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#いいねの数だけ隠れた名曲を紹介する - Kasei (Extended) /Alexander Winn

Twitterに  #いいねの数だけ隠れた名曲を紹介する  というハッシュタグがあったのでリツイートしたところ、反響があったので少しずつ取り上げていこうと思います。いいねの数だけとのことですから、何曲になるのかは分かりません。

Kasei (Extended) /Alexander Winn

"Kasei (Extended)"はスマートフォン向けゲーム「TerraGenesis」のサウンドトラックです。

『TerraGenesis』は、米国のSF作家アンディー・ウィアーが2011年に発表した小説『火星の人』を原作に制作された惑星開拓シミュレーションゲームです。ゲームでは様々なパラメータを調整することで、生物が居住できない状態の惑星を開拓し、居住可能な環境を生み出すことを目指します。

"Kasei"のトラックは、ピアノ、ストリングス(トレモロ)、チェロ、クラリネット、銅鑼のたった5パートしかありません。しかしこの楽曲は、その5パートでゲームの世界観全てを表現しており、そして何を表現したいかが明確に伝わってきます。それがこの楽曲を著しく優れた作品にしている理由です。

ディレイと深々リバーブの掛けられたピアノは宇宙空間の浮遊感と無重力感、トレモロ奏法で和音を奏でるストリングスは未だ生物が存在できない惑星にかすかに存在する大気のかすかな気流、そしてそれに応じてわずかに舞う土煙を、1小節目の1音目で表現してしまいます。

次に2小節目からチェロがソロで登場します。これは前人未到の惑星に最初に向き合う人間の孤愁感と、そこにこれから根付くであろう人間の営みを巧みに表現しています。

弦楽器と言うのは土の上で暮らしを営む人間の生活や文化を象徴する楽器です。イングランドやスコットランド、アイルランドを始め、アメリカ大陸に至るまで伝統音楽や民族音楽の演奏に用いられるフィドル――ヴァイオリンをその例に挙げることができます。

チェロの演奏が終わると、クラリネットが登場します。やはりこれもソロです。ソロで奏でられることは、そこにプレイヤー以外の人間が存在しないことを意味しているのです。そしてこのクラリネットはピアノと同じく、宇宙の重力感や浮遊感を表現するために用いられています。

これら4つの楽器の組み合わせにより、宇宙の無重力感や地球外惑星における大気感、そして人間の存在感や大地の存在感を、それぞれ絶妙なバランスで表現しているのです。

チェロとクラリネット、2つの楽器がメロディーを終えると奏でられる銅鑼は、プレイヤーにとっての開拓物語の「始まり」と「異世界」を表現しています。銅鑼は諸説ありますが、南方アジアに由来するとも言われ、古代中国では戦の始まりや終わりを告げるために、日本では出船の合図や茶の湯などで用いられました。その後18世紀ヨーロッパに渡ると西洋音楽において打楽器として取り入れられましたが、アジア由来の楽器として楽曲に独特のエキゾティズムを添えるために用いられます。

たった5パートでゲームの持つ世界観を表現できる作品はそう多くありません。当世のゲームサウンドトラックの中でも、特に優れた楽曲と言えるでしょう。

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