにアナログで属人化した仕事を続けているからです。経理を改善するためには、まずはここを大きく改善しなければいけません。

そのためには「会計処理から逆算して再構築する」ことが必要不可欠です。ここには高度な会計知識や経験が必要不可欠です。たくさんのことを暗記しているような知識ではなく、実際の業務の流れや処理の意味をきちんと理解している知識です。

システムはプログラムされた通りに動きます。その判断基準や条件式を定義するのは人間であり、そのために会計知識は必要不可欠です。「システムが自動処理してくれるから知識は不要」は大きな間違いなのです。

会計専門職の人たちはかなりの時間を勉強に費やし、現在の知識を得たはずです。正しい知識はデジタル化が進行しても必要不可欠です。ただし、それを正しく使えば、の話です。

会計ソフトはガラケーと同じくもうこれ以上は、進化することはないでしょう。DXが叫ばれる時代において求められているのは、良い会計ソフトではなく、様々なところから会計データに集約できるソフトなのです。そのためには会計知識は強みになりますが、同時に、ビジネスの正しい理解や業務フロー知識も必要不可欠になります。

4.まとめ

私は税理士試験の勉強をしていたころは、「最低限の暗記しかしない」「なぜそうなのをきちんと理解する」ということを重視した上で、直前期は「いかに1点でも多くをもぎ取るか」というゲームとして取り組んでいました。とにかく暗記して乗り切るわけでもなく、「実務で使えるように」など余計なことを考えて泥沼にはまるわけでもなく、とにかく合格するという結果を出すために何をすればいいかだけを考えていました。思考回路としてはスポーツで「勝つためになにをするか」に近いです。

3科目合格後、税理士業界を離れましたが、スタートアップで働きながら週末大学院に通って、2科目免除を獲得し、税理士登録をしました。大学院では暗記ではなく、レポートや論文、ディスカッションが必要だったので判例や条文を読みながら「なぜそういう風に考えるのか」を理解する非常に有意義な時間でした。

実務経験が少なく、やはり手を動かしていないので、申告書を作るという部分においては本当にひよっこです。その代わり、理論的な背景だったり、会計学や税法というものの考え方という部分においては、しっかりと身についている自信はあります。

税法の改正論点などを細かくフォローしていく時間もないので、今後ともに税務をメインにすることはありません。業務設計士®として、企業のバックオフィスを再構築する、という部分でしっかりとバリューを発揮していくことを重視しています。

前述の通り、国家資格の試験に合格することで証明することができる能力が、世の中のニーズからずれてきている気がします。だからこそ、「資格を持っている」ことが期待されているサービスを提供できることの証明にならなくなってきています。これが資格をとっても一生安泰ではない理由だと私は考えています。

しかし、資格に意味がないという話ではありません。一定レベル以上の知識量と理解度、専門性を獲得できる人というのは、そこになにか付加価値を付ければ、一気にすごい人になれるはずです。自分の強み、世の中のニーズにきちんと向き合うことが必要不可欠ではありますが。

「人生をやり直したとしたらもう一度税理士試験を受けるか」と言われたら、たぶん「No」でしょう。しかし、紆余曲折があって税理士になったので、税理士になっても稼げない、幸せにならないという世の中にはしたくはありません。

業務設計のようなコンサルティングスキルは一朝一夕で身につくものではないですし、向き不向きもあるので万人にオススメするものでもありません。しかし、会計や税務の知識に上乗せするスキルとしては非常に相性がいいと思っていますので、昔ながら会計事務所の業務に限界を感じている人にとって少しでもヒントになればいいかな、と思って、いつもスライドやnoteなどを公開しています。

テクノロジーによって世界が変わってしまったことを嘆くのではなく、テクノロジーを活用して新しい価値を提供する。そういう思考回路でいれば、仕事のやり方や稼ぎ方は常にアップデートできるはずです。

先日のLTやこのnoteがそういう一歩を踏み出そうとする人のヒントになれば幸いです。

さて、最後に宣伝です。弊社で年に4回開催しているBrownies Fes.ですが、先日2020年の4回目が終わったのですが、どうしてもやりたいテーマとして「freee+専門SaaS」というものがありましたので、12月に追加公演(?)を開催することになりました。

ゲストもたくさんお招きしておりますので、業務設計やスマートなバックオフィス構築に興味がある方はぜひご参加いただければ幸いです。


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