コミュニケーションツール

コミュニケーションツール〜チャットに通知を集約する〜

月に1回、新宿3丁目にある参謀バーでひっそりと開催される「クラウドツールのTips共有会ークラウドチップスー」というイベントがあります。毎回クラウドツールの1つの領域を取り上げて、それについて事例を共有したり、ディスカッションをすることでお互いに理解を深めることを目的にしています。

10月度は「クラウド会計」というテーマに対して、『MFクラウドとfreee』と題して税理士でありコンサルタントでもある私なりの見解を踏まえてお話しをさせていただきました。

11月度のテーマは「コミュニケーションツール」。今回はプレゼンではなく、パネルディスカッションという形でだったのですが、「Chatworkとslackどちらがいいか」といった狭い議論になってしまうことを避けるためにコミュニケーションツールをもっと広義で捉えるためのスライドを作って参加しました。そして、そのスライドに当日のディスカッショの内容も加えて作成したのがこちらのスライドです。

私が事前に作成したのは、セクション1の「コミュニケーションの型」まで。それ以降は当日のディスカッションの内容をまとめる形で作成しています。

今回の結論自体は「チャットは情報のハブとして使い、雑談以外のコミュニケーションをしていけない」というあまり新規性はないものです。ただ、これを組織の中で徹底するためにはかなり厳格に運用ルールを決め、かつそれをしっかりと運用しなければなりません。

「slackを使うことで大量のチャットが飛び交い生産性が下がった」と言っている会社はこれが実施できておらず、slackをきちんと使いこなせている会社は「slackでやるべきコミュニケーションと、別の場所でやるべきコミュニケーション」がきちんと切り分けられているのです。

ツールは目の前の問題を解決するための魔法の杖ではありません。そのツールをどのように使うかが問題なのであって、ツールの機能自体に問題がある場合はほとんどないのです。最近、数社から「slackをやめて○○に乗り換えた」という話を聞きましたが、社内のコミュニケーションをどのようにするかという整理ができないままツールを乗り換えたとしても、すぐにまたコミュニケーションが破綻するという問題が起こることでしょう。

社内のコミュニケーションはチャットが一般的になりつつあります。しかし、チャットの便利さゆえにチャット疲れという問題も発生しています。それらを解決するのはツールの機能ではなく、ツールをどのように使うかという利用者側のリテラシーの問題なのです。

ここから先は編集後記となります。当日話した内容ではありませんが、このスライドの背景となる部分を掘り下げた内容になっていますので、お時間があれば読んでいただけると嬉しいです。

2016年の前半に『slack、君と別れようと思う』という記事が日本でもちょっとバズりました。当時のslackはまだ日本語化もされておらず、IT系以外の企業ではほとんど使われていなかったと思いますので、この内容が刺さる層もごく一部で、記憶にある人はあまり多くないかもしれません。

この記事のテーマはまさに今回「チャット疲れ」として取り上げた事象そのものです。slackが登場したことによって、多くの人はメールによるコミュニケーションを葬り去りました。slackによってコミュニケーションはより簡潔でスピーディーになり、仕事のスピードも上がっていくはずでした。しかし、実際に起こったのは押し寄せてくる大量のチャットに埋もれ、そのチャットを確認することに時間を奪われてしまう、ということだったのです。

そして2018年、日本でもslackから乗り換える会社が少しずつ出始めています。

「2時間打ち合わせに入ると未読通知が100件を超える」
「チャンネルがたくさんありすぎて、いったい何が起こっているのかを把握できない」
「チャンネルの中で物事が決まってしまいので、議論に乗り遅れないためにずっとslackを開いていて、全く仕事にならない」

slackに限らずチャットがコミュニケーションの中心になっている企業では多かれ少なかれ似たようなことが起こっているのではないでしょうか。仕事を進める上でコミュニケーションは非常に重要なのですが、コミュニケーションだけをしていて仕事が完結するという人はほとんどいません。

タスクの依頼はタスク管理ツールでするべきだし、後から見返すべき情報はストックツールに記載して共有するべきです。これらの情報はチャット上で見る必要はなく、適切なタイミングで通知が届き、詳細は各ツール側で見るべきものです。ストック情報をフローであるチャット上で扱うこと自体に無理があり、そのために利用者側に無駄な確認の手間がかかっているのです。

オールインワンのツール、というものは幻想だと私は思っています。オンプレミスではなく、せっかくクラウド上のツールを使うのであれば、適材適所できちんと使い分けて必要な部分は連携させることが重要であり、そのためには全体の設計と運用ルールが大事です。

古くて新しい課題であるコミュニケーションの円滑化は、slackの登場により一気に次のステージまで進みました。人数が多い組織ほどコミュニケーションの課題を解決するのは困難です。きちんとした運用ルールの存在だけがこれらを解決できるはずだと私は思っています。

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