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手戻りの負荷

こんにちは、BYARDの武内です。
Netflixで『ザ・プレイリスト』をようやく見始めました。

Spotifyのヘビーユーザーとして(1日4〜5時間ぐらいは再生しています)、スタートアップの経営者として、非常に興味深く見ています。1話ごとに視点が変わり、「それぞれの視点から見たSpotifyを立ち上げる話」という構成になっているのもいいですね。

個人的には第3話の弁護士の視点での話が面白かったです。私も税理士としてある程度法律には知見はある方なのですが、法律という枠組みの上にどういうロジックを組み立てれば、関係者みんなが納得が出来る絵が描けるかを考えている過程は、本当にクリエイティブだと思いました。モノを作ることだけがクリエイティブではなく、交渉やロジックの組み立てにもクリエイティビティは必要不可欠ですね。

さて、今回のnoteは「手戻り」についての考察です。

1.手戻りを侮るな

手戻り

作業手順を間違えて作業をやり直すこと。 また、関連する作業の後先を逆にしたため、 工程を元に戻してやり直すこと。

Weblio辞書より

業務プロセスをお客様と一緒に組み立てていく際、「ミス」や「手戻り」をどうやって防ぐか、という話になることがよくあります。ユーザーへの周知不足なのであればドキュメントを充実させる、チェックが不十分ならチェック項目をもっと明確にする、など対策はいくらでも立てられますが、ではなぜ「手戻り」をすることがダメなのでしょうか。

ミスはダメ、ミスをするな、と怒ったところで解決しません。ミスをするのが人間なのです。かといって、すべてを自動化することも不可能です。現時点でのシステムが代替できるのは、単純作業で、かつ、すべての情報が完璧に揃っている場合だけだからです。

ミスが発生し、手戻り(やり直し)が発生することによる問題は、「工数が多くかかること」です。1件処理をするのに理論上は10分だと見積もったとしても、手戻りが発生すれば当然に10分では処理は終わりません。これが積み重なると工数は雪だるま式に膨らみ、「見積通りに業務が終わらない」という事態を引き起こします。

余談ですが、私はバックオフィス業務における「工数を正確に計測する」ことに対して、一貫して「意味がない」という姿勢を取っております。前回のnoteでも書きましたが、バックオフィスはセル生産方式であり、個別対応が求められるケースも多く、かつ、手戻りが発生すれば当然に余計な時間がかかるからです。

工数の計測、比較は「全く同じ状況で同じ作業をする」という大前提があってこそ意味があるものですが、バックオフィスの業務でそれが成り立つ状況というのは極めて狭い範囲に限られます。よって、数値を単純に計測し、比較しても本質は全く見えてきません。工数を記録することそのものがかなり現場への負荷になりますし、そもそも自動に計測してくれない限りは正確性も怪しいものですので、そんなものにリソースをさいても実りは薄いからです。

話を元に戻しましょう。業務において手戻りの発生有無は非常に重要な問題です。工場のように同じモノを同じ品質で作っている場合、一定時間における生産量などで生産性が比較的簡単に計測できるため、いかにミスが発生しないように工夫をして対応しようとします。

一方で、バックオフィス業務においては、人間が対応している部分が多く、手戻りが発生した場合でも、担当者が柔軟に対応をしてしまい、処理を進めてしまいます。単純な工数の計測&比較は意味がないのですが、今度はそれができないことによって、こういう人間ならではの柔軟な対応をしたことが、マネジメント側にも伝わらないのです。

手戻りが発生してもそれが記録もされないし、アラートも鳴らない。それを繰り返すうちに業務はどんどん柔軟に改変され、属人化していきます。日本は特にこの傾向が強くて、「現場力」などといってこれが日本の素晴らしさだ、みたいに美談にする方もいますが、業務全体のコントロールや属人化の排除、業務の再現性、といった観点で大きな問題です。

担当者自身は全く悪くありません。業務のルール整備やマニュアルなどのドキュメントに不備があったり、業務プロセスが良くなくてスムーズに進まなかったりしてしまうため、現場の担当者が好意でこれらに柔軟に対応してしまうのです。

これが個別最適が横行し、全体最適がいつまでたってもなされない原因なのです。マネジメント側の問題ですが、仕組み上、マネージャーがそもそも「手戻りが発生していること」に気付くことが難しいことも問題を根深くしています。

2.自動化ができない理由

GPT-4が急遽リリースされ、Twitterはこの話題でもちきりです。AIの進化が著しいことは素晴らしいですし、人間よりもAIが得意な分野についてはどんどん対応してくれそうな未来が見えます。

一方で、だからといってすぐにでも業務がAIに置き換えられてしまう、という話でもありません。ちょっとした会話レベルならまだしも、業務を進めるという領域においては、私たち人間はかなり高度なことを無意識でやっているからです。

GPT-4は司法試験に合格するレベルだ、という記事がありましたが、それはペーパーテストの上だけの話です。そもそもペーパーテストの点数は「知識」を測る上での1つの側面でしかなく、テストの点数が高い人と優秀な弁護士は必ずしもイコールではありません(相関性は高いとは思いますが)。

本来、人間がやるべき業務は、冒頭で紹介した『ザ・プレイリスト』の第3話のように「Spotifyが音楽業界と契約して合法的に音楽を提供するために、法律的な解釈を踏まえた上で、双方にメリットがあるスキームを構築する」みたいなことです。

スキームが思いついたとしても、それを双方の関係者に説明し、納得させ、契約書を締結するところまで持っていく必要があります。現時点では、AIは人間の優秀なアシスタントにはなると思いますが、人間の仕事そのものを代替するものにはなり得ないと思っています。

ここに私がいつも「業務の完全な自動化などできない」と言っている要因があります。私たちの業務はAIごときに代替されるほど単純でもないし、機械的に処理されるだけでは困るからです。

マクロやRPAを使って処理を自動化する試みは至る所で行われていますが、それは業務プロセスのほんの一部に過ぎません。業務上で考慮することが多い場合や、手戻りが頻繁に発生してしまうような業務を自動処理にのせると、逆に対応の手間が余計にかかってしまうため、結局は活用範囲を絞り、柔軟に対応が必要なところは人間が対応することになります。

そして、時がたち、業務プロセスの変更が必要になった際、マクロやRPAを構築した人が既にいなくなっていると、更新することもできなくなり、結局もとのすべて人間が対応するプロセスに戻ってしまう、というよりもよくある話です。

すべてが完璧に自動化できればいいのですが、それは絵に描いた餅なのです。完璧な自動化などあり得ません。

3.BYARDは業務プロセスを可視化する

BYARDがRPAやiPaaSなどのプロダクトが既にある中で、あえて「業務プロセスの可視化」という部分からこの分野に切り込んでいるのは、そこにこそ本質があると考えているからです。

最終的には業務の効率化、生産性の向上などをゴールに見据えていることは他のプロダクトと同じです。ただ、BYARDを開発する前にヒアリングをした限りでは、まだ本当の意味での自動化に取り組むには時期尚早だと感じたのです。

そもそも自分たちの業務の全体像がどうなっているか把握していない、どこでどういう原因で手戻りが発生しているか誰も知らない、そういう状態では自動化どころか、新しいツールの導入や業務の改善などもうまくいくはずがありません。

私が業務設計士®としてコンサルティングに入る際は、初回のミーティングでは必ず、「現状の業務プロセスを書き出す」ワークをやっていました。マニュアルや業務フロー図があったとしても、それらは形骸化していることが多く、参考資料にはしますが、とにかく関係者を一同に集めて一緒に書き出すというワークが必要不可欠でした。

業務プロセス全体が思い描けている人がいる会社はまれです。というよりも、そういう人がいる会社は業務がカオスになったりしません。業務プロセスの全体像が誰にも見えていないから、個別最適でチグハグなことをやってしまい、効率化からどんどん遠ざかってしまうのです。

React FlowをベースにしたBYARDのストリームを構築する機能には、そんな思想が込められています。とにかく現状を可視化する、すべてはそこから始めるべきなのです。関係者みんなで同じモノを見る。そこを揃えてこそ、ようやく「どうやって改善していくのか」の議論ができます。

BYARDは、現状の業務プロセスの書き出しから、実際に業務を回し、そして改善をしていく、という流れを一気通貫できることにこだわってシステム化しました。それぞれの処理ができるシステムは無数にあります(むしろ、Excelでもできます)が、これらのプロセス全体を1つのシステム上でできることに意味があり、それでしか見えてこないものがあると、私自身の経験では理解しています。

「手戻り」の負荷を数値化する、というよりも、「こういう風にすれば手戻りが起こらないよね」という認識を関係者みんなで共有し、それを自分たちの業務の型にまで昇華していく。これこそ「業務設計」の本質です。

設計して終わりではないからこそ、ずっと改善し続けることが必要だからこそ、アナログよりもデジタルの方が向いているのです。だからBYARDを作りました。

まだプロダクトとしては発展途上ですが、「業務プロセスをサクサク組み立てる」という部分についてはかなりいい感じになっていますので、ご興味がある方はぜひ一度お問い合わせください。

採用関連情報

BYARDは積極採用中です。求人一覧にない職種でも「こういう仕事ができる」というものがあればご連絡ください。

まずはカジュアル面談からで結構です。お気軽に30分お話ししましょう。

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