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Excelの功罪

ビジネスの現場にいるならExcelを使ったことがない人はまずいないでしょう。Windowsがこれだけビジネスシーンで標準的に使われるようになった一因は「Excel(Office)があるから」という部分が大きいのではないでしょうか。WordやPower Pointも今のビジネスには欠かすことのできないツールの1つであり、むしろMicrosoft Officeなしでは仕事をすることが考えられない、という人がほとんどだと思います。

さて、今回はその中でも「Excelの功罪」というだいぶ含みあるタイトルで、ビジネスの現場におけるExcelの使い方についての私の思うところを書いてみたいと思います。なお、Googleスプレッドシートも機能が向上してかなりExcelと遜色のない使い方ができるようになってきましたが、高度な使い方をする人ほど「やっぱりExcelじゃないとダメだ」となることがまだまだ多いと思いますので、今回の記事はあくまでもExcelについて書いています。

以下がアジェンダです。

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1.Excelが優れている点
・超簡単な計算プログラムツールExcel
・Excelが向いているのは「データの加工」

2.Excelがダメな点
・基本的には「オフライン」で使うツール
・他人が作ったExcelはメンテナンスできない
・大量のデータは苦手
 
3.まとめ
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1.Excelの良い点

(1)超簡単な計算プログラムツールExcel

Excelは基本的には計算プログラムツールです。表やグラフを作ったり、印刷用に整形したりとかももちろんできますが、それはオマケであってメイン機能はあくまでも計算プログラムであり、それを誰でも簡単にできるようにした、という部分がExcelが優れている部分です。

Excel初心者かどうかは「if」系や「lookup」系の関数が自由に扱えるかどうか、ボーダーラインだと私は考えていますが、ここがまさに「Excelを計算プログラムツールとして使えるかどうか」の境目です。四則演算やSum関数などは誰でも使えますが、これらの関数は「もしAというセルにBという値があったら、Cという値を返す、そうじゃない場合はD」などの分岐処理が簡単に作ることができます。一見すると複雑なように見えますが、慣れてしまえばなんてことはありません。

(2)Excelが向いているのは「データの加工」

「if」系や「lookup」系の関数が理解できれば他の条件関数もほぼ理解できますので、Excelの用途は一気に広がります。「こんなことできないかな?」と思ってググってみると、だいたいその用途に合った関数を見つけることもできます。そうすればどんなデータであっても自分の思い通りに加工することができます。

これがExcelの真骨頂です。複数のデータを組み合わせたり、該当の条件に合うものだけを抜き出したり、自由自在です。一時的な計算をさせるためのセルやシートを用意すれば、より複雑な条件で値を算出することもできます。また、見せたくないセルやシートや非表示にすることもできますし、条件付き書式を使って特定の値を目立たせることもできます。

こうやって無味乾燥だったデータの山が、Excelで加工することよって意味を持ち、使えるデータに変わっていくのです。手軽に誰でも使えて、しかもちょっと勉強すれば複雑加工もできるということからExcelはビジネスにおける標準ツールの1つになりました。

2.Excelがダメな点

(1)基本的にはオフラインで使うツール

Excelは非常に優れたツールではありますが、基本的には各自のパソコン上だけで使うことを想定したツールです。発明された当時にはインターネットなどの通信インフラが整ってなかったことを考えると当然といえば当然ですが、クラウドが当たり前になった現代においても、Excelがオフラインで使うツールという大前提は変わっていません。

もちろん、Excel OnlineやGoogleスプレッドシートなどの「クラウド上で使うExcelっぽいツール」はあるのですが、Excelをがっつり使う人ほどこれらのツールの物足りなさを実感していることでしょう。いわゆるExcelはいまだにオフラインツールなのです。

複数人で1つのExcelを使うというやり方は、クラウドソフトに比べると非効率な部分が多すぎるのです。

(2)他人が作ったExcelはメンテナンスできない

Excelはセル単位に関数を入れていくことで簡単に条件設定や計算ができますが、逆に簡単にできすぎるためにExcelの表のために「設計書」や「要件定義書」を作る人はまずいませんし、コーディングのようにコメントアウトすることもできないので、複雑な関数になればなるほど、それを作成した人の意図を読み解くのはかなり難しくなります。他人が作ったExcelを見ると、なぜその関数を選択したのか、どうしてそういう条件判定にしているのか、と首をかしげたくなることも少なくありません。Excelは複雑なものになればなるほど、作った人にしかメンテナンスできなくなります。

今のような人材流動性が高い時代において、これは致命的です。ある程度の規模の企業のバックオフィスには「Excelの神」みたいな人がだいたい1人はいますが、その人がいなくなった瞬間に誰もそのExcelファイルを使うことができない、という場面に遭遇する機会も増えました。業務の中に複雑なExcelが登場する機会が多ければ、企業としてこれはかなりのリスクになります。

ミーティングで報告するためのレポートを作るためにデータを分析する、という使い方はいいのですが、Excelを使ってデータベースのようなものを構築してしまうと、作った人にしか更新することができない非常に汎用性の低い仕組みを抱えることになります。
SFAやCRMがクラウド上で完結することになったにも関わらず、相変わらずExcelで色んなものを管理しようとするのは非効率としか言いようがありません。

(3)大量のデータは苦手

Excelのもう一つダメな点としては、「大量のデータが苦手」というものがあります。ここでいう大量とは数万件以上ぐらいの意味です。「今月の売上一覧」程度であればいいのですが、マーケティングや顧客のデータなどであれば数万件はあっという間です。

そして、大量データ処理のために計算用の列やシートを使ったりしますので、処理はどんどん重くなります。そうなるとExcelが頻繁に落ちたり、固まります。日常運用の中に大量のデータをExcelで加工すること組み込むことオススメしません。

前述のメンテナンスしにくいこともそうですし、Excelはそこまで大量のデータを処理するためのシステムではないということを頭に入れておいた方がいいでしょう。

3.まとめ

今回の記事はExcelをディスるために書いたわけではありません。私自身Excelがなければ仕事にならない局面は多いですし、Excelは非常に便利に使わせてもらっています。ただ、Excelを「なんでも出来るツール」という勘違いには大きくNOと言いたいと思ってます。

世の中に何でもできるツールは存在しません。そのツールの良い点・ダメな点をきちんと理解した上で、最適な使い方をしないと業務効率は格段に落ちますし、やりたいことの10分の1もできません。

Excelは便利で色んなことができますが、その限界やExcelの向き不向きをきちんと認識した上で使うべきです。例えば、Excelで顧客DBっぽいものを作ることはできなくもないですが、本当のDBのようにデータ間の関連性や親子関係をつけての管理は出来ないので、顧客数が100を超えたあたりでだいたい破綻します。

Excelはその機能からすれば利用料は安すぎるぐらいですし、業務上必須のツールなのでほとんどのPC・Macにはインストールされていると思いますが、だからといって「なんでもExcelでやる」必要はないのです。特にチームや会社全体で管理するべきデータ管理をExcelで絶対行ってはいけません。属人化してメンテナンスができなくなりますし、維持管理に多くの工数もかかります。ツールの導入費用などは削減できているかもしれませんが、それを上回る運用コスト(ほぼ人件費)がかかっているはずなので、Excelだけで頑張るメリットはほとんどありません。

SFAやCRM、そしてチームのタスク管理や進捗表、プロジェクト管理などは絶対にExcelでやるべきではありません。「こうすればExcelでできる」とかそういうことはどうでもいいのです。Excelでやることで維持管理もできなくなるし、slack通知などの連携も出来ないし、勝手にアップデートされることもありません。今は安くていいクラウドツールも増えてきましたので、Excelだけで完結させるのはやめましょう。

結局は、Excelに限らず「ツールは正しく使いましょう」ということがすべての業務効率化への第一歩です。その中で、Excelが得意な人ほど「なんでもExcelでやってしまう罠」にはまりがちな場面を多く見てきましたので、今回の記事を書きました。Excelは簡単で便利に見えて、しかも使い込むと奥が深くて面白くなってしまいExcelでなんでもやってしまう、という部分にまさにExcelの功罪があるような気がします。

繰り返しますが、Excelが素晴らしいツールであることは全く否定しません。しかしそれで何でもやってしまうのは、むしろ組織全体の業務効率を落としています。Excel職人になって独立するわけでもない限り、Excelは「それなりに使える」程度で十分なのです。

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