バックオフィスは全体の業務フローを意識しろ

バックオフィスの人たちと話していていつも残念に思うことがあります。自分の担当している分野についてはとても詳しいし、非常に真剣に語ってくれるのに、ちょっと守備範囲から外れると途端に「分かりません」とか「知りません」という反応になってしまうことです。

「私は経理だから」「事務処理をするのが私の仕事だから」ということなのでしょうが、これは非常にもったいないことだと思います。事務処理をすること自体には意味も目的もなく、手段にすぎません。大きな組織の中で細分化された処理をひたすらこなしていくうちに、それが目的化してしまっているのでしょう。経理職で大手からベンチャーに転職する人の動機として「ひたすら売掛金管理しかしていないので、もっと全体の業務に関われる環境で働きたい」というのもよく聞きます。

今回は、バックオフィスの人だからこそ会社全体の業務フローを意識するべきだ、ということを書きたいと思います。バックオフィスで膨大な業務に押しつぶされそうになりながらも頑張っている人たちが、少しでも全体に目を向けるきっかけになってくれれば嬉しいです。

以下、アジェンダです。
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1.自分だけで完結する業務など存在しない
 (1)すべての仕事は繋がっている
 (2)優秀な人は全体を見ている
2.業務効率化は全体の流れを把握するところから
 (1)自分の業務しか見ていない
 (2)ミスが起きる原因は仕組みにある
 (3)全体の流れを俯瞰して見る癖をつける
3.まとめ
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1.自分だけで完結する業務など存在しない

(1)すべての仕事は繋がっている
組織で仕事をしている以上、どんな仕事にも複数人の人が関わり、複数の工程を経て完了します。更に視野を広げ、営業、マーケ、経理などのくくりを超えて会社全体の経済活動を考えてみましょう。業務範囲という意味では「自分の仕事」というものはありますが、それも全体の一部を構成しているということです。

例えば、営業の仕事は売上を獲得してくることですが、その後に契約書の締結や請求書の発行や入金管理などがあって始めてその売上は会社に入ってきます。あまりにも当たり前の流れなので意識している人は少ないと思いますが、この後工程がきちんとしているから、営業マンは目の前の営業活動に専念できるのです。

(2)優秀な人は全体を見ている
昔から経理で優秀と言われる人たちは、社内の色々なところから情報を集めてきて、「今回あの契約があったはずだけで請求書出ていないんじゃない?」とか、そういう対応をして事故を未然に防いでいました。これは経理が「きたものを処理して、会計帳簿を作る仕事」だと思っていたら絶対に出来ません。全体の流れの中の最終工程に自分の業務範囲があると理解しているからこそ、「くるはずのものがきていない」ということに気づけるのです。

かといって、業務を超えてあらゆるところに口出しをしてこられても困ります。自分の業務範囲は意識しつつ、そこに繋がるまでの流れ、そしてその後の流れを意識するということです。一人で仕事をしている人などいません。そのことを理解しているかが重要です。

2.業務効率化は全体の流れを把握するところから

(1)自分の業務しか見ていない
業務改善コンサルティングの仕事をする際は、数時間のヒアリングをして、そこで現在の業務の流れ、困っていることなどを洗い出してもらうのですが、ほとんどの人は「自分の業務」の話しかしてくれません。例えば、請求書発行の仕組改善のプロジェクトなどもよく手掛けますが、いきなり「この請求書のデータを仕訳データにして取り込むにはどうすればいいか」みたいなところから話が始まります。

「最終的にはほぼ自動で仕訳データまで連携したい」という気持ちは分かりますが、それは一番最後の工程の話にすぎません。そこだけを掘り下げていっても会社全体の流れから見ると大した効率化になっていなかったり、むしろ局所的な改善が全体の効率化を阻害していることもよくあります。そこでだいたいこの図を用いて、そこに至るまでの流れ全てを含めて使用しているシステムやツール、そして作業の内容を書き出してもらうことにしています。上下に大きくスペースが空いているのはそこに書き込んでもらうためです。

この図を見てもらえれば分かりますが、一般的な経理がやっている「帳簿に記録する」という仕事は全体の中の最後であり、全体の処理の結果を記録しているに過ぎません。記録の仕方をいくら効率化しても改善のインパクトには限界があるので、全体の流れのボトルネックや改善インパクトが大きいところを見つけてもらうためにこの図はあります。

視野を「自分の業務」から「全体の業務」に広げることが必要なのです。

(2)ミスが起きる原因は仕組みにある
「請求書の発行にミスが多いんです」という課題があったとして、どういう解決策が有効でしょうか。「ダブルチェックを確実にやります」では根本解決になりません。請求書と一口に言っても、見込客に対するアプローチから始まり、見積もりを出し、受注処理をして、はじめて請求書が発行できます。重要なのはこの流れが可視化できているか、言い換えれば他者からチェック可能な状態であるかどうかです。ダブルチェックは目の前の入力ミスを防ぐことしかできません。この業務の流れの中で確実に「請求書が発行されているか」「発注書や契約書は受領できているか」等をチェックできる体制、またミスが起きにくく、ミスにも気づける仕組みをどう構築するか、という観点が必要なのです。

そのために「実際にどういうツールを使って、どういう流れで請求書が発行されているのか」を書き込んでもらうのですが、Excelで顧客管理している企業などでは、見込顧客リスト、契約書の一覧、納品有無、請求書発行管理がすべて別のExcelを使っているということがよくあります。マニュアルには「見込客から発注があったら、契約書管理表に記載して・・・」という感じで転記の指示が続くのですが、これでミスをしない方が不思議です。人間はミスをする生き物です。ミスが起きるのは仕組みに大きな原因があります。そして、そういう仕組みの中で業務をしていても疑問に感じないのは、「全体の流れ」が見えていないからなのです。

(3)全体の流れを俯瞰して見る癖をつける
バックオフィスには、その分野の職人になってしまう人が結構います。その分野の知識と経験もあり、企業独自の運用にも精通されていて、「その人がいなければ運用が回らない」みたいな人です。ただ、話を聞いてみると実はそんなに高度なことはしていないことがほとんどです。むしろその人がそこに居座っているために非効率な運用が非効率なまま放置されているのではないか、と思うことも少なくありません。

職人の方がやっていた作業はそんなに遠くない将来にAIに置き換えられますが、そもそも業務フローをきちんと整えれば、そんな作業すらも必要なくなるでしょう。職人の方は非常に優秀で愛社精神も強く、面倒見もいいのですが、自分の目の前の作業しか見ていないので、いつまでたっても業務フローは改善されず、むしろ職人の方が全体の流れの中でボトルネックになってしまうのです。

バックオフィスには色んなところから仕事が降ってきますので、受動的にいわゆる「モグラ叩き」をしていると1日が終わってしまう、という人も少なくないでしょう。でも、そこでひたすらモグラ叩きをしていても、きっと上司からもそんなに評価されませんし、心身ともいつか燃え尽きてしまいます。

押し寄せてくる業務に埋もれてしまいそうな時こそ、少し立ち止まって全体の業務フローを俯瞰して見るようにしましょう。あなたのところに流れ着くずっと以前に、必ず問題のある箇所があるはずです。根本解決をしない限り、いつもトラブルだらけでモグラ叩きが終わることはないのです。

自分の部門以外を巻き込んで全体の業務フローを変えるのにはかなりのパワーが必要です。しかし、いきなり業務フローを変えるところまでいかなくても、俯瞰したことで見えてきた問題点を把握しておくだけで対処の仕方は全く変わるはずです。

自分の業務にこだわりとプライドを持つことは否定しません。しかし、その業務が別の業務からの流れで繋がっているかぎり、自分もしくは自部署という局所での最適化や改善には限界があります。トラブルだらけで大変なときほど、俯瞰して全体の流れを見てみる癖をつけましょう。それがただの職人から脱却するための第一歩です。

3.まとめ

「全体の業務フローを意識しろ」ということを言いたかっただけなのになんだか長々と書いてしまいました。正直、これができているバックオフィスの人にはほとんど会ったことがありません。きっと日々の業務に忙殺されていて、「そんなことを考える暇もない」というのが1つと、もう1つは「全体の業務フローなんか変えられない」と思い込んでいる、というのが大きな要因だと思います。

バックオフィスから発信して業務フローを変えることはできます。むしろ、最終工程を担うバックオフィスだからこそ、インプットからアウトプットまでをきちんと考えた全体の業務フローを設計することが出来るのです。

バックオフィスは直接売上を増やすことはできません。しかし、社内の業務を効率化して、営業がもっと活動できる時間を作ったり、数値の取りまとめにかかる時間を削減したり、会社全体のミスを減らしたりすることで、もっと売上を増やしたり、本当の意味でのコストを削減することに大きく貢献することはできるはずです。

AIがどんなに発達しても全体を設計したり、業務フローを整えたりするのは人間しかできない仕事のはずです。将来消える仕事から脱却するために、どんな仕事をしていても常に全体の業務フローを意識しましょう。

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